第015話 エンペラー


 サッと華麗にサングラスを外す。

 そして、キラッとした笑顔を振りまく。


 「「「……」」」


 無反応のゴブ達。


 俺に全く関心がなかったようだ。

 残念。

 と言うより進化したばかりの自分の体に興味津々きょうみ しんしんである。


 目の前の俺より、ピッカピカの己の体ですよね。

 リアクションに期待した数舜すうしゅん前の己が、恥ずかしくなってくる。


 それにしても再びダメージを負うとは、進化あなどがたし。

 あの光の奔流はヤバ過ぎ。


 今後の課題がまた1つ増えてしまったかもしれない。

 ハナからサングラスでは防げないのか、100均で購入したものだから性能的に足りないのか。


 おそらく、両方だろうけどね。


 それはさておき、生命の神秘こと奇跡を垣間見た後の面々をチェックせねば。


 えーと。

 秀才ゴブは、ソルジャーからリーダーへ。

 イケゴブ含む脳筋組7体は、リーダーからナイトへ。

 想定通りに進化。


 前半組も含めここにいる誰も彼もゴブ達の中では、抜き出て優秀なのだろう。

 戦力の伸び幅が予想を超えてくる。


 その中でもやはりイケゴブかな。

 よりイケメンっぽくなってるよね。


 進化前、

-----simple Analyze-------------------------

【名前】 

【種族】 ホワイト・ハイ・ゴブリン・リーダー(♂)

【戦力】 8,880

---------------------------------------------------


 進化後、

-----simple Analyze-------------------------

【名前】 

【種族】 ホワイト・ハイ・ゴブリン・ナイト(♂)

【戦力】 29,970

---------------------------------------------------


 進化前の3倍超え。

 通常種のサラマンダーの初期戦力値が、3万越えだったはず。


 うんうん。

 凄いな。


 体格も二回りほど大きくなったような。


 もしかしたらオーガをワンパンできるかもしれないな。

 初期戦力限定だけどね。

 でも夢が広がる。


 あ、そうだ。

 秀才ゴブだけ2次進化済みことリーダーなので、進化玉を別途追加で渡しナイトへ進化させる。

 これで目の前の8体ともにナイトへ。


 お揃いの方が、見易いよね。

 ただそれだけ、他意はない。


 よし、始めるか。

 後半組はこれで終わりではなく、ここからが本番。


 彼ら彼女らには、当ダンジョンのヒーローになってもらう。

 イメージ的には、急先鋒だったり最後の砦かな。


 同期達と違い、俺には推しの魔物はいない。

 手に入らないからね。


 でも進化玉は、同期達より多く所持している。多分だけど。

 漸く手に入れたアドバンテージを生かさない手はない。

 それに宝の持ち腐れは良くないからね。


 残りの進化玉は、1,096個。


 ゴブに使う。

 と言うより、使わざるを得ない。

 だったら、徹底的に。


 そう言うことで、再開である。

 面々に進化玉を渡す。

 それにより残りは、1,088個へ。



   *

   *

   *



 問題なく8体ともに、ナイトからジェネラルへ。

 これで、4次進化済み。


 そして、イケゴブから確認。

 種族名に新たな表徴は見られない。


   【戦力】 93,240


 戦力は、進化前の3倍超え。

 3倍で推移しているのかな。


 他のゴブ達の戦力は、2~3倍の範囲でアップ。

 当然だがそれぞれの成長率に違いが見られる。


 それはそうとサイクロプスの初期戦力が、10万強だったはず。

 あともう少しで追い越せるところまでやって来てしまった。

 それもゴブリンで。


 因みにサイクロプスにも色々いる。

 上がっているテンションを自分で盛り下げるのもあれだけど、挙げたサイクロプスはその中でも外れ枠。


 当たり枠には、デュオ2つ目サイクロプスとトリア3つ目サイクロプス(3つ目)がいる。

 それぞれの初期戦力は、50万強と100万強だったはず。


 上には上がいるもんだね。

 

 現実で少し頭を冷やす。


 ん!

 

 「っふ」


 目の前のデカゴブの様子についつい一笑いっしょうしてしまった。

 頭が天井に達している様で、窮屈きゅうくつそうにしている。


 デカゴブ同様に数体ほど、頭の置き場に困惑気味だ。

 可哀相に、右へ倒したり、左へ倒したりと忙しくしている。


 見兼ねて玄関ホールの高さを10mから20mへ拡張することに。


 えーと。

 ダンジョン・メニューの『ダン作成』で拡張を選び、部屋の高さをタップして数字を入力。

 最後に『実行』をタップして、拡張完了。

 このような作業は既に慣れたもんだ。

 パッパッとやって、終了である。


 拡張する空間に人が居たので、ダンジョンポイントは10倍ほど掛かる。

 だけど規模からして微々たるもので許容範囲内である。


 それに特典報酬により財源は、うるおっているのだ。

 困ることはない。多分だけどね。


 頭がつかえていたデカゴブ達の頭部問題が無事解決したので、再開して次の進化へ。


 

   *

   *

   *



 そして問題なくジェネラルからキングへ。

 5次進化済み。


 進化玉の使用数に変化はない。

 それを用いた進化において、何ともお手軽なゴブ達である。


 加え予想外の変化もないので、そのまま次のキングからロードへと進化をさせる。

 6次進化済み。

 

 同じく種族に特別な変化はない。


 ロードに進化したイケゴブの戦力は、


   【戦力】 959,940


 95万強。

 

 くー。

 おっしいね。

 あともう少しで100万の大台だったのに。


 他のゴブ達もイケゴブほどではないが、良い感じで戦力がアップしている。

 ゴブだけの世界のゴブ新聞があれば号外が配られるほどの快挙で、トレンドなら1位間違いなしだと思う。多分だけどね。


 体格は四~五回りほど大きくなっている。

 指が俺の腕より大きい。


 因みに体長は、大きめのデカゴブを含めた面々で15~16mほど。

 目算なので正確ではないが。


 イケゴブもシュッとしたまま10mほどに。


 それぞれの特徴だけを残しながら、劇的な変化を繰り返すゴブ達。


 気になる次の進化。

 どうなることやら。

 期待半分不安半分のドキドキでもある。


 そして進化自体は支障なく無事に終わり、ロードからエンペラーへ。

 7次進化済み。 


 えっ!

 ひょえー、そっちか。


 予想では更に馬鹿デカくなると思っていたが――


 小さくなっちゃった。


 結果が予想の斜め遥か下過ぎて、驚きを隠せない。


 んー。

 でも弱くなった感は、一切ない。

 ギュっと凝縮されているような。

 

 なんだろうな、これ。

 凄みが増す?


 いやー、違うな。


 ん!

 禍々しい。


 うんうん。

 シックリですな。

 その言葉に尽きる。


 怪獣化邁進中と思っていたのに、少々残念な気もするけどね。

 大きいってロマンと言うか、単純にカッコ良い。


 それは置いといて10mを優に超えていたデカゴブ達は、7~8mに。

 イケゴブは5mほどで、秀才ゴブは4mほどに。

  

 体からにじみ出る魔力の濃さが半端くなく高まっているように見える。

 それと体躯の凝縮感が半端ないにも関わらず、顔付きからはゴブ要素が抜け落ちている。


 ゴブを卒業したのかもしれない。

 どこからどう見ても非常に背の高いもししくはデカい人族にしか見えない。

 まあ耳先の尖り具合や異常発達した犬歯が、見え隠れしているが。

 

 皮膚の色は進化を遂げる毎に濃くなるようで、基調色を残しつつ渋めの配色に。

 当然、艶やハリもアップして上々の仕上がりである。


 髪色は、皮膚の対なる原色系。

 キラキラと輝いて綺麗だ。

 

 キングの時に片言ではあったが話し始めていた言語は、流暢に。

 ゴブ語所以ゆえんのゴブリンのような気もしないでもないが。


 んん!

 お、マジか。

 やっば。


 『簡易鑑定』で確認して驚愕。

 見た目のこれ程の変化だけに何かしらあると思ったが、 想像の域を遥かに超えた内容に肝を潰す。


 秀才ゴブ、

-----simple Analyze-------------------------

【名前】 

【種族】 パープル・ハイ・メア・ゴブリン・エンペラー(♀)

【戦力】 10,333,770

---------------------------------------------------


 デカゴブ、

-----simple Analyze-------------------------

【名前】 

【種族】 レッド・ビッグ・デス・ゴブリン・エンペラー(♂)

【戦力】 31,266,540

---------------------------------------------------


 イケゴブ、

-----simple Analyze-------------------------

【名前】 

【種族】 ホワイト・ハイ・アビス・ゴブリン・エンペラー(♂)

【戦力】 59,570,210

---------------------------------------------------


 先ずまるっきり変化のなかった『種族』に、新たな表徴が追加されている。


 秀才ゴブは、『メア』。

 デカゴブは、『デス』。

 イケゴブは、『アビス』。

 他のゴブ達にも、『メア』と『デス』が。


 これだけのゴブがいて、今まで一度も拝むことが適わなかった表徴――


 『希少種』。


 うちには縁がないのかなと勝手ながら思っていたが、このタイミングでついに開眼するとは。

 素晴らしいことこの上ない。


 それに何より戦力の爆上がりが、凄まじい。


 1つ前のロードだった時のイケゴブは、100万弱。

 進化毎に戦力が3倍強で推移していたこともありエンペラーに達した際は、300万~400万強で、良くいって500万ほどかと見当を付けていた。

 それが嬉しい誤算で、約60倍の5千9百万。


 正に、吃驚仰天びっくり ぎょうてんである。


 他の秀才ゴブやデカゴブも1千万と3千万越えで同様に凄いの一言。

 残りの後半組のゴブ達も同様に1千万~3千万の範囲でアップ。


 見る限り、想定外のアップの要因である『希少種』の表徴にも如実に違いがあるようだ。


   メア << デス <<< アビス

 

 皆の数値的にはこんな感じだと思う。多分だけどね。


 驚愕の連続で興奮冷めやらぬ状態ではあるが、気になって致し方ないことがある。

 エンペラーの次である。

 進化玉の在庫は、たんまり。


 もしかしてと思い想像が膨らむ。

 イケゴブはもしかしての1億越えの可能性も十分に。


 ドキドキである。


 ならばとイケゴブに進化玉を渡す。

 イケゴブも理解したようで、頷き大きな右手で進化玉を握り込む。


 ん!

 イケゴブと目が合う。

 開いた掌には渡した進化玉がある。


 イケゴブでも躊躇ためらうことがあるようで、実行にまだ移せていなかったようだ。


 案ずるなと仏の眼差しを向け、進化を遂行するように促す。

 再び頷き進化玉を握り込むイケゴブ。


 ん!

 変化なし。


 何度もグーパーして確かめながら握り込むイケゴブ。


 え!

 まさか。


 イケゴブと目が合う。

 言葉にするにもはばかれるが、そう言うことのようだ。


 いやいや、進化玉の必要個数が増えたのかもしれない。

 急ぎ追加で取り出した進化玉を渡す。


 何も起こらず。

 念のため20個まで握らしたが、やはり変化はなかった。


 ガーンである。

 とうとう幸運の連鎖が、遂についえてしまった。


 残念過ぎるが、打ち止めの可能性は十分にあった。

 非常に残念ではあるが。


 欲を言えばもう1進化して欲しかったが、こればかりはどうしようもない。

 諦めよう。


 それにずっと気になっていたと言うか、気に障っていたことがある。


 目の前でブラブラと揺れるペットボトル。

 どれも2L越えて3~4Lだ。


 長さ的に糸瓜へちまの方がしっくりくるかもしれない。


 いや、でも。

 少し違うか。


 んー、バナナは?

 いや、そもそもサイズ感が全く合ってないな。

 その上、無理矢理に接頭語を付けて超絶ビッグスーパーバナナでは、折角のバナナが埋もれてしまう。


 難しいな。

 進化に進化を重ねたつや感もあるから、瓢箪ひょうたんと言い直した方が正しいかもしれない。


 でもグロさと迫力が全く足りていない。

 現実のかどを削いで、丸みある表現に加工してオブラートに包むのは良くないのかもしれないな。


 これならば、どうであろうか。


 ちん、ぱい、ちん、ちん、ちん、ぱい、ぱい、ちん。


 俺の眼前に陣取っているゴブ8体の内訳は、オス5のメス3である。


 上手く表現できない。

 困難極まりないな。


 終わりなき問答をこのままするのも面白いかもしれないが、題材としてはいささか不合格。


 取り敢えず進化による体格の変化で、服が破けて状態のゴブ達に、『ショップ』で適当に見繕った布を渡していく。 


 そして今日は、お開き。


 忘れずに『ダンバトがあるから、よろしくね』と念を押し、本日は解散。


 意気揚々いきようようと出ていくゴブ達を見送り、隣の部屋のいつものソファーへ寝そべり、種族の壁について問答を始めるのであった。

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