第023話 邂逅(3)


 「これは『コーラ』。この世界にはない神アイテム。ある世界で至高の一つとされているものだっ!」


 ──ゴクリッ


 生唾を飲み込む大きな音がしっかりと響き渡る。


 必要なさそうではあるけれど、ここは敢えてデモンストレーションをしよう。


 「色は真っ黒。もしかすると猛毒に見えるかもしれないがー飲み物だ。そのまま贈呈しようと思ったがー、止めたっ!」


 「ん、え、えええー、なぜじゃっ!」


 ガーン然の安本丹異常ポンコツ謎生物。

 やはり食い付きは、上々。


 一応、それらしい理由を添える。


 「安全を担保するためにー、俺が味見をっ」


 「え、いやっ! 毒くらい分かるのじゃっ!」


 気にせず、コーラを飲むことに。

 だって喉がカラカラだもん。


 下のゴブ達が物欲しそうに見てるがスルー。


 ──ゴクゴク ドクドクドク


 「うまーっ、最高っ!」


 毒見とは言ったが、気にせずに飲み干すことに。

 飲み始めたら止まらいのが、コーラ。


 炭酸が喉に染み渡る。

 シュワシュワっとね。


 ──ゴクゴク ドクドクドク

 ──ゴクゴク ドクドク

 ──ゴクゴク ドク

 ──ゴク


 「うあー我のコーラがー、なくなるーっ!」


 哀愁漂う声。

 十分にきつけたし、頃合いかな。


 あまり遣り過ぎるのも宜しくない。

 相手は安本丹異常ポンコツ謎生物である。


 おそらく本気になれば、ダンジョンごと一確で潰すことが可能なはず。

 どう見ても俺達とは住み世界が違う存在である。


 今現在未だに俺達が生きてるのは、たわむれか何かだろう。


 なので向こうが上、こちらが下。

 位置関係を見誤ってはいけない。


 新たなコーラを取り出す。


 「飲んでみろ。旨いからっ」


 ──ゴクリ


 唾を飲み込む大きな音。


 「おお、良いかの。じゃーもらおうかのーっ」


 キャップを外してやる。

 すると──


 俺の手を離れるコーラ。


 中身が微かに波打ち、シュワシュワと美しく細かい気泡が立つ。

 そしてスーっと空中を平然と漂う異様な光景が展開され──


 安本丹異常ポンコツ謎生物の口元へ。

 

 何も使わずになぜか器用に傾け、事も無さげに飲み始める。


 ──ゴック ゴック ゴックン 

 ──プファーッ


 大きな目が更に大きく瞠目どうもくする。


 「な、なんじゃー、これはっ!!」


 ──ゴック ゴック ゴックン

 ──プファーッ


 目をカッと見開き、


 「う・ま・すぎじゃーっ! あ、あああー、もうないっ」


 急にシュンとする安本丹異常ポンコツ謎生物。

 仰天するほどの美味さだったのであろう。


 まあ、神アイテムだからな。

 当然の帰結。


 それに先程までの怒気は、神アイテムの効果により消し去られている。

 コーラ様様さまさま


 これで漸く下準備が整った。

 本題に入ろうか。


 コーラ20本を取り出す。

 下のゴブ達に『動かないでね』とお願いを忘れずにしておく。


 ──ゴクリ


 「おお、コーラがーそんなにもっ!!」


 一転して快活になる安本丹異常ポンコツ謎生物。

 良い反応であり、良い兆候でもある。


 うんうん。

 イイ感じ。


 「これはーお前に贈呈する予定のー、コーラだっ」


 「な、なんとっ! マジかーっ!!」


 「マジだっ!」


 「おー、なんと豪奢ごうしゃなっ!!」


 そして直ぐに足元ことゴブの背中の上に置いてあるコーラを持って行こうする安本丹異常ポンコツ謎生物。

 だがその魔力の流れをキャンセルしてみる。


 お!

 成功。


 計らずも上手くいってビックリである。


 だがそれ以上に驚いている存在が──


 「はーあっ。ん、あれれ? んー、んなっ、なぜー邪魔をっ!!」


 数度持って行こうとしたようだけれど、ことごとく同様にキャンセルする。


 それに気付いたようで犯人である俺を、キリっと睨む安本丹異常ポンコツ謎生物。

 顔と目の大きさが異常なため、ギラリかな。


 「1つほどー頼まれてほしいっ」


 「なんだっ!!」


 「ここにあるコーラが、何本あるかー分かるかっ?」


 「20本じゃっ!!」


 「その通りー、ご名答。この20本とーあるものを交換してほしいっ」

 

「んー、んむむむむむむむーーっ。んんんんーーっ」


 流石にここまで話せば俺の意図が読めたのか、悩み始めた。

 その間も隙あらばとコーラを持って行こう試みているようだけれど、しっかりとガード。


 少しでもこちらに傾くように柔らかな声で語り続ける。


 「俺達とは違い、お前ほどのものならばー危険な魚から再びキラキラ卵を手に入れることはー、些事ではないのかっ」


 「んーっ、むむっ」


 「でもこの神アイテムことコーラはーこの機を逃せば、二度と手に入らないぞっ」


 「んー、分っておるがー、んむむーっ」


 「誰がどう見てもー、レア度は圧倒的にコーラ。あのシュワシュワを味わったお前が一番理解しておるのだろっ」


 「うー、シュワシュワっ」


 もう一押し。

 ここが正念場。


 「このコーラを是非ともお前にー飲んでもらいたい。そのためにーここにコーラがある事実っ」


 ──ゴクリ


 「そしてーもう1つの事実があるっ」


 「な、なんじゃーっ、それはっ!!」


 一拍おいて、


 「このコーラ達はー、お前に飲んで欲しいと願っているっ」


 「なーっ、なんじゃとーーーーっ!!!!!」


 その事実に驚愕する安本丹異常ポンコツ謎生物。

 目が飛び出しそうなほど驚き、超巨大な口もパカっと開きっぱ。


 「で、どうする。その心意気を無碍むげにあしらうのかっ?」


 「ん、むむーーーーーーー、んーーーーーーーーーーー致し…………方………ない……か。分かったっ。ふー、交換に応じようっ」


 おお。

 マジか。


 一応、念を押す。

 大切だよね。 


 「確認だがー、キラキラ卵20個とコーラ20本のー交換でOKだよなっ」


 「ああ、それで良い。其方の勝ちじゃよっ。コーラが取れんーーっ、くーっ、はよーガードを下げよっ! …………ああ、それで良い。それとー少々厄介そうなその矛もなっ」


 取り敢えずガードを下げる。

 すると早速、スーっと空中を齷齪あくせく気味に漂いながら安本丹異常ポンコツ謎生物の下へ向かうコーラ20本。


 それにしても気付かれていたようだ。

 交渉が決裂したとき用に準備していた、一撃を。

 言われた通り、キャンセルしておく。


 体内で収束させていた魔力は、外に漏れてなかったはずだけどね。

 でも目が良いと最初に言っていたから、俺が思うより色々と見えているのかもしれないな。


 嬉しそうにコーラを飲み始める安本丹異常ポンコツ謎生物。

 こんなチャンスはないだろうから、この機に布石と言うか種を蒔いておく。


 「なー、ものは相談だがっ」


 「ん、なんじゃっ」


 「卵1個につき、コーラ1本。もし卵を拾ったりした時にー気が向いたら持ってきてくれっ」


 敢えて卵のレア度は指定しない。

 珍しいに越したことはないけれど、それより重要な優先すべきことはお近付きになることである。


 「おー、良いのかっ! これからもーコーラが飲めるのー最高なのじゃーっ!! がっはは」


 コーラを更に100本ほど取り出す。

 このような時こそ、椀飯振おおばんぶる舞い。


 出し惜しみをしていてはダメだ。


 すぐさまそれに気付く安本丹異常ポンコツ謎生物。


 「んん、それはーっ!!」


 「紳士協定の成立祝いだ。受け取ってくれっ」


 「えーっ、ま、マジかっ!!!」


 「マジ。口約束だからーこう言うのは何気に大事なんだよっ」


 「コーラをこんな大量にーっ!! なんて大胆なっ。こ、これは……………ま、まさか……………いや、いやいや………………はっ、よもやのプロポーズかっ!!!!」


 ん、の勘違い?


 目の前では、今までと同様に次々とコーラが宙へ。

 そして安本丹異常ポンコツ謎生物の近くでフッと消えていくコーラ。


 当然、収納系スキルぐらい持ってるか。


 おっと。


 その前にしっかりと否定しておかないとな。

 こう言うのは早めが大事。


 「プロポーズじゃ、ないからねっ」


 「大丈夫じゃっ、皆まで言うなっ!! 珍しい異世界産の物をこんなに沢山もらったのは初めてじゃっ、ヤバ過ぎなのじゃっ!!!」


 「悪いけどーほんと、違うからねっ!」


 「大丈夫じゃっ、ちゃんと知っておるっ!!  確かー始めは、友達からだったなっ!!!」


 「いやいや、マジ違うからっ!!」


 「大丈夫じゃっ!! お返しは何がー良いかのーっ!!!」


 んー、ダメだ。

 強めに否定しても正すことができない。


 そもそも安本丹異常ポンコツ謎生物が、トリップ気味。

 微妙に会話がズレている。

 

 それにプロポーズとか言う前に、性別すら知らない。

 例えもしメスだとしても種族的サイズが違い過ぎる。


 しかも『ダンマップ』で表示されているのは頭部のみ。

 ダンジョン領域内しか表示されないから、それ以外の身体的特徴が分からない。

 だからもしかしたら安本丹異常ポンコツ謎生物が、一頭身もしくは二頭身の可能性だって無きにしも非ず。


 どうにもこうにも、嫌過ぎる。


 でも関係構築の面からすると当初の目論見通り?

 いやいや、遥か斜め上過ぎだろ。


 あ!


 『ダンマップ』上の安本丹異常ポンコツ謎生物を示すマーカーの色が、赤から橙に。


 橙色は、味方でも敵でもない中間的な立ち位置である。

 本当は青色の味方が良かったが、それは性急過ぎ。


 それに吹き出しは、


   ■ルナゼロエ x1体


 表記も『アンノン』から『ルナゼロエ』に。


 もしや『簡易鑑定』の結果が反映?

 んー、分らん。


 ひょっとしたら掲示板にそれに関する情報があるかもな。

 あとで調べますかね。


 取り敢えず敵意がないことが分かって良かった。

 もう安心だな。多分だけど。


 下のゴブ達を見るとニッとサムズアップしながら『タオ様、流石っす。それとーおめでとうございます』と伝えてきた。


 少しニタニタしていたところが気に食わないが、スルー。

 ほんと、違うから。


 否定する気力も沸かない。


 戻る前に挨拶も兼ねて──


 「俺は戻るけどー帰るときは、穴を塞ぐのを忘れるなよーっ」


 「大丈夫じゃっ、任されよーっ」


 「それとーゴブ達を虐めるなよーっ」


 「大丈夫じゃっ、仲良くするーっ」


 コーラを飲みながらご機嫌に応える安本丹異常ポンコツ謎生物。

 こちらの意図が伝わっているか甚だ怪しいところだけれど、コーラがある限り滅多めったなことはしないだろう。


 それではと下のゴブ達に謝意を伝えながら、特製ゴブ壇上から軽やかにトントンと降りる。


 よし、安定した地面に着地。

 それにしても疲れた。


 ふと見上げた視線の先には、回復した大勢のゴブ達が。

 ゴブからゴブのゴブ一面のゴブ塗れ。


 俺の表情を見て事が解決したことを察したのか、ジワジワと騒がしくなり始める。


 あらら。

 これはヤバいな。


 大騒ぎになる予感。

 その前に、お暇させてもらうよ。


 駆け付けたシロツキ達に戻るとだけ言い残し、『美味いのじゃー』を背に3km先の転移陣のある場所を目指して歩き出すのであった。



 ダンバトまで、残り14時間。


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