第032話 21戦目(3)


 ゴブ達をフウカ側に問題なく送り込めているので、一先ず一安心することに。


 んで、こっち側ことうちのダンジョン防衛は、どんな状況かな。


 えーと。

 空中遊泳中の魔物はー、いないね。

 てっきり飛翔タイプ中心にガッツリと攻めて来るものだと思っていたから、肩透かしを食らった気分だ。

 うちとしては結構なことではあるのだが。


 ん!

 なんだ。

 モサモサしてる?


 穴周辺でたむろってる魔物達。

 何かしらの作業をしているとは思うのだが。

 

 漂う雰囲気に剣吞さはなく、のんびり長閑のどかな感じに見える。

 ダンバト中だよね。

 それに、


 「座ってるねー」


 「おそらくは、侵入準備中かと」


 「何をしてくるのでしょうか。楽しみですねー」


 フウカが考えた巨穴対策の準備か。

 気になるので作業を確認するために、直接映像をタップ。

 そして2本指を広げてピンチアウトで、ズームに。


 んー!

 超絶、極太ロープ?

 オーガ4体が2組に分かれて、仲良くロープの端と端を繋ぎ合わせているようだ。

 和気藹々わき あいあいと楽しそうである。


 ん?

 おっ、転移か!


 それにロープも。

 丁度、ロープを肩から腰へ斜め掛けしたオーガ達が新たに転移してきた。


 ほうほう。

 なるほどね。

 分担してロープを持って来てるのね。


 「どれほどの長さになるかはー映像では分かり兼ねますが、ロープを使って降下するのはー間違いないかと」


 「……ん-やっぱりバンジーの線は、なしか」


 「バンジー? それはー何ですかー。それよりもロープに群がってるところでー、バッサリ切断もー良いかもしれまんせよータオ様っ」


 「えーとねー命綱として伸縮性のあるロープを体に括り付けー飛び降りる感じかな」


 「……命綱ですか」


 「最短でー着きそうですね」


 「でも伸縮性もなさそうだしー、長さも地面手前まで必要だからーまだ全然だね」


 「……その可能性は低いと言うことですか?」


 「だね」


 「んー見てみたいですねー。残念」


 モニター越しのオーガ達は相変わらず、どっしりと腰を落としてロープの繋ぎ合わせに邁進中。


 それに今回のダンバトのリミットは2時間。

 ドームの高さこと巨穴の深さは、660m。

 そんな悠長なことしてたら、タイムアップになると思うけど。


 んん!

 オーガに動き?


 座って連結作業に専念していたオーガ4体が立ち上がり、ロープの端を地面に固定。

 他のオーガ達もロープの本体を担いで、次々と勾配へずり落としながら巨穴へ降ろし始める。


 んー!

 長さ的に、全然だ。

 短過ぎる。

 

 めっちゃ伸びる材質とか?

 見た目的にそれはー、やっぱりないな。


 「タオ様ー、何がしたいのでしょかーヤツらは?」


 「……んー、なんだろうね。シロツキは?」


 「……分かり兼ねます」


 3人で考えるが答えがでず。

 そもそものロープの長さに問題があり過ぎるのだ。


 「あ、もしかしてー。タオ様っ」


 「お、何か分かったか。よし、ではーアヤメ君」


 「ゴッホん。そう言われると照れますねー。えっとーロープで途中まで降りてからー、ジャンプでは?」


 いやいや、それはない。

 シロツキもあきれ顔である。

 念のためモニター越しに親指と人差し指でざっくりと測ってみるが、


 「……100m強。んー残りは、500m……か」


 「……短過ぎかと」


 「だよねー」


 「んーこれは間違いなくジャンプですねー。やはり期待大ですよっ」


 ん、なぜに?

 確信のアヤメ。


 俺とシロツキには見えない何かが見えてるとか、そんな感じなのかな。

 それだったらそれで、もう少し分かり易く説明を加えて欲しいところ。


 それに何よりもオーガ達が咄嗟の思い付きでやってる訳でなく、フウカからの指示に則って粛々と進めているのである。


 なので何かしらの意図が隠されているはずだが。

 読めず。


 思考の渦に陥っているようなそんな気もしないでもない。


 そして巨穴から垂れ下がり、ブラーンブラーンと揺れるロープ。


 それを視界に捉えつつモニター上部に表示されている対戦スコアを確認。


  (タオ)      (フウカ)

  19,372 VS 12,441


 場所的にチラチラと目に映っていたので、数値的には把握済み。

 あっという間に追いついて、追い抜いていった感じである。


 まあ、もともとが僅差だったと言うこともあるが。

 そしてそこからのスコア的な差は埋まるどころか、少しずつ引き離して現在の点差へ。


 何が起こっているかは不明だが、ゴブ達が頑張ってることは理解できる。

 フウカ側のスコアも伸びていることから昇天ゴブも変わらずに量産体制真っ只中。


 ついでに開きっぱにしてある攻略状況ボードを見易いように引き寄せ、確認。


   ・0階層:   734体

   ・1階層: 1,252体

   ・2階層:   512体

       ・

       ・

       ・

   ・7階層:   417体

   ・8階層:   556体

   ・9階層: 2,045体


 お!

 9階層。

 さっき見たときは、5階層だったのに。


 階層突破スピードが上がった?

 もしやコツでも掴んだか。


 いやいや、フウカが見てる目の前での攻略だ。

 コツもあったもんではないはず。


 「ペースは良い感じー、かも」


 「……いや、遅いと思うが」


 「それはー、時間の問題では」


 「……まあ、そんなんだが」


 「死亡数が急激に上昇しているから、新たな壁にブチ当たってる感じよねー。なら、その後に期待しても良いのでは」


 「……それには、んー同意だな」


 「っふふふ。同意ねー?」


 「……可笑しいか?」


 「……いえ、素直に期待してるって言えば良いのにね。っふふ」


 ん!

 俺の頭越しで会話をする体長5mのシロツキと、4mのアヤメ。

 もう少し俺にも分かるようにお願いしたいところ。


 会話の邪魔をするようで申し訳ないが、聞きたいことは聞いておかないとな。


 「攻略ペースが上がってる理由に、心当たりが?」


 「はい、おそらくは進化が原因かと」


 「……進化かー」


 「タオ様ー、死亡数から格上と戦い続けていることはー明白ですねー」


 「……ならー1次のソルジャー…とか?!」


 「いえ、おそらくはーソルジャーの上のリーダーまでいっているかと」


 「急激なレベルアップを繰り返している者がいると思うのでー、現時点でも数体は3次のナイトが誕生してると踏んでますがー、そこはシロツキとの相違ですねー」


 ほうほう。

 なるほどね。

 進化したゴブが中心となって攻略を進めている訳ね。


 それもソルジャーにリーダー。

 もしかして3次進化済みのナイトもか。

 それとあと気になったのは、


 「時間的に解決するようなことも言っていたけど……、それは?」


 「はい、おそらく今現在なのですがー、9階層において激戦が繰り広げられているかと」


 「更なる強敵の出現ですねー」


 「……突破は?」


 「……はい、問題なくー突破可能であると」


 「こちら側のスコアも伸びてるので、倒せてますねー。でも死亡数は各段に上がってますがー」


 「………なるほど……その強敵達を倒すことでー、更なる進化が望めると」


 「はい、その通りです。新たに進化した者が次々と誕生している可能性が」


 「その子達が中心になってー、更に攻略スピードがアップするはずですよー」


 ああ。

 なるほどね。

 格上を倒してレベルアップを繰り返し、更に進化。


 ゴブ全体でそのループを保持し続けることで攻略スピードを上げてる感じかな。

 昇天ゴブ大フィーバー中だけどね。


 「……死亡数は?」


 「6千を少し超えたところですねー」


 「……予想よりは少ないかと」


 俺としては多いと思うが、格上相手に突っ込ませてる訳である。

 想定通りにことが運んでいると思うことに。


 それにしても2人の解析能力に脱帽だな。

 どのような敵とどのように戦っているかなどの交戦内容が分からなくとも、数字だけでここまで読み解くとは、お見事。


 お!

 後続部隊?


 飛翔タイプの魔物は、またもなし。

 こちらとしては有り難いことだけどね。


 地表の穴周辺では新たな部隊としてゴブリンとオークが続々と到着しはじめている。

 そして到着早々にオーガ達の指示に従い、まずはゴブリン達が順番にロープを伝って降下し始めた。


 ほうほう。

 これは、これは。


 ロープを伝う姿がさまになっているので、急遽特訓したのかもしれないな。

 全然足りないロープの長さに不平不満を言うヤツはいないようで、黙々と降りていく。


 何をするやら。

 ドキドキ。


 それから次第にロープの先端から互い違いに折り重なって、ぎっしりになっていく。

 まさに葡萄のふさ状態と化す敵ゴブリン達。

 編成は、


   ■ゴブリン x142体

   ■ゴブリン・ソルジャー x21体

   ■ゴブリン・リーダー x 1体


 このままロープが根本から切れたら面白いことになるなと想像してしまう。

 アヤメがさっき言ってたヤツだ。


 そして更に揺れるロープ。


 んん!

 わざとか?

 揺れ幅が大きくなってるような。


 あー。

 なるほどね。 


 身体を上下に目一杯めいっぱい動かしている何体ものゴブリンが。

 揺れを増幅する役割のようだ。


 そしてあれよあれよと次第に振り子のように、ブランブランとなるロープ。


 「……んーこれは、意味があるのか」


 「これはー凄いですねータオ様っ。ジャンプが来ますよ。ジャンプがっ」


 「……このままジャンプしてもー高さ的にゴブリンじゃ、耐えれないよね」


 「はい。落下死に」


 「……だよね」


 ジャンプを楽しみしているアヤメを横目に、いぶかしく思う俺とシロツキ。

  

 どちらにしてももうすぐ答えが分かる。

 揺れ幅的にそろそろだよね。


 疑念が最大限になった丁度その時、ロープにしがみ付いていた敵ゴブリン達が一斉に勢いよく――


 羽搏はばたく。

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