第024話 入口


 「タオ様ー、ここは如何でしょうか?」


 「お、イイね。これで4つ目。あと1個はー、どこにしようか」


 今、何をしているかと言うと、ダンジョン入口のある地表でダンバト用転移陣の設置中。


 少し寝るつもりが、気付けば12時間も寝てしまった。

 ガーンである。


 そのためダンバトまで残り、2時間。

 なので意外と急いでいたりする。


 因みにここに来る前にエンペラー8人衆を呼び寄せ、追加で『魔力操作』のスキルキューブを与えている。


 目安は、1昇華分ほど。

 スキルが生えていない者には、取得させてからの1昇華分ね。


 なぜ急遽きゅうきょそのようなことを施したかと言うと、岩石投げで魔力操作の重要性を痛感したからである。

 当然、安本丹異常ポンコツ謎生物の襲撃事件のあれやこれやの影響もあるが。

 

 兎にも角にも魔力の強化を疎かにしては、能力の持ち腐れになると気付いたのである。


 そして昇華終了後、俺とアヤメはダンバト用の転移陣の設置のため地表へ。

 その他の面々は、ドームに残りダンバト準備と特別軍事演習を行ってもらっている。


 因みに転移陣設置には決まりがあり、


    設置数: 入口1つにつき5個のノルマ

   設置場所: 入口10mから100m以内の領域内

 

 この転移陣は対戦相手側の魔物達が侵入時に降り立つ用で、こちら側は使えない。

 そういう訳で少しでも有利になるように、苦慮しながら設置している。


 うちのダンジョンは入口1つなので、設置数は5個。

 そして今現在、4つ目が終わったのであと1個で完了となる。


 そういう訳で久々の日光浴にも関わらず、時間的余裕がないため楽しめない現状。


 とは言え、背筋を伸ばしての一息。


 気の所為せいかもしれないけど、空気が旨く感じられる。

 それとダンジョン内の幻想的な雰囲気と比べ、緑色成分が多く濃い。


 俺の召喚時の記憶が正しければ、この場所は──


 大森林の浅瀬の山岳地帯の──


 丘陵地の盆地。


 その中央に半径4mのダンジョンの入口が、ポッカリ。


 だから周囲を見渡すとそこには立派な山々が重なり合い、峰々が奥へ続く。


 そして天然の大自然の迫力に圧倒されつつ、先程、入口周囲の領域を半径10mから50mへ変更。


 本当はこの機に入口周辺の盆地全体を領域に取り込んでおきたかったけれど、地中に比べ消費DPは10倍。

 付け加え天然の動物や魔物が常にいるので、更に10倍となるため諦めることに。


 合計で、100倍増し。

 これは流石に厳しい。

 

 「アヤメ、どのくらいジャンプできる? 上ではなく横ねー。それと助走なしでっ」


 「助走なしでしたらー、力を入れて……30mほど、でしょうか」

 

 んー!

 えええっ、マジで。


 参考までにと思い、何気なしにした質問の返答に驚くことに。

 飛び過ぎと思うが極々普通の感覚らしく、淡々と語るアヤメ。


 んー。

 難しいな。


 入口こと折角の穴なので、侵入者達には是非ともビックリしながら落ちて欲しいところ。

 その姿をモニタールームからしっかり見れるからね。


 因みに自ダンジョンであれば自分達で設置したダンジョン専用カメラで、映像をモニタールームへ繋げることができる。


 当然ここにもカメラは多数設置済み。

 このあと更に追加する予定。


 一方の相手ダンジョンの様子は分からない。

 配下の魔物を送り込んでカメラの設置をさせることは可能だけれど、自ダンジョンの魔力でしか動作しない仕様なので、そもそも作動しないのである。


 んー。

 どうしよう。


 改めて穴を見つめる。

 アヤメの話から容易にジャンプと言わず、スキップ程度で回避可能。


 どうしよう。

 俺としては、やっぱり落ちて欲しい。


 んっ!

 よし、拡張しよう。


 「アヤメー悪いけど、設置したダンバト用転移陣と通常転移陣の両方を回収してっ」


 「あー、はい。了解です。タオ様ーっ」


 現在の入口周辺には、ショップで購入した『酔いどれシリーズ』なる木々が。

 そのどれもがアルコール成分を含む果汁たっぷりの高級フルーツを実らせる。


 食べ過ぎて酔っ払い、千鳥足で飛び込む魔物。

 またはフルーツの取り合いをしている間に、落ちてしまう魔物。


 理由は他にはあるだろうけれど、頻繁に天然の魔物が落ちてくる仕組みがここにある。


 それから地表で作業しているゴブ達を呼び集め、そのフルーツの木々を移植可能なように根株ごと抜いていってもらう。


 加え転移陣の回収を終えたアヤメに、周囲の警戒を。

 その間に領域を更に、半径50mから70mへ広げる。


 暫くしてゴブ達の作業も終わったので、皆で拡大した新たな領域の際まで避難。

 そして入口のサイズをスワイプしながら、半径4mから50mまで伸ばして『確定』ボタンをタップ。


 すると──


-------------------------------------------------

ダンジョン入口のサイズ変更

:審査中

:お待ちください

-------------------------------------------------


 審査メッセージが表示。


 ダンジョン入口には様々な条件が適応されるためチェックが入る。

 一応大丈夫だと思うけど、少々心配。


 そして──


-------------------------------------------------

ダンジョン入口のサイズ変更

:審査完了

:承認されました

:当変更内容で実行しますか?

 Yes / No

-------------------------------------------------


 お!

 良かった。


 念のため周囲を見渡し、取り残されたゴブがいないかしっかりと確認。

 大丈夫そうだ。


 それではと『Yes』をタップ。


 ──ズズズズッ

 ──ズズズズズズズズズッ

 ──ズズズズズズズズズズズズズズッ


 拡張音と共に漆黒の穴が、ドンドンと広がっていく。


 そして30秒ほどで音は止み、新たな入口こと半径50mの巨穴の完成である。


 うんうん。

 イイね。


 これで落ちそうになった侵入者が、『おっと、あっぶっ!』とジャンプで回避することは厳しくなったのではないだろうか。


 そのまま見事に落ちてくれることを願う。


 そして更に落下をいざなうために入口周囲10mを隆起させ、勾配を作為的に作っていくが、当然審査が入る。


 そのためどこまでが可能かどうかを見極めながら進めていく。


 そしてやっとのことで承認されたのが、勾配57.5%。

 角度で言えば、29.9度。


 角度的に30度を超えたかったけれど、審査通らず。

 因みに勾配のイメージは、


     歩き易い: 勾配5%未満( 2.9度)

   緩やかな坂道:   8%未満( 4.5度)

       激坂:  20%以上(11.3度)

      超激坂:  30%以上(16.7度)

    転げ落ちる:  40%以上(21.8度)


 なので十分、急勾配と言える。


 でも見事に転がって欲しいので、もう一押ししておきたい。

 と言うことでショップで、転がりにプラス補正をもたらしてくれそうな材質を探す。


 んー。

 ほうほう。


 この鏡滑石かがみかっせきが、イイ感じがする。

 商品の説明でも『ツルツル・スベスベ』のワードがしっかりあるからね。


 他にも色々ありそうだけれど、それはまた別の機会に。


 それではと消費DP激しめだが巨穴周辺の勾配を全て選択して、『物質変更』を実行する。


 そして無事に──


 審査通過。


 勾配表面全てが鏡滑石に。

 ツルツルのスベスベ。


 もしかしたら無理かと思ってたので何よりである。

 これで転げ落ちてくれること間違いなし。多分だけど。


 クックク。


 悪い笑みが零れる。

 冗談だけどね。


 これで残すはダンバト用転移陣5個の設置である。

 でもその前に指示を飛ばしておく。


 ゴブ達には新たなに追加購入した酔いどれシリーズも含め、木々の移植を依頼。

 アヤメには通常転移陣の再設置を。


 それでは俺もやるべきことをしますか。


 勾配上の縁ギリギリにダンバト用転移陣を置いてみるが、赤色に点滅。

 これは設置不可のシグナルである。


 ここに設置可能だったら転移直後の侵入者達をそのまま勾配ゾーンへ強制突入させることができのだけれど、無理なようだ。

 でもそれは想定内。


 都合良く物事は運ばないものである。

 気にせず設置可能範囲を探していく。


 結果、勾配の縁から5mほどの距離で青色となり設置完了。

 残りは、4個。


 次は1個目の上に重ねて置いてみる。

 赤色に点滅。


 ダメだよな。


 当然分かっていたけれど、バグか何かの気紛れで設置できるかもしれないから念のため試しただけ。


 今度は縁との距離も一定に保ちながら、そこから横へズラしていく。

 そして5mほど横で、同じく青色となり設置完了。

 

 うんうん。

 なるほど。


 5m四方が平地ならOKってことね。

 と言うことで残り3個も同様に設置してく。


 そして全て設置完了。

 縁ギリギリに置けなかったのは残念だけれど、十分に及第点である。


 1体ずつ送り込まれたらこの頑張りが無意味になってしまうけどね。

 でも団体様御一行の転移なら、一定数は勾配コースへ一直線に雪崩れ込むと思う。


 あくまでも希望的観測。


 どうなることやら。

 対戦相手の魔物達には悪いけれど、無事に転がってくれることを祈るのみ。

 

 ん!


 通常の転移陣設置を終えたアヤメが戻って来たようだ。


 「タオ様ーっ。完了です」


 「お、ご苦労さん。じゃ、戻ろっか」


 新たに設置した通常転移陣の場所を作業しているゴブ達に伝え、俺達は戻ることに。


 コアルームに戻りアヤメとは別れ、いつものソファーへ。


 ダンバトまで、残り30分。


 もう残り時間も僅か。

 掲示板で同期達の様子を覗いて過ごすことに。


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      ・

      ・

      ・


:祝、ダンジョン10階層達成 (¯﹀¯)えっへん

:なんで、減るんだよw

:ww

:2時間前は、20階層達成って言ってたよねw

:ヽ(~-~(・_・ )ゝ 逮捕します


      ・

      ・

      ・


:進化玉を全てスライムに突っ込んだ俺、勇者 ( ˊᵕˋ)ノ

:スライム最強説なっw

:真偽します。1進化に何個つかった?

:2個だったかなー ( ˊᵕˋ)ノ

:そこは、嘘でも1個と言っとけーっw

:ヽ(~-~(・_・ )ゝ 逮捕します

:逮捕ちょい待ち、意外と微妙な線なんだよなー

:だねw


      ・

      ・

      ・


:あー、パン食べたいっ

:ショップで売ってるだろー、固いのがw

:それ、パンじゃーないからっ( ' ^'c彡☆))Д´) パーン

:あれ、売ってなかったーー超高級パン

:あれねー。有り無しで言うと有りだけどー違うのよ

:うんうん。私も

:しっとり食感とーーモチモチが足りない

:超高級パン、意外に買ってる人多くてービックリΣ(・ω・ノ)ノ!

:おいらは、コーラが飲みたい


:おいっ、それは禁句だろっ

:そうだぞっ、みんな我慢してるんだからーっ

:俺、前にサポートセンターに繋がった時に聞いたんだ(#゚Д゚)

:お、伝説のサポセンか

:噂のサポセン。それでそれでっ

:続きをはよーっ

:俺、前にサポートセンターに繋がった時に聞いたんだ(#゚Д゚)

:死んでください

:ダンバト開始直後にー、潰すっ

:お前のところのコア、叩き割るぞっ


:どうどう。冗談だよ。でも聞いたのはほんと(#゚Д゚)

:おまっ、マジで話せよーっ

:いいから、はよー

:禿げるから、はよー

:ドキドキ

:あるらしいよ(#゚Д゚)

:な・に・がーっ

:許すまじきっ!!

:ヽ(~-~(・_・ )ゝ 逮捕します


:(゜∀゜)⊃✄╰∪╯処刑します

:ショップのバージョンアップが出来れば、地球産の商品購入が可能になるらしい(#゚Д゚)

:えっΣ(・ω・ノ)ノ!

:ほんとっ

:ええええーー

:やばっ

:きたーーっ

:女神曰く、だけど(#゚Д゚)

:どう考えてもースキルガチャだなっ


:でもーチケットないよー

:俺もなし

:私もー

:ですです(* ᴗ ᴗ)⁾⁾

:ダンバトの報酬で、ガチャチケットの大量ゲットしかないなっ

:だなっ

:ヤバ、俄然、やる気が

:わたし、頑張る

:ごめん。みんなー私のためにボコボコになってねw

:やるっすー


:チケットのために勝つッ

:最低でも上位に入りたいなー

:ですです(* ᴗ ᴗ)⁾⁾

:お、そろそろ

:ん?

:ダンバト、始まるよ

:もう、そんなっ

:準備しますかー

:対戦する際は、皆さま、お手柔らかにお願いします

:俺も、よろしく・ω・)ノ


:よろです

:ワクワク

:よろ┏〇ペコッ

:よろよろ ( ˊᵕˋ)ノ

:ですです(* ᴗ ᴗ)⁾⁾

:片っ端から、倒すのでよろしく

:夜露死苦


      ・

      ・

      ・

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 ダンバトまで、残り0秒。


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