G列伝02話 成人の儀
< side 名無しのゴブ太 >
――ガンガンッ ドンガンガンッ
岩石置き場の隣の最前線こと拡張工事現場から、子気味良い音が響く。
――ガンガンッ
「キョエーッ!! 」
――ガッ
「キュ…ゥ……」
――ドンガンガンッ
岩盤の切れ目から魔物が顔を出して侵入してくるが――
岩盤ごと破砕され、瞬殺されていく。
そんな中、先輩ゴブ達が砕いた岩盤がこちらに運ばれてくる。
ある程度の大きさと言っても大きな岩石であることには変わりない。
それを更に細断するのがオイラ達のお仕事である。
因みに手には中古だけどしっかり修繕され握り心地バッチリのピッケルが。
防具も同じく中古だが修理済み。
それにしても硬い。
硬過ぎるゴブ。
「手を止めるなー、新人どもっ!」
御目付役の先輩ゴブからの
「……硬いゴブ」
「「ほんと、それゴブ(よ)!」」
ついつい零れる本音。
周囲のゴブからも同意の後押しが。
「ハッハハ、……硬いか! そーりゃー、硬い岩盤の欠片を砕くのだー当然だな。ワッハッハ」
笑いごとじゃ、ないゴブ。
アドバイスすら貰えないことに周囲のゴブ達と一緒にがっかり。
新人ゴブ達の落胆した姿に呆れて、
「はー、致し方ないか。コツを教えてやる! 硬いものをピッケルで普通に叩くからダメなんだ。よいか、硬いなら心で打てっ!」
「「「おお(カッコよ)」」」
意外過ぎた内容に驚き、新人ゴブ達の声が揃う。
まさかの極意。
それを教えてくれるなんて、感謝だゴブ。
あの先輩ゴブ、めっちゃ良いヤツ。
よし、心で打つゴブ。
「せーのっ!」
――カンッ
「うっ」
ピッケルが岩石に弾かれた。
手が痛いでゴブ。
周囲のゴブ達も同じで手が痺れているようだ。
く、騙したゴブ。
あの先輩ゴブは悪いヤツだ。
よく見れば、悪人面。
もう信じないゴブ。
「心を閉ざしたままで打ってもー響きは、せんっ!」
「信じる心が足りておらんからだっ! 心だ。こ・こ・ろっ!!」
心にもないことを。
冗談にも程がある。
「心の開放だっ!それこそが開眼への近道っ!!」
まだ言ってるゴブ。
無視して岩石の細断に取り掛かる。
痛いけど、我慢ゴブ。
仕事を少しずつでも熟していく。
周囲を見渡す。
まだ先輩ゴブのことを真に受け、挑み続けるゴブも少なくない数いる。
でも大半はオイラ同様に胡散臭い目を向けているようだ。
地道が一番の近道ゴブ。
「せーのっ!」
――ガンッ
お!
さっきよりは食い込んだ感じ。
でもー、痛いゴブ。
その後も痛みに耐えながら、一生懸命にピッケルを振るい続ける。
そして腫れ上がった掌をフーフーしながら一休み。
その時、少し離れたところにいるゴブが――
「あ、割れた! わーい!!」
「お、やっと出来たかっ! ガッハハ」
ん!
硬い岩石が?
そんなバナナ。
すると隣から――
――パカッ
「あ、私も! やったっ!!」
え、まじバナナ。
音がした方へ振り向くと半分に割れた岩石と小さくガッツポーズをしながら喜ぶゴブ美。
可愛いゴブ。
「他の者も頑張れーっ! いいか心だーっ! ザ・こ・こ・ろ!!」
体で機敏に『こころ』を表現する先輩ゴブ。
んー!
『心』なのか。
認めたくないゴブ。
でも割れない事実が重くのしかかってくる。
「心で割るゴブよ」
ん!
唐突に話し掛けてくるゴブ美。
可愛い。
一瞬で洗い流されるオイラの
「わかったゴブ」
「じゃー、いくよ」
掛け声に合わせて、ゴブ美に
「「せーのっ!!」」
――ガンッ
岩石に亀裂が広がり――
――パカッ
半分に割れた。
おお。
「やった! 嬉しいゴブ! ありがとーゴブ」
「やったね」
一緒に喜んでくれるゴブ美。
優しくて可愛いゴブ。
出来るようになったことが楽しく、ゴブ美と
楽しくて可愛いゴブ。
「全員できるようになったなっ。よし、注目っ! ステータスを見てみろっ。『穴掘り』が生えてるはずだ。次はそれを成長させるぞ。場所を変えるからー、俺に続けっ!!」
岩石割りが成功したことで、信頼を得たのだろう。
先輩ゴブを尊敬の眼差しで見つめるゴブ達。
オイラも話を聞きながら頷き、最初に教えてもらったステータスを確認する。
穴掘りLv.1(New!!)
おお!
やったゴブ。
初めてゲットしたスキルにテンションがあがる。
「ゴブ太、行くよ」
「うん、わかったゴブ」
ゴブ美へ積極的に話し掛けるゴブ郎とゴブ吉も合流して、皆で敬服する先輩ゴブに率いられゾロゾロと付いて行く。
*
*
*
暫く歩いて到着した場所は、濃厚な鉄の匂いが漂う戦場。
少し離れたところで侵入者と戦うゴブ達が。
雄叫びや咆哮が飛び交い、激しさが窺える。
少し離れているが飛び交う血肉も。
「よし、到着。そしてー注目っ! ここは新人ゴブ用の修練場だ」
先輩ゴブからしたら有り触れた日常なようで悠然としているが、オイラ達からしたら修羅場だ。
隣の面々は、息を吞む光景に驚愕している。
「続けるぞ! ここでヤルべきことはー、
カマカマ?
ゴブ達に襲い掛かっている魔蟲のことか。
体長は、1~2mほど。
クルリとした目に曲がった背が特徴で、頭部に触角はなく細く短い角が縦に3対。
色は、胴体が黒で脚は白。
「『穴掘り』が『掘削』にアップするまでだっ! 終わった者から晩飯なっ!!」
「晩飯ゴブ!」
「楽しみゴブ!」
能天気なゴブ郎とゴブ吉は、既に晩飯のことで頭が一杯のようだ。
ある意味、幸せそうで羨ましいゴブ。
それにてもカマカマは、強そうである。
どう見ても格上。
倒した先からゴブをバキバキと食べてる。
どう見ても捕食者。
「あ、そうだ! 当然、お前達より強い。10倍以上だっ!! 忘れずに言っておく」
知りたくなかった現実が、嫌過ぎる。
周囲のゴブ達もガビーン状態。
当然オイラも。
超絶過ぎる難易度に遣る瀬無さが募る。
「まーこんなところか。ではー開始な。よし、気張って行ってこいっ!」
何とも軽い。
軽過ぎる言い草。
どう考えてもこの先は、死地。
ん!
一番手前のゴブが先輩ゴブに話し掛けてる?
「ん、なんだ? コツか。まー致し方ないか。死んだら聞けないからな。ッハハハ」
お!
コツがあるのか。
強敵相手に愚直に突っ込むのは、流石にダメなことは分かる。
能天気組以外は、息を飲み静聴。
「避けろ。避けて打つ。ただそれだけだ。シンプルだろっ! ガッハハ」
ん!
シンプル過ぎて言葉を失う。
コツでも何でもない。
「よーし、行ってこいっ!」
いや、行けるか!
ゴブ道過ぎて、滅茶苦茶である。
そんな中――
「「「おーっ!!」」」
能天気組が喜んで、阿鼻叫喚と化した戦場へ我先へと飛び込んでいく。
マジか。
バカ過ぎる。
「ビビるなっ! ゴブにビビりはー必要ないぞっ!!」
始めの一歩が出せずに
そうこうしている内に数人ずつだが、意を決して
行くしかないのか。
でもと覚悟を決められずに、仲間達の戦いを食い入るように見つめる。
勇猛果敢に1体のカマカマに群がるがゴブ達。
2対の前脚で削られ、次から次へとバラバラ死体と化していく。
ゴブの手足や頭部が宙を舞う。
お!
そんな中、素早く立ち回りカマカマの鎌のような前脚の攻撃を避け、ツルハシを胴体へ見事にヒットさせたゴブがいる。
でもカマカマの外骨格に弾かれダメージは無いようだ。
「ガッハハ。今のは惜しいなっ! いいか。良く聞けー新人どもっ!! 岩石だと思えっ!!! ただ当ててもー意味がないぞっ。動く岩石っ。攻撃してくる岩石だっ!!」
戦っているゴブ達にも聞こえるように大声で檄を飛ばす先輩ゴブ。
岩石?
カマカマを岩石だと思って打ち込めと。
ん!
もしかして、そう言うことか。
分かったゴブ。
それは、一筋の光。
岩石と同じように割る。
何を?
カマカマの硬い外皮。
倒せるかもしれない。
いけるゴブ。
ん!
ここへ来て静かになってしまった隣のゴブ美が震えている。
絶望たる状況。
当然である。
励ましの一言でもと思い。
ゴブ美の肩を優しくトントンと。
そして振り向いたゴブ美は、なんと――
静かにフーフーと力強く息を吐く、鬼の形相。
えええ、武者震い!
一切のビビりは見られない。
そして抑えきれない感情を爆発させたように
続けとゴブ郎とゴブ吉も血気盛んに飛び出す。
んー、仕様がない。
オイラも行くゴブ。
満を持してではないが、頃合い。
短い付き合いではあるが、仲間の背を追い掛けて走り始める。
*
*
*
あれからどれくらい経っただろうか。
もしかしたらそれほどの時間の経過はないのかもしれないが。
戦場の中へと更に進み。
ここは激戦地。
ゴブとカマカマの死体で、
その中をどうにか生き抜くことが出来ているオイラ。
当然、ゴブ美・ゴブ郎・ゴブ吉も健在。
周囲には生き抜いたゴブ達の集団がいくつも出来上がっている。
何度も死地を乗り越えて来たわけで、動きもチームワークも良い感じ。
途中で意気投合したゴブ江を加え、もう何体ものカマカマを5人で力を合わせて倒している。
チラッとステータスを確認。
レベルは、
Lv.1 → Lv.35
スキルは、
穴掘りLv.19(Up!!)
レベルアップした今でも、力では到底カマカマには敵わない。
なのでノーダメで戦闘を熟す必要がある。
攻撃パターンや動きは当初よりは見えるようになったが、油断大敵。
「「「ズィーッ、ズィッ!」」」
新たなカマカマ一行が咆哮をあげながら現れたようだ。
先ずは個別撃破するために1体ずつにバラしていく。
5人の中で一番足が速い囮役のゴブ吉が小石を任意の1体に当ててオイラ達が待つ場所へ
「成功ゴブっ」
「「「ナイス、ゴブ吉」」」
そして1体のカマカマがゴブ吉の後を追ってやってきた。
「ズィッ!」
ない鎌を持ち上げ、威嚇してくる。
怯むことなく一定の距離を保ちながら皆で囲む。
カマカマの正面に立つゴブ美からの号令。
「いくよっ!」
「「「おおっ!!」」」
それに合わせ、一斉にカマカマに襲い掛かるオイラ達。
因みにオイラは、後ろからの攻め担当。
器用に前脚2対と後脚2対を使って、オイラ達に反撃をするカマカマ。
後ろからの攻撃にも対応するあたり後方もバッチリと感知されているっぽい。
振り降ろされた鋭い後脚の攻撃を想定通りに避ける。
地面に
――ガッ
打ち付けた箇所に
即、バックステップで後方へ。
そしてその脚が砕けるまで狙い続ける。
全ての脚が無くなってから胴体へと取り掛かる。
これがオイラ達のやり方。
何より凄いのが、正面で対峙し続けているゴブ美。
誰よりも鋭い攻撃を避け続ける体力と集中力。
素直に称賛。
そして感謝。
他の面々もノーダメで作業を熟す。
そして無事に胴体への一斉攻撃に移行。
――ガンガンガンッ
「ズィーッ!!」
尚も胴体を必死に動かし暴れながら頭部で噛みつこうと足掻くカマカマ。
だが口腔内はゴブ美に全て折られたため、ギザギザの牙が一つもない。
攻撃の手を緩めることなく、追撃していく。
――ガンガンガンッ
のた打ち回るカマカマ。
次第に動きが悪くなる。
そこへ各々の渾身の一撃を叩きこんでいくオイラ達。
――ガンガンガンッ
そして遂に――
「ズィッ……ィッ……」
動くことのない、躯と化す。
「「「おお(やったね)」」」
皆で喜びを分かち合う。
それから間を置かずにゴブ美からの号令が、
「次、行くよー」
カマカマ周回の再開である。
戦闘後に座っていた面々がオイラも含め立ち上がる。
次の獲物を
*
*
*
どれほどの時間が経ったかは分からないが、腹が減る度に倒したカマカマを食べた。
特に美味しかったのは、ツルツルのシコシコの内臓。
歯応えと喉超しがたまらん。
ゴブ美とゴブ江が取ってしまうので、中々食べる機会が得られなかったが、目玉と脳味噌のジュルジュルも比べようがないほど最高だった。
魔蟲が少しは好きになったかもしれない。
どこを食べても旨いゴブ。
戦闘と食事を繰り返し、グルメになりつつあるオイラ達。
「じゃ、もどろっか」
「「「うん」」」
焦り帰りの準備ことカマカマの残りを持ち帰るため拾い集めるオイラとゴブ郎。
食べ残しはいけません。
キリッ。
実は今食べてたのがここでの最後の食事であった。
漸くゴブ江も『掘削』にアップすることができ、オイラ達5人ともに目標達成することに。
因みにレベルは、
Lv.35 → Lv.219
スキルは、
掘削Lv.3(Up!!)
帰路につく面々の表情は遣り遂げた感からか誇らしげである。
そんな中、オイラは少し元気がない。
右手に持つ大事なピッケルが、最後の一撃で壊れてしまったからだ。
ゴブ江からは、周囲に落ちてるピッケルから好きなのを拾えばと言われたけど、気が進まない。
死線を潜り抜けた戦友だからだ。
友を気楽に挿げ替えるようなことはできない。
可哀相な気がするゴブ。
だからちょっとだけシュンとしている。
「お、帰ったか! 良い顔になったな。カッハハ」
先輩ゴブから称賛され、みんな嬉しそうである。
「ん、壊れたピッケルを後生大事にか!まー悪くないがー、戻ったら今度は中古じゃない新品のピッケルが与えられるぞ。それで漸くお前らもー一人前になったと言うことだな。ガッハハ」
ん!
なにそれ。
それを聞いて元気にポイっと捨てて、ゴブ美のあと追って歩き出すのであった。
そして、新たな称号がタオのステータスに刻まれることに。
称号 9死に1ゴブ(New‼)
称号 死屍累々(New‼)
称号
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