第029話 施設
――カンッ カンッ
――トンッ トンッ
「昨日は、ありがとうね」
「「「ゴブッブ(うっす)」」」
声を掛けたり掛けられながらの居住施設巡り中。
気を付けることは、皆の邪魔をしないこと。
でないと『うわー、またタオきたよ! アイツほんと何もしねー』とか言われたりするのは嫌だからね。
何事も他者への思いやりを忘れてはならない。
現代社会ことゴブダンでは重要です。
キリッ。
んで、今は鍛冶場。
カンカンやガンガンの大きな音が飛び交う賑やかなところ。
因みにここに来る前は卵保管室で、新たに作られていた部屋をダンジョン領域へ取り込んだり、少しは働いていたりする。
当然ここでも新たに拡張されている場所を『ダンマップ』と照らし合わせながら、せっせと領域取り込みをして訳である。
ゴブ達には必要なら独自の判断で広げて良いと許可を出しているが、大所帯のため居住施設の至る所で日々拡張され続いているので意外に大変である。
なので次々とタップしながら選択してパッパッと終わらせていく。
よし、OK。
これで、鍛冶場での取り込みは終了かな。
――カンッ カンカンッ
――コンッ コンコンッ
――ガンッ ガンガンッ
鍛冶炉4個を増設した奥から、
でも慣れたもので苦痛に感じることはない。
頑張ってる証左だからね。
そして歩きながらジグザグに躱すテーブルの上には、種類毎に並べられた出来立てホヤホヤの武器と防具およびピッケルが。
端のテーブルではゴブ達が
この鍛冶場で作られているのはどれも量産型。
なのでどれも同じ形である。
それに初期に『ショップ』で買い与えた鉄製装備より遥かに上質に見える。
しかもこれは進化前の標準ゴブ用らしい。
でも標準ゴブの中でもランクがあるようで、聞いた話では誕生直後から『穴掘り』スキルまではここの中古品を使用するとのこと。
しっかりと修理されているので実用的には新品と大差はない。
そして『掘削』スキルが生えて漸く、ここに並ぶ新品をゲット。
ゴブにも色々と事情があるようだ。
因みにここは鍛冶場Aで、隣にB~Dが同様の規模で並ぶ。
・鍛冶場A: 量産型 標準ゴブ用
・ B: パターンオーダー 1次
・ C: イージーオーダー 2次と3次
・ D: フルオーダー 4次以降
(※0次:標準ゴブ、1次:ソルジャー、2次:リーダー)
(※3次:ナイト、 4次:ジェネラル、5次:キング)
(※6次:ロード、 7次:エンペラー)
足を止め目の前の並べられている1mほどの剣の中から、手前を選び取る。
そして右手で掴み上げて少し
んー。
良いなー。
キラリと光を反射するその姿に
実際に剣を持ってみると欲しくなる。
護身用に『アイテムボックス』に入れてあるのは、ショップで買った鉄製の剣2本。
なので今手に持っている剣よにもグレードが下。
スペースがあるのでそのまま振ってみたりしてみる。
しっかりと周囲は確認済みだ。
うんうん。
持ち手の太さも丁度良い。
めっちゃしっくり。
俺は量産型なんだなと痛感させられながら剣を元のところへ置き、再び歩き出す。
でもいつかは専用の装備が欲しい。
『タオ様ー、最高のものが出来てしまいましたゴブッ!是非お納め下さいゴブっ!!』の言葉を待って
もう少し皆の前で素振りとかをしてアピールするのもありかもしれない。
そうだな。
そうしよう。
『みんなー、タオ様の剣を見てくれっ! まだあんなショボい剣をっ!! なんて
そもそも狙ったアピールで狙ったものが手に入るとは限らないしな。
難しいのかもしれない。
でもいざとなったら『ショップ』でカスタムオーダーして超高級な剣を買うのもありだな。
その際は忘れずにゴブ達に見せびらかしてやろう。
DPで
うんうん。
何となく斜め下で納得したところで、鍛冶場の出口を丁度抜け出て通りへ。
「「「ゴ、ゴゴブっ(あ、タオ様っ)」」」
「お、おう」
「「「ブーゴ、ゴゴブっ(ちゃーす、タオ様っ)」」」
「みんな、元気かー」
通りには休日を楽しんでるゴブ達が。
次から次へ掛けられる声に、片手を上げながら無難に挨拶を返していく。
そして鍛冶通りを抜け、岩石造りの建物が理路整然と立ち並ぶ大通りへ。
3~5階が多いが、中には10階以上も。
1階はカラフルな色合に出店の看板や
ここは更に周囲も格子状に区画整理され立派な街と化し、活気に溢れるゴブ達の社会が形成されつつあるのだ。
因みに俺が作った訳ではない。
必要なものは随時買い与えていたが、巨大な街にまで発展させたのはゴブ達の頑張りに他ならない。
強いて言えば自発的な行動を促すために導入した貨幣制度が、ゴブ達に良い影響を与えたのではないだろうか。多分だけどね。
貨幣は『ショップ』で購入可能。
使用しているのはこの世界の『金貨・銀貨・銅貨』である。
日々の労働と侵入者撃退に応じて渡す成果報酬型の給与形態を採用しているのだ。
一応貨幣を使い切ったゴブ達が食いそびれないように、公共施設として食堂を完備している。
そこでは食の質は敢えて落としているけどね。
美味しいものを食べたければ貨幣を手に入れて、通り沿いの飲食店や出店で食べなさいという方針でもある。
因みにこの通りには、服屋やアクセサリーなどの装飾系のお店も。
他の人気の通りにはお酒が飲める
そして賑わう大通りを超え、更に右折と左折を繰り返し進んだ先には、街の中にポッカリと開けたのんびりと寛げる広めの野原が。
じゃれて遊んだり寝転んで過ごしているゴブ達が見える。
そしてその中央当たりに俺を待っていたのだろうシロツキとアヤメが。
後ろには待機しているゴブ達も。
ん!
アヤメも?
「タオ様、お待ちしておりました」
「タオ様ーっ」
「ごめん。待たせちゃったね。んーアヤメはー、どうしてここに?」
「とんでもございません。我々もほんの少し前に到着したばかりです」
「私はー商工会での打ち合わせが早めに終わったので。丁度見掛けたーシロツキが今からタオ様と会う言っていたのでーそのまま付いて来ちゃいましたっ」
「ん、商工会?」
「あー、はい。飲食店の値段設定の話し合いとー、各商店街を今後どのように発展させていくかの打ち合わせも含めですかねー」
「ん、おお、そっかー、ご苦労さん」
なんか色々とやってるっぽい。
予想以上の返答とボリュームにビックリ。
えーと。
それよりもー。
キョロキョロと周囲を見渡す。
俺がシロツキに要望したのは、街から近くて広い場所。
公園?
所謂、憩いの場である。
街の中ではなく、街周辺になると思っていた。
でもスペース的には文句なし。
「のんびりした感じの公園? 劇的に変化しちゃうけどー、良い?」
「はい、タオ様。問題ありません」
「えっ、劇的に? ですかー、タオ様っ」
お!
アヤメは知らなかったようだな。
「劇的と言ってもー、憩いの広場? であることには変わらないよ。今ののんびりとした雰囲気に寛げて楽しめる要素をプラスする感じかな」
「あ、なるほど。用途に変更がないならー、私はー問題ありませんよ。タオ様」
お、良かった。
区画管理を行ってるアヤメから了承を貰えたようだ。
それにしてもー。
てっきりシロツキがアヤメと情報共有してくれてるもんだと思っていた。
チラッとシロツキを見ると。
何処吹く風。
はー。
それはないんじゃ、ないかシロツキ君。
突っ込んでやりたいところだが、それはまた今度だ。
折角、場は整ったので事を進める。
今から何をするかと言うと昨日のダンバトでのゴブ達の奮戦を労って、ここに温泉をプレゼントしようと思ったのだ。
因みに俺専用の温泉はコアルームの新たな部屋に作成済み。
それも皆に先駆けて、湯船に浸かり堪能した後でもある。
やっぱり温泉は最高だった。
当然ショップで購入する訳だが温泉にも色々な種類があり、値段も1千万~1億DPと幅がある。
俺の部屋に設置したのは二酸化炭素泉こと炭酸泉で、お湯に浸かると体に気泡が付着する特性の温泉。
値段は、5千万DP。
今だから手が出せる値段である。
そしてここに設置する温泉は、俺と同じ炭酸泉4個と滋養強壮泉2個の予定である。
湯量的にこのくらいかなと思っているが、数日様子を見て足らなければ追加しようと考えている。
取り敢えず工事を開始しますか。
「シロツキ、予定通りお願いね」
「はっ、了解です。よし、始めーっ!!」
「「「ブッ!!(了っ!!)」」」
俺がダンジョン・メニューでやっても良いのだけど、イメージ図をシロツキへ見せた際にゴブ達でパッパッと出来るとのことだったので任せることに。
日々の掘削作業で鍛えているゴブ達なので計画通り、野原だった地面をドンドン削っていく。
形は円で、中央につれ段々と深くなるようになっている。
広さは、半径50m。
浅いところで50cm。
深いところで5m。
深さ毎に仕切り有り。
完成イメージは、温泉プールだ。
中央部は削らず、温泉が流れ出る湯口になる予定。
皆の作業を見守りながらプールから溢れたお湯を即回収できるように、設定をしておく。
ん!
おお、早っ。
削り出し作業は完了のようだ。
既にデザインなどの細かい装飾に取り掛かり始めているゴブ達。
「タオ様、中は終わりましたので、設置をお願いします」
「んー了解っ」
え!
いいの?
ゴブ達作業中だけど。
シロツキがそう言うのであれば、問題ないのかな。
溺れたりしないよね?
不安は残るが『ダンマップ』でプール中央部を選択して、既に購入済の温泉6個を設置していく。
そしてすぐさま湯口から音を立て――
――ゴボゴボッ
――シュワシュワッ
――ゴボゴボッ ゴボゴボッ
――シュワッ シュワシュワッ
勢いよく湧き出る温泉に周囲で作業しているゴブ達が、興味津々のようだ。
うんうん。
湯気も出て良い感じ。
滋養強壮泉も入っているので、日頃の疲れをここで回復してくれたら良いのだが。
それにお湯も順調に溜まっているようである。
裸で入るのも良し、服のまま入っても良し。
自由。
ゴブ達からしたら、異世界となる日本の温泉の入り方を強要するつもりはない。
好きなようにこの温泉プールを使い少しでもリフレッシュしてくれれば、それで良い。
まだ
中には初お湯にビビって縁でたじろぐゴブもいるが、多くは好奇心の方が勝るようである。
広場の周囲で様子見していたゴブ達も参加し始め、次第に幼稚園のプールの様相を呈し始めた。
ん!
付いてくるの?
キャッキャッと
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