第022話 邂逅(2)


 「色は?」


 「ゴールドを帯びてキラキラしてー、綺麗なのじゃっ」


 あ! 

 終わった。


 身に覚えありまくり。

 下のゴブ達も思い当たる節があるようで、ブルブルと震えながら青ざめている。

 

 卵は旨いからね。

 俺は食べてないけどね。


 でも許可を出したのは俺である。

 だから同罪。

 言い逃れできない。


 どうせならこのポンコツ謎生物が、何者なのかと思い『簡易鑑定』を使うが、


 ――ピッコン♪


 この場に似つかわしくない電子音が脳内に。

 そして――


------------------------------------------------------------

簡易鑑定失敗

:データ取得エラーにより欠落箇所有り

:表示しますか?

 Yes / No

------------------------------------------------------------


 失敗お知らせメッセージが表示。


 えっ、マジ!

 失敗って。


 当然『Yes』を選択。

 見れるならみるよ。


 そして――


-----simple Analyze-------------------------

【名前】 �����

【種族】 ルナゼロエ(��)

【戦力】 �����

---------------------------------------------------


 お!

 なるほど。

 名前と戦力が取得エラーで文字化け状態に。


 読み取れた種族は――


 ルナゼロエ。


 それに性別こと雌雄も文字化けのようだ。


 うんうん。

 参った参った。

 データもまともに取得できない異常な存在。

 

 改めて異常ポンコツ謎生物を見つめる。


 そうだよね。

 頭部半分だけでこの大きさ。

 正真正銘のバケモンだな。


 覚悟を決める。

 よしダメもとで、否定してみよう。


 「キラキラ卵ねー。ないよ」


 「っふん。そんなことはあるまい。微かに匂いがするぞっ」


 ぐっ!

 コイツ、分かっててここに来てたのか。

 それも様子見までして、泳がされてしまった。

 ガーンである。


 異常ポンコツ謎生物の方が一枚上手うわて

 詰んだ。


 もうどっちしても言い逃れできないから、素直に話すかね。


 「おーあれかー。あれねー。そう言われたらーキラキラしてたかなー、あれはっ!」


 「っふふ。が多くなったのー。まあ、我は卵さえあればー良いのじゃ。ここに持って参れっ!」


 さっきの根に持ってるなコイツ。


 「えーと、5個?」


 「いや、少ないなっ」


 「ならー、10個?」


 「いやいや、もっとじゃっ」


 うーん。

 もっとか。

 コイツ、しっかりと卵の数を覚えてるな。

 致し方ない。


 「やっぱー、20個?」


 「おーそうじゃ、確かそんなもんだったっ」


 「でもー、25個だったとか?」


 「いやいや、それはーちと多いの。やはり20個じゃっ」


 流石に引っかかることはないか。


 「20個?」


 「そうじゃ、そうじゃ。だから早く持って参れっ」


 とは言っても10個しか残ってない。

 謝ろう。

 

 「ごめん。半分食べた」


 「なんじゃとーっ。我の卵を。んーーでも、半分あればーまあ良いか、あれは美味だからのーうんうん。ではー残り半分の10個を持って参れっ」


 んー!

 うん?

 聞き違いか。


 「美味?」


 「ん、そうじゃー、あれは最高に美味じゃっ。其方そなた達も食べたのだろっ」


 うーん。

 聞き間違いじゃ、なかったようだ。


 俺は疑いなくこの安本丹あんぽんたん自身が生んで、後生大事に育てていた卵だと思っていた。


 蓋を開けて見れば、同じ穴のむじなである。

 おそらくはどこかで盗んだ卵をここら辺に隠し、それを俺達が発見したのだろう。


 「因みにどこからー掻っ払かっぱらってきたんだ」


 「マグマだまり周辺で獲れるだがー、あれは大変なんじゃーっ」


 「マジか、そんな地中深くかー、ヤバいな」


 「おお、大変さが分かるか、そうなんじゃ。それに危ないヤツもいるからのーっ」


 超々圧力で固体を維持しているマントルから飛び出したものが、溶けて集まって出来たのがマグマ溜り。

 地球だったら地中20~50km。多分だけどね。


 それに食欲のためだけでそこまで採りに行くって、美食ハンターじゃん。

 卵限定かもしれないけどね。


 「お前でも危ないヤツがいるんだな」


 「まーそこまでもないのだがー。油断したら、ヤラれるかのーっ」


 いやいや。

 十分、危ねーじゃん。


 「因みにーその危険なヤツって」


 「大きな魚じゃ。だがいささかアホでのー、複数箇所で卵を産むんじゃよ。そヤツが他の場所へ見回りにいってる隙に、頂戴する。余裕なのじゃっ。がっはっは」


 地中深くで計画的犯行って、卵好き過ぎる。

 やっぱり美食ハンターだな。


 「直ぐに食べれば良いだろうに。なんで、この辺に隠したんだ」


 「寝かせばー旨味マシマシになるのじゃ。それにこの辺りに生息する魔物ではー卵が割れんからのーっ」

 

 でしょうね。

 どの岩石やどの魔鉱石よりも遥かに硬いと、ゴブ達が騒いでた記憶が。

 しくも掘削に特化した俺達だから、割れたんだろうな。


 でも割ることは出来なくとも、持ち去ったり、そのまま飲み込む可能性もあると思うが。


 「そのまま野晒のざらし状態と言うかー、放置プレイ?」


 「卵か? いやいやーそんなことは流石にしないぞ。周囲を強めに固めてたから本来はのー、卵まで辿り着けないはずなのじゃがーっ」


 ほうほう。

 一先ず盗品対策はしていたようだ。

 でも俺達なようなイレギュラーは予想できず。

 

 それに発見したゴブ達の話では、土や岩石で囲まれた中にあったと言っていた。

 硬度は、いつもより少し硬い程度。

 恐るべし、ゴブの『掘削』スキル。


 でも安本丹異常ポンコツ謎生物の話を聞く限り、その方法で今まで盗まれたことがなかったようである。

 そのため安心しきっていたところ俺達に奪取されたと言うことだ。

 残念過ぎる。


 逆に俺達からしたら僥倖ぎょうこう

 絶対的に到達不可能な深々度しんしんどにあった卵である。

 でも現在も含めると厄災だが。


 そしてそろそろ食べ頃だと思い来てみたら、卵も何もないと。


 因みに卵20個の内、既に10個は食べてこの世にない。

 ゴブ達が皆で分け合って美味しく頂きました。南無。


 そして残り10個は餌である魔力を食べに食べ、20cmほどから1m弱へサイズアップ。

 付け加えゴブ達の魔力には反応してくれないので、俺一人で餌やりをしている。

 見守り自体は手伝ってもらっているけどね。


 他の橙色の卵と同様に大切に育成中なのである。

 それだけに現時点でそれなりの情があり、素直にお返ししたくないのも事実。


 どうしたものか。


 「サイズは、このくらいか」


 「おお、そうじゃー大きさはそのくらいが丁度良い。一番美味いっ」


 「因みに、今のサイズはこれくらいだ」


 「な、なんじゃっ! 其方そなたー成長させたのか、とんでもないことをする。んーでも、ちと味は落ちるがー致し方なしか。それで我慢するかのーっ」


 なるほど。

 成長したことで食べ頃である旬は通り越してしまったと。


 下のゴブ達に旨かったか尋ねてみると、頭をブンブンと振りながら『めっちゃ、旨かったっす』と返事が返って来た。


 代替品があれば、良いのだが。


 「期待してるところ悪いが、渡せん」


 「な、なぜじゃっ! 我の卵なのにーなぜじゃっ」


 「至って単純明快。既に俺が育てているのでーお前の卵ではなく、俺の卵。俺の卵を返せと言われてもー困るっ!」


 「ぬ、ぬぬーーっ! わ・れ・の卵じゃっ!!」


 盗品を盗品された安本丹異常ポンコツ謎生物が本気で怒り始めたようで、一気に凄まじい量の重厚な魔力がうねり、溢れ出す。


 より一層、張り詰める空気。


 下のゴブ達を見ると首を横に一生懸命振り、『怒らせてはダメっす。た・ま・ご、渡しましょう』と面白顔で伝えてくる。


 ふっ。

 笑える。


 それに旨い。

 安本丹異常ポンコツ謎生物の魔力を頂戴している最中でもある。

 自然と吸収し始めたので驚きはしたが都合が良かったので、そのまま状態だ。


 それにより現在進行形で、視界上部の魔力である青色のステータスゲージの最大値が、グングンと伸びに伸びて視界右を突っ切っている。

 ズラせば、遥か遠くにある右先端を見ることは可能だが。


 それにしても美味い。

 高揚感が生じるほどに。

 この後の最悪の事態に備え、有り難く頂く。

 最後の晩餐になるかもしれないからね。

 ちょっと自虐過ぎたかな。


 でも100%勝てないのは分かっている。

 だからせめて一矢を報いたいのだ。

 最後の最後で頂戴した魔力を1発にめ、是非ともお返ししたい。

 鱗1枚でも貫ければ、上々。


 とっくに腹は決めているのだ。

 それでは最後の交渉を始めようとしようかね。


 「まあ、待て。とは言っていない」


 「……」


 眼光鋭く、無言の圧力が半端ない。

 でも耳を傾けてる感はある。

 

 それならばと『アイテムボックス』からコーラを取り出し、見える様に掲げる。

 どうだろうか。

 反応があってほしいところ。


 この世界にやってきてから問題を乗り越える際に使用してきた愛する必勝アイテムだ。


 ん!

 お、怒気が少し下がったような。


 透かさず慎重にゆっくりとコーラのキャップを開ける。


 ――パキパキッ カシュッ


 そしてプチっとキャップを取り払う。


 「うおっ! なんじゃーっ、それっ!!」


 コーラの豊潤な香りが伝わったようだ。

 即反応あり。


 俺はしっかりと鼻を近づけないと分からないけどね。

 でも異様な存在である安本丹異常ポンコツ謎生物は、もありなん。


 間違いなく嗅覚も異常なほどに発達しているはずである。

 キラキラ卵の匂いもキャッチできているようだからね。

 さぞかし素晴らしいお鼻をお持ちなのだろう。


 「これは『コーラ』。この世界に存在しない神アイテム。ある世界では至高の一つとされているものだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る