第030話 21戦目(1)


 ダンバトが始まり1日と15時間が過ぎ、もう少しで2日目の終わり。


 まあ、普通に言えば夕方だろうか。

 多分だけどね。


 日々、ダンジョンで過ごしているので、その辺の感覚が疎くなる。


 そしていつものソファーに寝そべりながら、順位を確認。


   1位  タオ・イエシキ 20戦 20勝 0敗  1階層 1,180BP

   2位  ユウキ・ソウマ 10戦 9勝 1敗  38階層  810BP

   3位  ミコト・コハル  8戦 8勝 0敗  41階層  700BP

        ・

        ・

        ・


 おー!

 セーフ。


 絶賛、首位キープ中。


 でも想定では既に抜かれて、順位が少しずつ落ち始めてる頃。

 なので複雑な心境でもある。


 掲示板を見る限り初日、日和ひよって様子見していた連中もデイリー報酬の宝箱に釣られて、ヤル気満々で参戦している。


 しかも階層突破にも宝箱報酬が付くようだ。

 攻め無し、階層突破無しの俺には知りようがない事実ではあるが。


 色々なところで宝箱の話題が度々上がり、自ダンジョンで設置した宝箱の写メをアップしてる連中も。


 そう、写メ。

 スキルガチャで当たったのだろう。


 俺のダンジョン・メニューにはまだ備わっていない機能である。

 羨まし過ぎる。


 それはさておき過熱を見せる、宝箱。


 様々なスレッドで白熱している内容は同一で、宝箱の中身をどのようにして手に入れるかである。

 皆、考えることは一緒。


 あれから色々な検証が行われたようだけれど、どれも確実性に欠けるようである。


 ただ偶発的に成功した例も。

 ダンジョン入口に飾っていた宝箱を外から入ってきた野生のオーク達が、片っ端から開けてくれたそうだ。


 まさに僥倖ぎょうこう


 証拠として写メが添えられている。

 口がパッカリと開いた宝箱。

 救世主だろうオーク達の死体。

 中身であるアイテムの数々。


 それならばとダンバト中であることを幸いにとお互いの宝箱を差し出し、中身をそれぞれの配下の魔物に持ち帰らせる手法が耳目じもくを集めたけれど、成就しなかった。

 注視していた俺もその結果に、ガッカリ。


 現状は打開策なし。


 だが今後は分からない。

 取り敢えず偶然でも野生の魔物は可能だったのだ。


 外部と協力体制を築くことができれば、経常的に得れるかもしれない。


 存在しているか分からないけど冒険者ギルドに、依頼を出すとか。

 先輩のダンマスと接触する機会があればその際に聞いてみると案外、裏道を教えてもらえるかもしれない。


 女神はー、無理そうだね。

 でも色々とあると思う。


 だから今後に期待。

 取り敢えずは宝山をより宝箱塗れに、出来ればと考えている。


 そうなると少しでも多くのデイリー報酬を欲するところ。

 更にそのためにはダンバト周回をするのが近道となるけれど、厳しそうである。

 なぜならば対戦相手が──


 皆無。


 無念過ぎる現実。

 昼頃から宣戦の申し込みが一切来なくなったのだ。


 理由は至極単純で2つある。


   ・警戒されたまま

   ・デイリー報酬狙いで階層突破の高まり


 そういう訳で1階層しかない俺のダンジョンは、お呼びでないようである。

 有り難いことではあるけれど、来ていたものが突然ピタッと止まると不思議と悲しくなってしまう。


 打って変わり階層が沢山あるダンジョンへ、申し込みが集中しているようだ。


 なので本日のダンバトは、この成り行きでは休業かなと。

 自分から誰かに申請を出しても、1階層のみのダンジョンでは対戦を嫌がられるのは想像にかたくない。


 逆に思考を切り替えて首位の座を明け渡すまで、ドーンと構えておくのも有りかもしれない。

 でも宝箱欲しい今日この頃。


 んー。

 どうしよう。


 こんな時は前向きにあれやこれやと、先のことを色々と考えるのが常道。

 ならばと運良くダンバトの誘いがあったと前提してみる。


 タオ対策スレッドなるものが出来るほどに、非常に警戒されているから間違いなく昨日の手は通用しない。

 そもそも俺とダンバトをしようとするくらいなので当然、巨穴対策済みであると考えられる。


 付け加えこれからは攻め無しの守り一辺倒とはいかないと思う。


 対策を色々と練られて厳しいと言うのもあるけれど、積極的に攻めなくてはいけない。

 なぜならば宝箱のために、階層突破を狙うからだ。


 必須事項。


 ならば攻めを誰に任せるか。

 非常に重要である。


 無論、ゴブ。


 んー。

 行けるのか。


 順調に階層突破をしていくゴブ達の姿が、イメージできない。

 

 悩まし過ぎる。

 手持ちのカードが1枚しかないことが。


 その1枚は──


 勿論、ゴブ。


 どのように考えても答えは──


 ゴブ一択。


 極ムズ過ぎる。

 コーラを飲みながら、柄にもないようなことを考えたりしていると──


 「タオ様、お呼びですか」


 困った時のシロツキが、颯爽さっそうと登場。

 実は呼び出していたのである。


 ゴブについてはゴブに語らせるのが正しいだろうと言うことで。


 「うん、ちょっと相談。今後のダンバトでの相手ダンジョン攻略のゴブ運用がーどうも決まらなくてね。んーどうしようかっ」


 宝箱のことは伏せて、階層突破をしたい旨を伝える。


 「左様ですか。ならばー試しに……」


 「んー、試しに?」


 「進化していないゴブ1万をー、突撃させてみるのもー良いかもしれません」 

 

 んんっ!!

 1万?


 聞き違い、だよね。


 「えーと、1万?」


 「はい、1万です。2万でも3万でも良いと思いますがー」


 えええ!

 めっちゃ、増えた。


 そんなにも一気に投入する必要が。


 ダメだ。

 意図がさっぱり。


 「んー、それは?」


 「はい、投入したゴブの生存率で、第一に相手の戦力を計ること、第二にゴブをふるいに掛けること」


 ほうほう。

 なるほど。


 ゴブだからこそゴブの扱い方が、荒い。


 「それとタオ様ーっ。第三に一時的ですがーゴブ減少に伴い食糧の余剰分を備蓄へ回すことができるようになりますよ。オマケですがーっ」


 ん!

 お、アヤメ。


 いつの間に。


 でもー。

 なるほどね。


 今現在でもゴブ達を篩に掛けているけれど、全くもってそれでは遅くて甘いとシロツキは言いたいのだろう。


 まあ、ダンバトでの階層突破を最新バージョンのゴブ育成篩機と考えれば良いのかもしれない。

 超スパルタだと思うが。


 「んー、なるほどー……」


 「はい、5千ほど生き残れば上々かとっ」


 ん、5千!


 1万突っ込んで5千だから、半分が昇天ゴブに。

 シビア過ぎる。


 んん!

 いや、待てよ。


 まさかの3万じゃないよね。

 恐る恐る。


 「………1万?」


 「3万ですよーっ。ドンドン突っ込ませてー、ゴブ活しましょっ」


 「「……っ」」


 えっ、そっちのそっち!

 アヤメが答えるのか。


 それも楽し気に。


 シロツキもちょい面食ったようで一瞬、顔が引きつったように見えた。

 今は持ち直し、頷き始めているが。


 否定はしないのね。


 んー、マジか。

 3万か。


 それだと──

 

 昇天ゴブ2万5千。

 生存率16.66%。


 これってゴブ達にとっては至極当然な感覚なのかもしれないけれど、どう見ても低い。

 いや、低過ぎる。


 ゴブによるゴブの扱いが超絶ひど過ぎて、言葉にならない。

 そんな黙り込んだ俺を気遣い、言葉を付け足すシロツキ。


 「ゴブは戦闘種族なので、戦闘の中でしかー成長できません」


 「タオ様ーっ、生きるか死ぬかはゴブ次第です。それにー成長できぬゴブはゴブにあらずと言いますからねー」


 「……っ」


 ええええっと。

 色々と初耳なんですが。


 至極当然のように語っているけれど、俺のイメージはゴブイコール『穴掘り』。


 それと『ゴブに非ず』か。

 言葉的に心へ響くけれど、深いようでそうでもないような気も。


 取り敢えずその後も2人の話に耳を傾ける。


 シロツキは全体の発展を押し上げるための死は、いとわない。

 アヤメはゴブの上澄うわずみこと精鋭ゴブを生み出すための死は、不可欠。


 微妙に考え方が違う2人。

 でも被っているところを要約するとゴブ達本人も成長と言う名の戦場を望んでいると言うことで良いかな。


 違ったら、ゴメンね。


 いつか慰霊碑を立てるから。

 それも立派なヤツを。


 正解かどうか分からないけど。

 次回からのダンバトにおけるゴブの方向性は決まった。


 雰囲気が大事なので、目頭を指の腹で軽くグリグリとマッサージ。

 そしてキリっとした眼つきで、

 

 「よし。それで決まりでっ!」


 「それでは、いつでも出陣できるよう準備だけはしておきます」

 

 「任せたよっ」


 「はっ!」


 そして、満足気に颯爽と去って行くシロツキ。


 ん!

 アヤメは?

 

 「行かないの?」


 「あ、はい。ここに残りますね」


 嬉しそうに返答するアヤメ。


 いや、準備のことを聞いたんだが。

 欲しい答えを得ることは、適わず。


 でも計画性が高いアヤメだから、先を読んで既に終えてるとか。

 多分そうなんだろうと思うことに。

 

 ならば俺は俺だけの仕事をせねば。

 まずは『ダンマップ』を展開させて、コアルームから落下地点の改修をパッパッと終わらせる。


 改修内容は石柱の撤去と地面の掘り下げ。

 範囲は、落下地点を中心に半径150m。

 下げ幅は、5m。


 白兵戦になる前提の変更である。

 石柱に隠れられたら邪魔だからね。


 掘り下がる手前が新たな防衛ラインになるのかな。


 使い勝手の悪いところがあれば、ゴブ達で勝手に修正するだろう。

 なんせ掘るのが得意だからね。


 そして次は対戦相手探し。

 しかしダンバトの申請は──


 0のまま。


 ならばダメ元でダンバトの対戦成績の悪い順にこちらから申請を送ってみるのも有りかな。

 1人でも釣れたらと言うか、相手してくれたらラッキーである。


 えーと。

 まだ勝利数0の人はいるかな。

 ソートして探し始めようとしたそのとき──


 宣戦が届く。


 お!

 ナイスタイミング。


 誰だろー。

 強くない人でありますように。


 願いを込めながら確認。

 名前は──


 フウカ・トドロバネ。


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