第026話 初戦


 『ングッ! モモモモッーーーーンモッ!!!!!』


 『ガーッ!! キキキキキャーーギャワッ!!!!!』


 入口手間の勾配を慌てふためきながらズレ落ちて、辛うじて縁で踏み止まりバンランスを取るが――


 背後からズリ落ちて来た仲間にトンっと押し出され――


 巨穴に転落。


 羽搏はばたこうとして両腕をバタバタをするが、重力に抗うことができず、そのまま落下。


 目の前のモニターの上2段には、それぞれの入口こと巨穴へ、次から次へと飛び込んでいく魔物達の姿が。


 正直ここまで上手くいくとは思っていなかった。

 ニヤけるつもりはないが、ほほが緩みっぱなしでどうしようもない。


 そして中央2段には、意図せずロープなしバンジーをする破目になった魔物達の空中遊泳をする姿が。

 恐怖に歪ん顔のアップには悲壮感も滲む。


 更に下2段では、バタバタと藻掻もがいたままより硬化された剣山のようにそそり立つ石柱へ衝突して、体がひしゃげたりして見るも無残な状態に変わり果てていく姿が。


 加え運良く石柱を免れたとしても超硬化された地面への衝突でになり、体中の大小様々な穴から血と共に体液が放射状に飛び散る凄惨せいさんな状態に。


 そしてお亡くなりになった魔物達からは次々とフッと表示されては消えるポイントが。

 ダンバトの視覚的演出効果の撃破ポイントである。

 更に各モニター上部に表示されている対戦スコアに加算されていく。

 因みに相手のスコアは0のまま。


 壁一面に並べられたモニターにはそのような多くの映像が様々な複数アングルで流れている。

 それもダンバト特別演出付きで。


 それを楽しみながら又は感心しながら食い入るように見つめるシロツキとアヤメ。

 ダンバト開戦直後にどのような展開になるか不安だったので、相談も兼ねて側で待機してもらっていたのだ。


 「ここまで計画通りになるとは……、タオ様のご慧眼……凄まじい限りだ」


 「うんうん。それには同意ですねー」


 ちょっと興奮気味に感激をしている2人。


 「いやいやー、偶々だからね」


 「タオ様、御謙遜を! あまりの計算高さに感服です」


 「そうですよー、タオ様っ! ちっ、おしい。んー今度も飛び散り方がイマイチ」


 「ほー、アヤメもそう思うか。衝突する際にガードをしてるヤツが多いからな」

 

 十分えげつない姿になってると思うが。

 2人からしたら不十分らしく、もっと体がバラバラになって欲しいようでその話に盛り上がりをみせる。


 計算されたあれやこれやと色々勝手に感心され、褒め称えられているのでむず痒い。

 偶然運良く想定通りにいっただけである。

 それもこれも本当に舐めプしてくれていた同期達のお陰。


 あと『計算高さ』は誉め言葉ではないからね。

 敢えて突っ込んで場の雰囲気を壊すような野暮なことはしないのです。

 キリッ。


 「ならー、行くかっ!」


 「行きますか。この機に成長を促すのがベストですねー」


 「タオ様。我々はー今から前線へ直接様子を見に行きたいと思うのですが、宜しいでしょうか」


 「ん、勿論。頼んだよ。それと気を付けてねー」


 「はっ! お任せください」


 「タオ様ー、行ってきます」


 そして意気揚々と転移陣でそれぞれの入口の落下地点へ向かう2人。


 そんな中、落下地点を囲うように防衛ランインが敷かれ、そこで待機し続けているうちのゴブ達。

 侵入者である魔物達が死んでいく姿を見守るだけったそんなゴブ達に、大きな動きが。

 さっきの話の流れからおそらくはシロツキとアヤメが、何かしらの指示を出したのだと思う。


 次々と落下してくる魔物達に対して攻撃を始めるゴブ達。

 一番多いのは岩石の投擲とうてきで、距離的に届かないものはクロスボウで狙って当てている。

 魔法を使う者達は当然、魔法での集中砲火を。


 ほうほう。

 なるほどね。

 これはー、パワーレベリング。


 よって狙いは被弾させることである。

 勝手に落ちて勝手に死んでいく魔物ではレベルアップは望めない。

 それをゴブ達の利益に繋げ有意義に活用しようと言う試みだと思う。


 さっき散々勿体無いと嘆いていたアヤメの発案かな。多分だけどね。

 それにしてもゴブ達がパワーレベリングとは、恐れ入った。


 そしてゴブ達の多種多様な攻撃を受け終えた魔物達が行きつく先には、石柱の天辺で待ち構えるエンペラー8人衆。


 入口の巨穴は5つあるので、落下地点1箇所に1人か2人。


 おお、カッコよ。

 マジで。

 絶妙なカメラアングルで、凛々しさがプラスされうちの切り札っぽい雰囲気を醸し出している。


 先日、安本丹異常ポンコツ謎生物にはものの見事に一蹴されていたが。

 今それは忘れよう。

 要らぬフラグが立つからね。


 落ちて来る魔物達をその勢いのまま各々武器で目にも留まらぬ速さで料理していく。

 横切りされ上半身と下半身が物別れして別々の方向に吹っ飛ぶオーク。

 頭から真っ二つになり臓器類がずり落ちる熊型魔物。

 サイコロステーキのように格子状になり原型すら無くすオーガ。

 輪切りにスライスされた狼型魔物。

 マッシャーで潰されたかのような肉団子と化すゴブリン。


 そして佇む石柱下には、熾烈な勢いで築かれる死体の山々。


 ざ・無双状態の彼ら彼女らを熱気を帯びながら注視する。

 それに飛び交う撃破ポイントも。


 ポイントが乱舞する状態に俄然とやる気が込み上げてくるが、応援と見守ることしかできない俺。

 ガーンである。


 透かさずダンマスだから致し方なしとさり気無く自分をフォロー。

 咄嗟とっさのセルフケアも万全である。

 

 ん!

 トリップ?

 落下地点のゴブ達の目が完全にイってるように見える。

 凄い勢いでレベルアップしている反動だと思うが、形相が狂気染みて恐ろしいことに。

 レベルアップ依存症なる傷病名があれば、完全にアウト。


 あ、忘れてた。

 いけない、いけない。

 エンペラー8人衆の邪魔にならないように落下地点の死体回収の設定を変更する。

 これで直ぐにダンジョンに取り込まれるはず。

 

 因みに取り込んだ死体は、そのまま全てをDPへ還元している訳ではない。

 食材・錬金・鍛冶で使用可能な部位は、ダン倉庫へ自動的に送られるようになっている。

 使えない残りカスだけが最終的に吸収される仕組み。

 それでもダンジョン・メニューに表示されているDPの数値が目まぐるしく上がっていく。

 まさに塵積塵も積もれば山となるである。


 それにしても一石二鳥、三鳥、四鳥だろうか。

 まだ終わっていないがスタートダッシュに成功して順風満帆の兆しが見える。


 逆に相手側は本来俺がなるはずの最悪の状況に陥っていると言える。

 絶賛パニック中だろうな。

 お悔やみ申し上げる。

 

 冷静になれば被害を最小限に抑えることが出来るはずだが、既に今更。

 もう負け確である。


 お気に入りの魔物を投入すれば挽回の可能性は残されていると思うが、失った際のデメリットがデカ過ぎて実行に移せないはずである。


 それに何より制限1時間の縛りが悪さをしていると思う。

 少ない時間の中、迫りくるタイムリミットに焦りが募り、土壺に嵌ってるかもしれない。

 うちからしたら大歓迎である。


 モニターからはひっきりなしに新たな魔物達が続々と到着している姿が見られる。

 諦めもせずに送り込んでいるのだろう。

 覆そうと足搔いているのだろう。

 切り札を使わない限り成就することは適わないにも関わらず。

 

 だからこそこちらからは一切攻めない。

 一貫して守るのみ。

 落ちて来た魔物を狩って撃破ポイントを積み重ねスコアを伸ばす。


 ハナからタイムアップ待ちからの対戦スコア判定狙いだからね。

 1ポイントでも上回っていたら、こちらの勝利。


 付け加えて地表入口1~5号の周囲には落下しなかった相手側の魔物がいる。

 討伐にゴブ達を差し向けることは可能だが、撃破ポイントをあげたくないので、開戦当初から敢えてスルー。


 そのようなこともあり相手側のスコアは依然として――


 0のまま。


 初めてのダンバト戦開幕の舐めプ相手にしか使えない特殊な手。

 その内に使えなくなると思う。

 掲示板に載るのも時間の問題だからね。

 でも最初は情報が錯綜するので、もう暫くは問題なくいけると踏んでいる。

 精査されるまでにあと何周か出来たらたら勿怪もっけの幸いかな。

 

 そしてタイムリミットである1時間が経過して――


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ダンジョン戦(仮)個人戦ーA0005

:タオ・イエシキ VS ゴウ・モリタ

:勝者は、タオ・イエシキ

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 勝敗お知らせメッセージが表示。


 うし!

 やったね。

 計画通りに事が運び、見事に勝利である。


 ん!

 お帰りか。

 モニターの上4段には、入口の穴周辺で右往左往していた連中が、光に包まれながら次々と自ダンジョンへと強制送還されていく姿が映し出されている。


 彼らが持ち帰る情報は、『巨穴』。

 ただそれだけ。


 そして最後の1体も消えて、漸くダンバトの終わり。


 勝利を噛みしめながら、たった今終わったダンバトの対戦記録を見る。

 そこには――


 辛勝。


 勝利の分類は『圧勝・白星・辛勝』ある中で3番目だが、十分である。

 勝てればそれで結構。


 それに何よりも嬉しいのが

 更に対戦相手のスコアが――


 0。

  

 所謂、完封勝利。

 これから俺と対戦しようとする相手は、その情報を見て何を思うか。

 少なくともあれやこれやと邪推することになるだろう。


 心理戦で優位に進めることができれば嬉しいのだけどね。

 そのような期待が持てる0。


 なので予想以上の成果に大満足。


 そして当然だが、他の4試合も同じくして終わっている。

 結果は同様の完封勝利。

 素晴らしきかな。


 5試合のそれぞれの最終スコアが、


   対戦相手:ゴウ・モリタ

   スコア :15万8,543 対 0


   対戦相手:サブロウ・ニッタ

   スコア :21万1,226 対 0


   対戦相手:シオリ・ナカジマ

   スコア :12万5,017 対 0


   対戦相手:ユリナ・ヤマグチ

   スコア :27万6,951 対 0


   対戦相手:タイチ・ワタナベ

   スコア :19万2,344 対 0


 最終スコアは勝敗関係なくダンジョン戦の試合終了毎にDPへ変換され報酬として貰える。

 その他にも色々なボーナスポイントがあり、条件に適合すれば最終スコアに加算される。

 例えば、


   ・ ダミーコアの破壊:100万ポイント

   ・相手側の各階層突破:  5万ポイント


 その他にも、制限時間半分以内で勝利とかもあったりする。


 そんな中で俺達の対象となるは、ダブルスコアやトリプルスコアでの勝利と完封勝利。


   ・ ダブルスコア: 最終スコア 2倍

   ・トリプルスコア: 最終スコア 3倍

   ・   完封勝利: 最終スコア10倍


 5試合の合計スコアは、96万4,081ポイント。

 それにダブルの2倍とトリプルの3倍と完封勝利の10倍が加わり、


   5,784万4,860ポイント


 更に勝利こと辛勝で10倍が。

 それにより、


   5億7,844万8,600ポイント


 そのポイント全てがDPへ変換されて貰える訳なので、緩んだ顔に。

 因みに勝敗状況においての倍率は、


   ・圧勝: 30倍

   ・白星: 20倍

   ・辛勝: 10倍

   ・せき敗: 6倍

   ・黒星: 4倍

   ・ざん敗: 2倍


 それから間を置かずにメッセージが届く。

 すぐさまダンメセを開き確認。


 そして無事に対戦相手5人からの賭物とダンバト5戦分の報酬を受け取ることができた。

 万々歳である。


 勝利のうたげを開きたい気分ではあるが、ここは我慢。

 なぜならば、情報が拡散される前に、次の5戦へ。


 館内放送をかける。


 ――ピンポンパンポーン♪


 「まずはー、ご苦労様。我々の完全勝利であるっ!」


 モニター映像では、両手の拳を突き上げたり、雄叫びを上げて盛大に喜ぶゴブ達の姿が映し出されている。

 そして次第に勝鬨かちどきへ移行して、どんちゃん騒ぎに。


 ありゃりゃと思いつつ、


 「ごっほん。えー10分休憩後、次のダンバトね」


 お互いに健闘を称え合うゴブ達をモニター越しに見ながら、コーラとポテチを取り出し一息入れるのであった。

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