第027話 周回


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ダンジョン戦(仮)個人戦ーA0067

:タオ・イエシキ VS キョウコ・ワダ

:勝者は、タオ・イエシキ

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 お馴染みと成りつつある勝敗お知らせメッセージが表示。


 よし、終わりっとね。

 やっほいほい。


 幸せの小躍りはしない。

 心の中でね。


 少しは苦しむような戦いが生まれるかと思ったが、そんなことはなく6~10戦目も完封勝利。


 掲示板も開いて流し読みをしているが、今のところ俺に負けた人からのリークはない。

 もしかしたら打ちひしがれて絶賛思考停止中なのかもしれない。

 それはこの上なく素晴らしいことかな。

 俺の安寧あんねいのためにも再始動は是非とも明日まで待って欲しいものだ。


 少し調子に乗ってみたりしている。

 帯を締めるが、勝利を重ねる度に解けてしまうのだ。


 んー。

 どうしたものか。

 マジックテープでもあれば良いのだけどね。

 

 冗談も程々にして一方、『1階層のみのダンジョン』としては注目され続け未だ継続的にどのスレッドでも話題として上がり続けている。

 どれも見下したり軽く小馬鹿にした内容が多いけどね。

 心情的にはムカッとくるがダンバトには支障がないので、寛大な心で華麗にスルー。


 勝利は人の心を豊かにするのです。

 キリッ。


 と言うことでうちへの対策が皆無な今、ご厚意に甘えてそのままダンバト周回を継続。

 そして11~15戦目も完封勝利。

 だがある1つのダンジョンが、ハチ型の魔物を用いてきたため手を焼くことに。


 その時の相手側の部隊編成が、


   ■ホーネット x389体

   ■ホーネット・ソルジャー x45体

   ■ホーネット・リーダー x2体


 ハチ型の魔物。

 翅は2対。

 シャキンッと音が鳴りそうな発達した大顎に、シャープなお尻から覗く真っ黒な極太な針が特徴。

 通常体のサイズは1m弱で、ソルジャー2m超、リーダー4m弱。

 基調は黄色で、ところどころに黒色の横ストライプ入り。


 因みに飛翔型もしくは飛翔が可能な魔物の存在は想定内。

 今までそれらに当たらなかったこと自体が奇跡。

 もしかしたら『幸運値』が良い働きをしていてくれたのかもしれない。

 ありがたやありがたやである。


 そしてとうとうそれが打ち止めに。

 当然だが穴に落ちることなく、颯爽と飛来してきた。


 そしてうちゴブダンゴブリンダンジョンとしては、真面まともに立ち向かうことができぬ相手。

 狭い造りのダンジョンならまだしも、高さも広さも十二分にあるドーム型は逆にあやとなる。

 巨大空間がそのまま飛翔スペースとなってしまうのだ。

 太刀打ちできず、相手の独壇場と化すこと間違いなし。


 だから無理に戦う必要はない。

 組み易い相手とだけダンバトをすれば良い。

 それが賢いやり方。


 ならばと開幕当初からの筋書きであるを粛々と行おうとしたその時、予想だにしない出来事で手を止めることに。


 ホバリングしながらシュッシュッと目にも留まらぬ速さで平行移動しながら攻撃を華麗に躱すホーネット達に、攻撃がヒットし始めたのだ。


 目を疑うに十分な光景。

 そしてそこに展開されていたのは――


 岩石の弾幕。


 圧倒的な量の岩石が面となり、ホーネット達に襲い掛かったのである。


 回避ルートを失い被弾。

 翅を貫かれ落下。

 次々と撃墜されていく姿を驚愕しながらも見つめることに。


 俺の知らぬところで重ねた訓練の成果だろう。

 それほどの見事な連携。


 生半可では到底できないほどのピッタリと揃った弾幕の面。

 間違いなくゴブ達も飛翔型を想定していたようだ。


 うんうん。

 素晴らしい。


 しかし広がる安堵感もそこまで。

 遣られまいと弾幕射程外へ。


 そして次第に攻撃の挙動すらしなくなり、完全に様子見状態へ移行するホーネット達。

 こうなってしまっては、この広い巨大空間では――


 万事休す。


 やっぱり、そうなるよね。

 致し方なしである。

 これも想定済み。


 自ダンジョン内で狩り切ることが出来ないのは不甲斐ないが、でも十分な成果。

 飛翔型にも完璧ではないにしろ対応可能なことが分かっただけで、これからのダンバトでの戦術の幅が広がる。

 今後の伸びしろも期待大。


 そしてそれとは別になんだかんだで残念過ぎるのが、タイムリミット後に強制送還されたホーネット達が、ドーム内部を情報として持ち帰ること。


 やはり嫌過ぎるので思考を巡らせるが、打つ手を見い出せない。

 残念と諦めたそのとき――


 ――ドドドドドドドドドッ ドンッ


 爆音と共に空気の波紋を纏いながら放たれた岩石がホーネット・リーダーの胴体を――


 粉砕。


 それも木っ端微塵に。

 取り残された頭部と腹部が物悲しく落ちていく。


 え、なになに?

 衝撃的な光景に理解が追い付かず、言葉を失う。


 しかも一瞬の出来事でサッパリ。

 映像を止め超スロー再生で再確認して漸く窺い知ることに。


 やった本人はドヤ顔なし。

 大したことでも何でもないようで泰然自若たいぜん じじゃくとしたガクサンがそこに。

 でもちょっと嬉しそう。

 

 雰囲気からしていつでも始末できたが、後進育成のために様子見をしていただけだったようだ。多分だけどね。


 それから応援に駆け付けたエンペラー2人も加わり同様の岩石投げで、パッパッとホーネット部隊全滅。


 その後は危なげないまま無事に終了と言う一幕であった。

 敗北を確信した後からの勝利だったので気持ち嬉しさマシマシでもある。


 そして変わりなく現在進行形で、俺のリーク情報なし。

 ホーネットのダンマスは卒倒中なのかもな。


 それならばと引き続き16~20戦目へ。

 小休憩を挟んでね。


 見守り続ける掲示板では、『タオって誰だよ』などの情報を求む声に対して、顔を微かに思い出せる程度の元同じ中学出身のヤツらが、


:どっちかでいうとー、性格は断然明るくはないかも

:んーどうだろー。顔はブサイクではないが、女子から人気は皆無

:頭はーまあまあ。いや、ボチボチ

:理由はないのにー、なぜかー長い髪


 絶賛ネガティブキャンペーン中。

 好き勝手書き込んでいるにも関わらず、貴重な情報提供者としてチヤホヤされ絶賛浮かれ中でもある。


 俺としてはそれぞに、


:性格は、明るいですがー

:顔は、お前より整っとるわー

:頭は、お前も同じ高校だろー

:髪は、切ると妹が泣くだろうー


 と突っ込み返したいところだが、泣く泣く我慢。

 挑発に乗っては如何。

 震える心に蓋を。


 でも忘れずに心のメモ用紙にカキカキしていると――


 ――ピローン♪


 お馴染みの電子音。

 ユノカからの連絡だ。


------message------------------------------------------

  【ユノカ】今、大丈夫?


【タオ】ん、どうした?


  【ユノカ】タオがー暴れまくってるから、ご本人様に直接色々聞いてみよーかなと。っふふ


【タオ】取材ですかー、ご丁寧にどうもw 気持ち穏やかに過ごしているところだけど


  【ユノカ】いやいや、それは控えめに言い過ぎだよw めっちゃ喜んでるでしょ


【タオ】まー、多少ねw ユノカは見た感じ、ダンバトしてないよね


  【ユノカ】うん。私はーもう少し様子見かなー


【タオ】慎重ですなー。でもまあ、それも有りかもだけどー


  【ユノカ】ん、だけど?


【タオ】その内、慣れだした人達にターゲットにされちゃうよ


  【ユノカ】え、それってー、ガーンなんですど


【タオ】慣れてない同士でやりながらー、微調整していった方が良いかもね


  【ユノカ】うんうん。なるほどのー納得。因みにータオのお勧めの縛りとかある?


【タオ】敗北宣言はー必須だね。大事な戦力を失っちゃうからね


  【ユノカ】無理ならーさっさと負けて次かー


【タオ】そうそう


  【ユノカ】そうなるとーあとは時間制限?


【タオ】正解。俺はー最小の1時間にしてるよ


  【ユノカ】うっふふ。なるほどねー、タオらしいねw 何となくだけどータオがとってるだろう作戦がー分かったかも


【タオ】早速、やってみると良いよ


  【ユノカ】だね。タオはまだダンバトやるの?


【タオ】うーん、どうだろうね。そろそろ止めようかなーと検討中かも


  【ユノカ】それはー掲示板で、タオが注目されてるから?


【タオ】それもあるけどー


  【ユノカ】あるけどー?


【タオ】いまー5人同時にダンバト中なんだけど、その内の2つからの攻めがーなくなったんだよね


  【ユノカ】あ、もしかして


【タオ】うん。掲示板でのリークは未だだけどー、知り合いからの情報提供があったかもしれないね


  【ユノカ】うんうん。私もそう思う。あ、でもータオの思惑を読み切った線も、ない?


【タオ】それはー多分だけど、ないかな


  【ユノカ】その心は?


【タオ】舐めプしてくる時点でー


  【ユノカ】思慮なし


【タオ】その通り。警戒心なさ過ぎてー逆にゴチになってますw


  【ユノカ】っふふ。ならー情報提供が、濃厚だね


【タオ】よし、本日はー打ち止め、終了ってことで


  【ユノカ】お、ならーお疲れさんだね。どうしようかな私ーうん、やってみようかなー。ならば善は急げだねー早速試してみるよー


【タオ】おお、切替はやっw がんばれー


  【ユノカ】うん。頑張るよーじゃーねー

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 ダンバトの残り時間をポテチを食べながら見守る。


 そして1時間経過し、終了。

 今日はこれで終わりなので、その旨を館内放送を通じて皆に伝える。



   ・

   ・

   ・



 暫くしてコアルームへやってきたシロツキから、


 「宴を開きたいのですが、宜しいでしょうか?」


 勝利の宴かー。

 んー、イイね。

 無論、即了承である。


 「勿論、OKだよ。ならー、お肉とお酒が必要だね」


 「肉なら、討伐した魔物の肉を頂ければと。あとは……、そうですねーお酒に煩いガクサンに直接聞かれた方ががよろしいかと」


 ほうほう。

 なるほど。

 ガクサンね。

 

 確かコーラ割りが好きだったはず。

 俺も好きだけどね。


 と言う事でガクサンも呼び出すことに。

 そしてお肉運搬係なるゴブ達の招集をしにシロツキはドームへ。


 その間に玄関ホールの床へ『ダン倉庫』から魔物のお肉の塊を無作為にドンッドンッと次々置いていく。


 お肉でホールが一杯になりかけたとき――


 「タオ様ー、キタでっ! おーこれはー、凄いことになっとる」


 お肉を避けながら入口から入って来たガクサン。

 

 「ガクサン、こっちに来てくれ」


 こっちこっちと手招きしながらついて来てと声を掛け、ホール横に作った20x20x20mの新たな部屋へ呼び込む。


 「ん、何もないがー」


 「ちょっと待ってね。今から出すから」


 まずは『アイテムボックス』から長さ4mの頑丈な長テーブルを4つほど出して並べる。

 そして『ショップ』で購入可能な大樽のお酒を絞り込み、それらの試飲用に小樽を片っ端から購入してジャンル毎に置いていく。


 隣では好物を目の前に待ち状態になっているガクサン。

 瞳には哀愁が。


 「ガクサン、全ての味見をしてみてくれ。それでー、皆が気に入りそうなものを20個選んでほしい」


 「おお、分かった。任されよっ!!!」


 力強く返事をして嬉しそうに飲み始めるガクサン。

 俺もグラスを取り出し、少し分けてもらいながら試飲していく。


 少しして俺はほろ酔い状態に。

 ガブガブと飲んでいるガクサンは全く変わらず。


 その後はガクサンが選んだお酒を大樽で、大量購入していく。

 そして集まったゴブ達によって宴会場へとお肉とお酒が笑顔で運ばれていき、夜通し大騒ぎするのであった。




















 一方、掲示板では、


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    ・

    ・

    ・


:ボコボコにされてしまった

:ん?

:えっ、誰に?

:タオに

:ああ、南無(-人-)


:そっかー、お前も犠牲者か、実は俺も

:おいもータオに

:同士がー、こんなにっ

:舐めるから(-。-) ボソッ

:だってー、1階層のみのダンジョンだぞっ


:いやいや、普通に怪しいと思うが(-。-) ボソッ

:誰だって、狙うだろうっ

:そうだそうだ

:うんうん

:そうよ


:それがタオ君の狙い( *´艸`)うふふ

:そうそう

:お前達ーアホ過ぎw

:私はー、肩慣らしにと思ったら、回せぬままー終了 。°(°´ᯅ`°)°。

:女の子にも容赦ないタオ(-。-) ボソッ


:こわっ

:ヤバイなー、タオって

:なんてー恐ろしいヤツだ

:気付いたら、終わってた_| ̄|○

:ドンマイと言ってやりたいがー、俺もだ

:私もー(TーT)

:《マナブ・ノダとミサキ・ヤマネが入力中……》


    ・

    ・

    ・

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 こちらの愚痴大会もタオに負けた者達により、盛大に朝方まで繰り広げられるのであった。

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