第013話 授賞式


 「ゴブッブ(あざっす)」


 脳筋競技『総合』で惜しくも準優勝した4m強はありそうなデカゴブに、お菓子24個とジュース24本を授与しているところ。


 メダルやトロフィーならびに賞状はない。

 ケチってる訳ではなく、ゴブ達にとって価値が無いからである。

 それに要らない物をあげてもね。


 あげるならモチベーションの上がる物の方がイイよね。

 俺もそっちの方が嬉しい。


 因みにお菓子は人気のある10品から選べるようにしてある。

 俺同様に炭酸好きのゴブ達に用意したジュースのラインナップは、コーラ・サイダー・ラムネの3品。


 嬉しそうにジュースの入ったケースを抱えるデカゴブ。

 その中身は、24本とも全てコーラ。


 中々のセンスにコイツは伸びると、勝手に感心。


 ついでに『簡易鑑定』で確認すると、

 

-----simple Analyze-------------------------

【名前】 

【種族】 レッド・ビッグ・ゴブリン・リーダー(♂)

【戦力】 7,440

---------------------------------------------------


 ん!

 えっ、強っ!

 なんで!


 もう一度、確認。

 内容は変わらず。


 えーと。

 マジか。


 掲示板での情報では、通常のオークとオーガの初期戦力が、


   ・オーク: 1,000~1,500

   ・オーガ: 5,000~6,000


 オークやオーガにも数多の種類があるので、ごくごく普通の通常種限定となるが。


 この子、超えてる。


 戦闘おいての強さを超えているかは、スキルや称号などの他の要因も大きく関わるので一概には言えない。


 でも嬉しい。


 そもそも通常のゴブリンの初期戦力は、100前後。


 種族の壁は厚く厳しい。

 だからこそ、俺は日々苦悩させられているのだ。

 その壁をこの子は、超えてる。

 凄いかも。


 因みに通常のオーガの1次進化済みの戦力が1万超え。

 なのであっと言う間に抜き返されてしまうことになるが、凄いことに変わりない。


 俺以外のダンマスだったら、所詮ゴブリン。

 普通よりは極端に強いかもしれないけどただそれだけ、取るに足らぬものとして一蹴して終わりだろう。


 だが俺にとっては違う。

 青天の霹靂である。


 種族は『ダンマップ』上でも分かるので、既に2次進化済みであることは知っていたが、『簡易鑑定』で見てなかったので戦力までは把握できておらず。

 しかも、2次進化済み個体が生まれ出したは、ここ数日の間である。

 そう直近の出来事。


 加え精神的余裕がなく、単純に気付かなかったのもある。

 ちょい反省。


 因みに通常で尚且つノーマルのゴブリンの進化先は、


   ゴブリン(成体)

   ⇒ ゴブリン・ソルジャー (1次進化済み)

   ⇒ ゴブリン・リーダー  (2次進化済み)

   ⇒ ゴブリン・ナイト   (3次進化済み)

   ⇒ ゴブリン・ジェネラル (4次進化済み)

   ⇒ ゴブリン・キング   (5次進化済み)

   ⇒ ゴブリン・ロード   (6次進化済み)

   ⇒ ゴブリン・エンペラー (7次進化済み)


 それに付け加え、卵から孵化した場合は、


   ゴブリンの卵

   ⇒ ベイビー・ゴブリン(幼生限定)

   ⇒ スモール・ゴブリン(幼体限定)

   ⇒ ゴブリン(成体)


 うちには幼生・幼体ともに、1体もいない。

 見たことがないから、繁殖はしていないと思う。多分だけどね。


 ガチャやスポナーからのゲットもしくは誕生するゴブリンの雌雄は、ランダム。

 割合的には雄が、少し多いくらいである。


 どちらにても繁殖を強制したり管理するつもりはない。

 だからゴブ次第となる。


 俺としては見守るぐらいが、丁度良い。

 

 ん!

 授賞式の最後の1人が目の前に。

 忘れずに労う。


 「おめでとう。素晴らしい戦いだった」


 「ゴブゴブ、ブ(お褒めいただき、光栄です)」


 ん!

 ゴブ語なのに難しそうな言葉を使ってる。

 それにゴブ顔なんだけど、なんかイケメン。

 シュっとしてる。


 そして報酬のお菓子90個とジュース90本を受け取り、ステージから降りて行く。


 優勝は、お菓子30個とジュース30本。


 このイケゴブは、頭脳競技『リバーシ』と脳筋競技『総合・魔法』の3競技で優勝している。

 身長は3m弱で、1つ前のデカゴブ同様に2次進化済み。


 去る後ろ姿を見守りながら、こっそり『簡易鑑定』でチェック。


-----simple Analyze-------------------------

【名前】 

【種族】 ホワイト・ハイ・ゴブリン・リーダー(♂)

【戦力】 8,880

---------------------------------------------------

  

 おお。

 デカゴブ同様に通常の初期オーガ越え。


 うんうん。

 素晴らしい。


 嬉しそうに報酬を抱きかかえるイケゴブの後ろ姿を微笑ましく見送る。


 因みに大事に抱えている報酬の内訳は、


     お菓子: ポテチうす塩 90パック

    ジュース: コーラ    30本

        : サイダー   30本

        : ラムネ    30本


 ポテチのうす塩が大好きなようだ。

 俺も大好き。

 

 えーと。

 よし、これで競技大会、終了かな。


 まだ競技大会の余韻が残る会場だが、ダンバト開始まであと2日である。


 そしてその後忘れずに、後片付けを手伝う。

 ある程度の目途が立ったところで、残りを周囲にいるゴブ達に任せコアルームへ戻ることに。



   *

   *

   *



 お!

 そこには直立不動で、俺待ちをしているゴブ達が。

 授賞式で声を掛け、ここに来るようにお願いしてたんだけどね。


 分かっていても、少し驚いてしまったことは内緒だ。

 それに少し待たせてしまったようでもある。


 今いるドームへ繋がるの出入口がある部屋こと玄関ホールは、15x20mのちょっとした広さ。

 そこの中央に転移陣があり、颯爽と降り立った俺をゴブ達が見つめている状況である。


 取り敢えず玄関ホールの中央から離れ、少し奥へ移動。

 因みに横に見えるのがモニタールームへの入口である。


 んー。

 それにしてもどうしたのだろうか。

 さっきまで滅茶苦茶、喜んでいたのに誰も喋らない。


 ん!

 もしかして、あれか!

 俺が呼んだために、手に入れたお菓子が食べれない。

 ジュースが飲めない。


 まさかのご機嫌斜めか。


 いや、まさかそんなことは。

 いやまて、可能性はあるか。


 となると、俺が原因か。

 やってしまったな。


 取り敢えず座りたいので、『アイテムボックス』からソファーを取り出して座る。


 あ!

 あっぶー。

 俺だけ座っても最低だよね。


 華麗に立ち上がり、ゴブ達用に頑丈なソファーとテーブルを次々と置いていく。


 「みんな、好きなところに座ってね」


 それぞれ頷き順不同で座り始めたゴブ達を横目に、出したテーブルの上へそれぞれの好みのジュースを置く。

 俺が原因だから、アフターケアを忘れずにだね。


 更に何か摘まめるようにとキッチンペーパーが敷かれた楕円型の大皿を1テーブルに2つほど置いていき、うす塩味とコンソメのポテチを入れていく。


 うんうん。

 こんな感じかな。


 予想通り、ゴブ達の機嫌も見る見るうちに直っていく。

 何よりである。


 それにしても待ち状態になっているゴブ達の目が、バッキバキで怖いかも。

 相当、食べたかったようだ。


 これ以上待たせることもないので――


 「好きに飲みながら、摘まんでね」


 「「「ゴブッブ!!(うっす!!)」」」


 自分用に出したソファーに戻り、座り直す。

 よっこいしょである。

 

 気遣いは疲れるが、大切。

 横に丸型のサイドテーブルを出して、その上に自分用のコーラとポテチも忘れずに出す。


 楽しそうにジュースを飲み、パクパクとポテチを食べるゴブ達の姿に安心しつつ俺も食べることに。



   *

   *

   *



 20分後。

 無くなったジュースとポテチの御代わりを何度かして、場も良い感じで和んだ。


 そろそろ始めますかね。 

 集まってもらったゴブ達は競技大会で同列3位まで、言わば準決勝まで勝ち進んだ面々だ。


 まずは頭脳競技『麻雀・将棋・リバーシ』参加のゴブ達に前へ出てきてもらう。


 普通に考えたら12名になるはずだが、被りがある。

 こっちで優勝、そっちで3位とか。

 そういう理由で人数は減る。


 付け加え麻雀と将棋で優勝した秀才ゴブとリバーシで優勝した文武両道のイケゴブは脳筋組の方で扱う予定なので、前に出てきてない。


 そのためゴブ6体が、目の前に。

 全員、1次進化済みのソルジャー。


 まず最初にやるべきは、頭脳組の知力をアップさせることである。

 更に『頭が良くなーれ』である。

 ノリは軽いが至って真面目。


 ステ強化玉の『知力』の在庫は、174個。

 1個の消費で知力値が10上がる。


 知力が俺より高いかは分からないが、競技内容を見る限り頭が良いことは分かる。

 ダンジョンの戦力強化にどれほど良い影響を与えるかは未知数だがアップさせない手はない。

 少なくとも俺に全投入するよりは、マシだと思う。


 そしてゴブ6体に、それぞれ4個ずつ渡していく。

 そのあと使い方も教え、吸収。

 

 オドオド感はなく、淡々と取り込んでいくゴブ達。

 少しくらいは緊張しないのかなと思いながら見守る。


 そして滞りなく、渡した『知力』を全て吸収し終えるゴブ達。

 問題がないようなので次のステップへ。


 それではとステータス項目の『体力・魔力・筋力・耐力・俊力』の5つから自己申告で秀でた3項目を選んでもらい、それぞれ100アップするようにステ強化玉を渡していく。


 長所を伸ばす方針なのです。

 キリッ。


 そして追加で渡したステ強化玉も吸収完了。


 ではではと。

 ここでようやく、進化玉の登場である。


 ん!

 どよめくゴブ達。

 興味有りのようだ。

 結構なことである。


 ステ強化玉の時の味気ない反応とは打って変わり、取り出した1個を凝視するゴブ6体。


 形状は、球体。

 大きさは、ゴルフボールほど。

 透明感の高い淡いピンク色で、淡い光に包まれている。


 おっと。

 ギラつくゴブ達の目。

 怖過ぎ。

 喉から手が出るほど欲しいようだ。


 後ろの脳筋組もただならぬ気配に気づいたのか、ソワソワし始めた。


 左に動かすとゴブ達の顔も一緒に同じ方向へ。

 右に動かすと同様に。


 うんうん。

 予想通りの動きに嬉しくなる。

 イイね。


 上に動かすと上に。

 家で飼っていた猫と同じ反応に、つい笑みが零れる。


 あ!

 ジト目で非難する秀才ゴブと目が合う。

 ですよね。

 ごめん、ごめん。

 遊び心を仕舞い、素直に1個ずつ渡していく。


 「これは進化玉。進化を促すアイテムだ。み……」


 言い切る前に次々と使用していくゴブ達。

 待ち切れなかったようだ。


 まあ、そうなるよね。

 諦め見守ることに。


 それよりも初めて見る魔物の進化。

 ドーム内では日々、ゴブ達が進化しているようだが、一度も立ち会えずにいる。


 それが今から見れるのだ。

 言わずもがなテンション爆上がりである。

 

 ワクワク。


 もしかして、まゆとかに包まれたりしてとか。

 進化に必要とする時間はどれくらいだろうかとか。

 色々と想像してしまう。


 ドキドキ。


 そして固唾を呑んだその時――


 ゴブ6体、それぞれの体が光に包まれていく。


 ん!

 おお。

 始まった。


 光りはドンドン大きく。

 そして、輝きを増す。


 すごっ。


 ゴブ達の姿自体も光に埋もれ、全く見えない。


 そして、膨れ上がる光で直視することは適わず、掌をかざして防ぐ。

 

 ヤバいなー、これ。

 それにしても綺麗だ。

 光って様々な色で出来てるんだな。


 強さを増す光。


 んん! 

 これ以上は、無理。

 僅かばかりでも目を開けるのが、困難な状況に。


 そして、諦めよう思った瞬間――


 目の前の空間を覆う光が更に強烈に煌き、パッと視界を吹き飛ばすように真っ白に弾けた飛んだ。


 あっ。

 うー。

 目がー、目がー。


 チカチカする。


 危うく情けない声が漏れてしまいそうだったけど、耐えた。

 ふー。


 それから程なくして目が回復。


 綺麗な光の共演に見惚れてしまったが、次からはもう少し離れて見ようと誓うのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る