第019話 空間拡張


 結果、寝てしまった俺。

 ガーンである。


 それに日頃は見ない不思議な夢を見てしまった。

 ゴブが只管ひたすら合体していき、強くなるという出鱈目でたらめなヤツを。 


 ゴブ達が次々と合体して、スーパーゴブマンに。

 スーパーゴブマンが更に合体していき、超絶絶対ゴブマンに。

 

 そして唐突に喚き始める超絶絶対ゴブマン。

 暫くすると頭の天辺からパカッと割れ、そこには――


 ゴブゴブ神が。

 それも後光付きで。

 

 そして何故か現れた敵を徒手空拳としゅくうけんで、筋肉ポーズを添えながらバッタバッタと倒していく。


 途中で辛うじて夢が覚めたので最終的どうなったかは分からないが、そのゴブゴブ神のドヤ顔が脳裏に映像として焼き付いている状態だ。

 所謂、最低最悪。


 しかし気分とは裏腹に2時間ほど寝てしまっていたようで、頭は逆にスッキリである。


 あ、そうだ。

 気分転換も兼ねて、ステータスを開き新たな機能であるゲージをON《オン》にしてみる。


 おお。

 なるほどね。

 体力と魔力の横棒状の2つのステータスゲージが、視界に展開された。


 実はステータスの性能向上パッチである『ステータス改』が当たっていたので、取り込んでいたのである。


 それも好きな色に設定可能。

 体力を緑色に。

 魔力を青色に。

 そして忘れずに透過有無にもチェックを。


 更に残量変化も細かく弄れるようなので、設定を追加。


   ・残り30%: 橙色

   ・残り20%: 黄色

   ・残り10%: 赤色で点滅有り


 最後に、展開場所を視界上部へ移動。

 そしてサイズをもう少しだけ、小さく細くして完了かな。


 うんうん。

 イイね。

 増々ゲームっぽくなった。


 なにより邪魔にならず、見易い。

 視界良好である。


 取り敢えず気持ちの回復に成功である。


 それではとドームへいざ出勤。 

 そしていつもの見晴らしが良い丘の上に降り立つ。


 目の前にはゴブ達のお陰で日々広がり続ける光景が。

 実際に前回と比べ、


   高さ: 50m →  60m

   半径:400m → 500m


 努力の賜物である。


 そして満を持してこれからやることは、ドームの拡張。

 『穴掘り』を昇華させまくって、『小破壊』を手に入れたのでね。

 だから俺も掘ります。

 キリッ。


 ゴブ達にいつも拡張工事を押し付け続けるのも如何なものかと。

 それとダンバトが控えていることもあり、今回はダンマスである俺が一丁威厳を爆上げさせるべく遂行してみようかなと奮起したのである。


 と言うのは冗談。

 なくも無いが、なしである。


 重い腰は上がることなく。不動のまま。

 穴掘りは、やりません。


 まあ、実際にゴブ達のお手伝いをして苦労を経験するのも良いのだけど、それはまたの機会である。


 ではどうするのかと言うと、特典で入手したアイテムを使用しに来たのである。


   ・ダンジョン階層増築キット: 360個

   ・  〃    拡張キット: 360個

 

 コアルームからでも実行可能であるが、目の前でどのように拡張されていくのか見てみたかっため、見通しの良いこの場所ですることに。


 因みにショップでも当然、類似のものが販売されている。

 多くないがラインナップとしては、


 階層増築キットが、


   ・ 10㎡:  3万DP

   ・100㎡: 50万DP

   ・500㎡:300万DP


 階層拡張キットが、


   高さ1mアップ、周囲10m拡大:100万DP


 付け加え購入制限付きなので、それぞれ月間10個までしか購入できず。

 しかも性能は、報酬版キットの方が良いようだ。


 しかしキットを使わずに通常ルートことダンジョン・メニューの『ダン作成』で増築や拡張をした場合は、5倍以上かかる。

 そう言うことなのでショップでも十分にお得。


 俺の場合は、ゴブ達に拡張をしてもらっているので、領域確定こと自ダンジョン領域として取り込む作業分のDP消費しか発生しない。

 なんとも安上がりのゴブ様様さまさま状態である。


 そして特典でゲットした報酬版キットは、


   ・階層増築キット: 1,000㎡

   ・  拡張キット: 高さ10mアップ、周囲100m拡大


 褒賞でゲットした同期達が喜ぶほどの破格の内容となっている。

 その時の俺は報酬として得るチャンスを逃してしまったため知るよしもなかったが。


 ついでに言うと増築や拡張をする際に、その空間に誰かがいた場合は消費DP10倍のペナルティーなようなものがある。

 ショップ版キットに対しても同様の仕様が適用されていて、そのような状況下で実行しようものならば追加支払いを要求されるようだ。

 実行したかどうかは分からないが掲示板で意外と話題になっていた。


 しかしながら報酬版キットは例外らしく、追加支払いなし。

 ダンマス側からしたら、率直に有り難い話である。


 更に柔軟性もあるようで、増築と拡張キットの交換も可能。

 1個当たり10万DPほど必要だが。


 潤沢な軍事資金持ちの俺としては、些事さじである。

 キリッ。


 と言うことで早速、増築キット300個を拡張へ交換する。

 念のため増築キットは60個ほど残す。


 取り敢えずこれで拡張キットが、660個に。

 使用予定は600個ほど。


 どうなることやら。

 ドキドキである。


 試しで1個を実行してみることに。


------------------------------------------------------------------

当キット1個を使用し、当空間を拡張しますか?

  Yes /  No 

------------------------------------------------------------------


 ん!

 おっと。

 確認メッセージか。


 うんうん。

 当然、拡張実行である。

 戸惑うことなく『Yes』を、ポチっとな。


 ん!

 んー。

 なーにも、起こらんね。


 空間全体が光り輝いて、ピカッみたいな感じになるのかと思ったが。


 んー。

 ないね。

 あれれと疑問に思い始めたその時――


 ――ゴゴゴゴゴゴゴッ

 ――ゴゴ、ゴゴゴゴゴッ


 地響きと共に心地良い揺れが。


 お!

 始まった?


 ドーム全体が揺れてるね。

 すごっ。


 ――ゴゴゴゴゴゴゴゴ、ゴゴゴゴゴッ

 ――ゴゴゴゴ、ゴゴゴゴゴッ

 ――ゴッ


 そして程なくして、音と揺れが止まる。

 ピタッと。


 ん!

 終わった?


 ふー。

 来ないと思ってからの拡張開始にビックリ。

 フェイントはナシよ。


 んで、拡張した成果は、高さ10mアップに周囲100m拡大。


 上を見上げる。

 んー。

 高さはアップしたかどうか今一つ分からないな。

 正直なところ。


 一方で100mほど周囲が拡大された効果は、一目瞭然いちもく りょうぜん

 拡張キット1つで、これか。

 ヤバッ。


 目の前には、更に広がった空間。

 実行前の壁際だったところには、砂煙が舞っている。


 あ!

 混乱しているゴブ達。


 やってしまった。

 通達するの忘れたわ。


 後悔の念と共に周囲から続々と駆け付けてくるゴブ達。

 当然、事情説明に追われることに。

 致し方なしである。

 俺が悪いからね。


 そらから暫くして、漸く落ち着きを取り戻したゴブ達。

 彼ら彼女らに改めて緊急拡張工事をする旨を伝え、それぞれの作業に戻ってもらう。


 ふー。

 予想外のあたふたに反省。


 でもこれからである。

 あと599回。

 ニンマリ。


 えーと。

 流石に1回ずつの実行は、わずらわしいよね。

 ならばと纏めと実行することに。

 出来るかどうか分からないけどね。


 ん!

 あれ。

 できるっぽい。

 神仕様に感謝。

 

 ならばとポチっと実行。


------------------------------------------------------------------

当キット599個を使用し、当空間を拡張しますか?

 Yes /  No

------------------------------------------------------------------


 確認メッセージの表示。

 当然、『Yes』を選択する。


------------------------------------------------------------------

本当に実行しますか?

 Yes /  No

------------------------------------------------------------------


 ん!

 再確認?

 気持ちは変わらないので、『Yes』を。


------------------------------------------------------------------

本当の本当に実行しますか?

 Yes /  No

------------------------------------------------------------------


 んー!

 なぜに?

 またもやの再確認メッセージ。


 疑問に思いつつも、『Yes』を選択する。


------------------------------------------------------------------

マジで?

 Yes /  No

------------------------------------------------------------------


 お!

 一気に砕けた口調に。

 でもくどい。


 『Yes』を、ポチっとな。


------------------------------------------------------------------

(T_T) ウルウル

 Yes /  No

------------------------------------------------------------------


 おお。

 顔文字とは、斬新な。

 だがその程度で取りやめることは一切ない。


 そちらにどのような事情があるか分かり兼ねるが、こちらも必要なことである。

 退く気は、微塵もない。


 断固とした強き気持ちを乗せて『Yes』を。


 ん!

 今度は確認メッセージの表示は無いようだ。


 んん!

 もしや強制キャンセル?

 そんなことはないだろうと考えだしたら心配になる。


 取り敢えず拡張キットの在庫数を確認することに。


 えーと。

 599個分なくなって、残り60個。

 しっかりと減ってるので、実行されてると思って良いよね。


 んー。

 でも、反応なし。

 不安になる。


 もしや!

 バグ?

 いやいや、そんなことは――


 ――ゴゴゴゴゴゴゴ、ゴゴゴゴゴゴゴッ


 おお。

 良かった。

 拡張が始まったようだ。


 ――ゴゴゴゴ、ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ

 ――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ、ゴゴゴゴッ


 安心したところでふと思う。

 さっきの不思議な遣り取りは何だったんだろうかと。

 往生際が悪かったが、可哀そうな気もしないでもなかった。


 思うところはあるが目の前の光景へ集中することに。

 次々とドームが砂煙と共に広がっていく。

 その様は、凄まじく見応えがある。


 それに気になる天井からの落下物は、今のところ無い。

 見えている範囲限定はあるが。


 心配だったがゴブ達も緩やかな揺れの中、問題なく絶賛工事中である。



   *

   *

   *



 しばらく経つが、拡張は現在も進行中。


 遠くで何かが起こっていることは、何となく分かる程度まで距離が生じてしまったので『ダンマップ』から見守ることに。


 当初は5秒毎にズーンと拡張されていたと思うが、少しずつ間が伸びてきたような気が。


 そして現在は、10秒毎だろうか。

 誰にとは言わずにエールを送っておく。


 更に間隔が開き、30秒毎に。



   *

   *

   *



 そして到頭とうとう、3分台へ。


 うーん。

 これは予想より時間が掛かりそうである。

 『アイテムボックス』からテーブルとイスを取り出し、小休憩をしながら見守ることに変更。


 ならばとポテチも取り出し食べる。

 旨い。


 手持ち無沙汰なこともあり、少し離れたところで行われているゴブ達の軍事訓練を観察することに。

 当初は、纏まった動きが何一つできなかったのだが。

 少し感慨深くもある。


 ゴブ達の成長を感じながらもパクパクと口は動く。

 食べ始めると何故か止まらなくなるポテチ。

 不思議な現象に真理すら感じる。

 そして忘れず飲むコーラ。


 んー、旨し。

 抜群の相性の良さに舌鼓を打つ。


 そして待つこと40分ほど。

 地響きが止み、漸くの拡張完了。


 すぐさま日常の喧騒へ戻るドーム。


 それではと『ダンマップ』をスワイプしながら、空間の広がりを確認していく。


 えーと。

 ほうほう。

 これは凄いな。


    高さ:  60m →  660m。

    半径: 500m → 60.5km。


 待たされたなと思ったが、数値にすると納得感が更に増す。


 立ち上がり一望するが当然、端であるドームの側面は見えない。

 真上の天井は、どうにか分かる程度だ。


 ――ピーッ

 ――ピーーッ、ピッピーーッ

 ――ピーッ、ピーッ、ピーーッ


 次々に鳴るかん高い警笛。


 お!

 魔物。

 展開していた『ダンマップ』上に赤点が。


 吹き出しには、


   ■オーク x2体

   ■オーク・リーダー x1体


 目が良くなったようで、落下中の魔物達がバタバタと足掻いてるのが分かる。

 とは言ってもシルエット程度だが。


 そして――


 6、


 7、


 8、


 9、


 10、


 11、


 地面へ衝突。


 約12秒の空中遊泳後、オーク3体ともにご臨終。

 即死だったようだ。

 

 3つのマーカーは、赤から灰色へ。

 飛ぶことができない魔物には効果絶大なほどの高さとなったようだ。


 成長したドームの天辺で変わらずに開きっぱなしの入口を見上げながら、『飛翔系の魔物は来ないでね』と願うのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る