第034話 21戦目(5)


 「マジか」


 「大マジですよーっ」


 その言葉で少し安心してホッとしたそのとき、


 『『『ゴブブブブブブブブブブブブーーーーッ!!!!!!!』』』


 お返しとばかりにゴブ達の咆哮が、轟く。


 そして引くことのないたけ気魄きはくせめぎぎ合い。

 お互いに譲る気はないようだ。


 うんうん。

 ゴブ達の方が優勢かな。

 まあ、数に差があるからね。


 それにしてもー。

 攻めてこないね。


 怒髪衝天どはつ しょうてんのオーク達。

 目が血走り今にも爆発しそうだが、突撃してこず。

 徹底してディフェンス。


 猛攻を耐え凌ぎながら仲間の数が増えるのを待っているようだ。


 うんうん。

 なるほどね。

 まあ、予め取り決められた作戦であろうが、敵ながら冷静な対応だと思う。


 そして無駄なく合流していくオーク達。

 一定数毎で防御陣形を築き始め、攻勢への準備を着々と進めているようだ。

 それと部隊編成も。


 降り立った場所では孤立したオークが集中砲火を受けて、耐え切ることができずにそのままお亡くなりなるパターンも。

 そんな激しい応酬の最中、今やオークの陣形が5つほど形成されつつある。

 更にその中には辛うじて逃げ切りに成功した敵ゴブリンの姿も。


 「……地面にー降りったのは?」


 「んーどうでしょうかねー。概算ではー敵オークが7割強ですねー」


 「ほー意外に多いねー。息も絶え絶えのヤツも少なくないと思うけどー」


 「陣形に辿り着いたものはー、ポーションか回復役かは分かりませんがー既に前線復帰してますねー」


 「抜かりなしかー。あ、敵ゴブリンは?」


 「んーとですねー。えー2割強ですかねー」


 「おー、そんなにも」


 「ええ、頑張りましたねー」


 「よし、やれっ」


 えっ!

 無慈悲なシロツキの号令。


 えーと。

 空中戦はこのままだよね。

 動きがあるとすれば落下地点である。


 お!

 予想通り、ゴブ達の陣形に動きあり。

 包囲している岩石部隊が一定間隔で退き、新たにオークへの射線が生まれる。

 その空いたスペース後方から控えていた部隊が前進して詰め、そこから放たれる――


 魔法攻撃。


 ――バッ バチバチバチバチンッ  

 ――ドッ ドドドドドドドカンッ

 ――ザッ ザザザザザザザバンッ


 ――ゴッ ゴゴゴゴゴゴゴゴワッ

 ――ヒュッ ヒュヒュヒュヒュビュッ


 四方からの幾重いくえにも色とりどりの魔法が高速に飛び出し、怒涛の集中砲火。

 当然、岩石による投擲も再開される。 


 おおおお。

 魔法だ。


 このタイミングか。

 それにしてもー、凄っ。


 流石に耐えることが出来ないようで陣形が崩れ、抵抗できずに次々と討ち取られていくオーク達。

 それも集中砲火に晒されてしまった体は原形を留めること適わず、無残な肉片へと変わり果てていく。


 南無。


 周囲はゴブ達の包囲網で逃げ場なし。

 謂わば、四面楚歌。


 んん?

 おー、もしかして。

 突破か。


 「やりましたねー」


 「……漸くな」


 「時間は掛かりましたがー、致し方なしですねー」


 「タイプアップする可能性もあったと考えるとー、期待以上だな」


 「うんうん。上々ねー」


 2人の話からも間違いない。

 無理かと思っていた9階層突破をゴブ達が成し遂げたようだ。

 そして攻略状況ボードでは10階層へ雪崩れ込むが如く、生存個体数が急上昇している。

 

 次は10階層か。

 大丈夫だと思うけどね。

 9階層同様に難航するのか気になるところ。


 「10階層も時間がー掛かりそう?」


 「いえ、タオ様。それはーないかと」


 「え、そうなの?」


 「はい。新たな防衛ラインを敷くリソースがないかと」


 「余力があるならー、9階層で使ってるはずですよー」


 「ほー、なるほど。余力かー」


 「はい。これが最後の一戦ならば出し渋らずにまだ繰り出してくる可能性はありますが……」


 「ダンバトは続くからなー。今回うちのために準備したリソースは在庫切れってことね」


 「ですねー。なのでーここからは攻略ペースが上がるはずですよー」


 ほうほう。

 実に素晴らしきかな。

 イイね。


 2人からのお墨付きは、安心できる。

 開きが如実に表れた対戦スコアは、


  (タオ)      (フウカ)

 237,557 VS 99,333


 圧勝ですな。

 現時点での状況からフウカの逆転の目はない。多分だけどね。


 「決まりましたねー。タオ様っ」


 「……んー転移の増援は止まったっぽい、かな」


 「……新たな転移はー、ないかと」


 地表こと入口周辺での新たな動きは、なし。


 一方、敵ゴブリンとオークの肉塊で埋まる穴下こと落下地点。

 死屍累々。


 だがそこで孤軍奮闘と最後まで足掻くオーク・リーダーが1体。

 しかしそれも終わりのようで、防ぎ凌ぐのにも適していた大型のバトルアックスこと戦斧せんぷが――


 ない。


 彼の右後方に腕と共にころがっているのだ。


 ――ヒューッ ザシュッ


 そこへ不意に通り過ぎる一陣の風。

 刹那、体から離れ後方へ舞う――


 首。


 主を無くした立派な体躯には耐えに耐え抜いた証の傷跡が、体中に刻まれている。

 まさに威風堂々。

 須臾しゅゆにして砲撃が止み、静寂の訪れと共にゆっくりと――


 倒れるのであった。


 そしてそれを横倒しで、鬼気迫る表情のまま固まった首が見つめている。


 おっとと。

 丁度偶々アップされたシュールな映像に、固唾を吞む。


 でもー、これが現実か。


 反対に地表こと入口周辺に残り続けるオーガ。


 「……オーガは、出てこないねー」


 「んー情報収集ですかー、あれ?」


 「双眼鏡だねー」


 別途用意してあった通常サイズのロープを命綱に、巨穴縁から下を覗くオーガ達。


 「タオ様、地表に部隊を送りますか?」


 「いや、それは必要ない……と言うか、放置で」


 「んー放置、ですか?!」


 「え、放置? なぜですかータオ様」


 訝しむ2人。

 疑問に思うよね。


 「昼前に知ったんだけどねー入口と転移陣周辺はペナルティーエリアっぽい。それに伴い討伐時はー、ガッツリ減点されるみたい」


 「ほー、ペナルティーエリアですかー。了解です」

 

 「討伐は問題なく可能でー、減点ですかー」


 「そうそう。討伐ポイントは0でー、対戦スコアの方がカッツリ減点」

 

 その事実は俺だけでなく同期達も知らなかったようで、掲示板ではガッツリ減点された者達が一生懸命に騒いでいる。

 一応説明を読み直したら最後の方に、『明白あからさまな待ち伏せはダメですよ』的な感じで記載されていた。


 ハッキリ書いてくれないと誰も分からないと思う。 


 俺も当然、地表への襲撃を視野に入れていたので危なかった。

 昨日はたまたま撃破ポイントをあげたくない一心で、行動へ移すことなく難を逃れただけである。


 と言うことで安心して寛ぐオーガ達を野放しに。


 取り敢えずは防衛に関しては、もう大丈夫そうである。多分だけどね。

 彼らが特段に何かしらの準備をしている様子を見せていないから、別の魔物が新たに送り込まれる可能性は低い。


 それに残り30分弱。


 ――ピローン♪


 お!

 着信音と共に――


---------------------------------------------------------------

フウカ・トドロバネからのフレンド申請を許可しますか?

 Yes / No

---------------------------------------------------------------


 フウカからのフレンド申請が表示。


 対戦中のフウカだよね。

 んー、どうしよう。


 まあいっかと軽い気持ちで『No』をタップ。


 ――ピローン♪


 再びの着信音と共に――


---------------------------------------------------------------

フウカ・トドロバネからのフレンド申請を許可しますか?

 Yes / No

---------------------------------------------------------------


 再度フレンド申請が表示。


 お、根性あるな。

 拒否されたらー、俺だったらへこむ。


 まあ、さっきのは冗談。

 ではと気持ちを切り替えて『No』をタップ。


 ――ピローン♪


 透かさず鳴る着信音と共に――


---------------------------------------------------------------

フウカ・トドロバネからのフレンド申請を許可しますか?

 Yes / No

---------------------------------------------------------------


 再三さいさんのフレンド申請が表示。


 んー、粘るな。

 フウカのメンタルタフネス度は高いようだ。


 気持ち的にもう少し試してみたいが良心の呵責かしゃくにより渋々諦め、『Yes』をタップ。


 ――ピローン♪


 再三再四の着信音に恐怖も感じつつ、諦めフウカからの『ダンメセ』を開く。


------message------------------------------------------

  【フウカ】ちょっとー


【タオ】ん、どうした? トイレか


  【フウカ】そんなんじゃーないわよw 失礼ねー


【タオ】腹壊したとか?


  【フウカ】だからー違うってばっ! それよりも何で何度も拒否したのよー


【タオ】何となくー


  【フウカ】えっ、ほんとに?


【タオ】ノリ的なー


  【フウカ】ひどっ。傷ついたんだからねー


【タオ】マジごめん。で、用件は?


  【フウカ】謝罪がー、超軽っ。でもまーそれはおいてー、そうそう用件はーゴブリンよ


【タオ】ん、ゴブ。土足でお邪魔してます


  【フウカ】お邪魔し過ぎなのよー。ほんとにーゴブリンよね


【タオ】そっちの『ダンマップ』でゴブリンってなってない?


  【フウカ】なってるからー可笑しいのよ


【タオ】そっか。普通のゴブだと思うけどな


  【フウカ】黄色のヘルメットは?


【タオ】良く似合ってると思う


  【フウカ】じゃーお面は?


【タオ】お洒落と言うより流行?


  【フウカ】ピッケルは?


【タオ】趣味かなー。ゴブ達ーピッケルが大好きっぽい。ん、あれれー武器持ってない? 確か持って行ったと思ったけどー


  【フウカ】大事に腰と背中に携えてるわよー。でも使ってるのは、ピッケルよ


【タオ】マジか、アイツらw 相手ダンジョンに行ってまでも穴掘りかー熱心だなw


  【フウカ】うちのダンジョン、もう滅茶苦茶よー笑いごとじゃ、ないのよ


【タオ】悪いと言いたいが、今ダンバト中だよな


  【フウカ】それでもー限度があるでしょ


 チラッと攻略状況ボードを確認すると既に12階層へ。

 シロツキとアヤメの言う通り、攻略ペースが上がってるようだ。

 良きかな。


【タオ】そっちの様子を見ることが出来ないから、状況が今一分からないんだが


  【フウカ】ピッケルで片っ端からダンジョンの壁を魔物ごと破壊しながら進んでるのよー有り得ないでしょ。もう泣きそう


【タオ】いいぞ


  【フウカ】なんで背中を押すのよー


 チラッと見ると13階層へ。


【タオ】お、13階。やるなーアイツら


  【フウカ】えー、もおっ。信じられないっ


【タオ】驀進ばくしん中?


  【フウカ】驀進できないように作ってるのー。それにーゴーレムがー


【タオ】ゴーレム?


  【フウカ】あっ、でもー後でバレるかー。そうよゴーレムよ。強いんだからね


【タオ】でも突破されてるんだろー


  【フウカ】ええ、そうよ。もう泣いちゃうかも


【タオ】いいぞ


  【フウカ】だからなんで背中を押すのよー、もう。少しはー心配しなさいよ


【タオ】お、14階。


  【フウカ】え、早っ。次はー心配してよね。バイバイ

------------------------------------------------------------


 勢いよく一方的に接続が切られる。

 そしてその直後に――


---------------------------------------------------------

フウカ・トドロバネから敗北宣言がなされました

---------------------------------------------------------


 敗北宣言のお知らせが表示。


 お!

 フウカが諦めたようだ。

 そして間を置かずに、


--------------------------------------------------------------

ダンジョン戦(仮)個人戦ーB0746

:タオ・イエシキ VS フウカ・トドロバネ

:勝者は、タオ・イエシキ

--------------------------------------------------------------


 勝敗お知らせメッセージが表示。


 「……ふー終わったな」


 「はい。予定通りの圧勝かと」


 「やりましたねータオ様っ」


 えっ!

 予定通りなの?

 俺はこのように勝てるとは思ってなかったけど。

 僅差かなと。


 それよりも、


 「送ったゴブは?」


 「はい。3万6千強ほどで、死亡は1万6千弱かと」


 「……ん、予想よりもー生存率が高い?」


 「はい、こればかりは想定外でした」


 家のゴブ達がシロツキの想定以上に、強かったのか。

 フウカのところの魔物達が想定以上に、弱かったのか。

 将又はたまたその両方の可能性も。


 それにゴーレムとフウカが言っていたから、相性が良かった可能性もある。

 何となくだけどね。


 んー。

 分析しようにも交戦内容が見れない相手ダンジョンのことでは、厳し過ぎる。


 「あのー、タオ様」


 「ん、どうした?」


 「相手のマスターは、どうしてタオ様に連絡を。直ぐに敗北宣言すればー被害を少しでも抑えることが可能だったはずですねよねー。疑問です」


 「あ、それはねー俺がどのような人間なのか、知りたかったんだと思うよ」


 「被害拡大してでもー、ですか」


 「ああ、凄いなーと思うよ。次戦でより効果のある手を打つための情報収集を負け確定からー即やり始めるのだからねー」


 フウカの行動がどうもにもに落ちないようで、珍しく考え込むアヤメ。


 彼女の頭の中を覗いたわけではないので、実際は大した理由がなく気紛れと言うことも十分あり得る。


 まあ、予期せぬことがあったが、何はともあれ勝利。

 あとは、どうするかだよね。

 

 まだ相手ダンジョンへ突入するためにゲート前で待機中のゴブ達も、ヤル気満々。

 それとゴブ達の強さがどこまで通用するのか、もう少し確かめたい気も無きにしも非ず。


 そうこうしている内に強制送還によって次々と生き抜いたゴブ達がゲート周辺へ転移され始めた。


 どのゴブも出掛けた時よりもより大きく成長しているようだ。

 見た目的に。


 そんな中で極めて大きくなっている者がポツポツといる。

 おそらくは3次進化済みのナイトではなかろうか。


 成長が速いゴブならではの特性が遺憾なく発揮された結果だろう。多分だけどね。


 弱者でありながらも敗者にならずに生き抜くゴブ。

 そのたくましさの一端の現れなのかもしれない。


 そして凱旋ゴブ達が仲間から羨望の眼差しを受けつつ歓声を浴び、最高潮に盛り上がるゲート前を見ながら、次の対戦相手を探し始めるのであった。

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