第012話 競技大会


 『ゴンッ!(ロンッ!)』


 『ゴブーッ、ブゴー!(嘘だろーっ、マジかー!)』


 「ゴブ! ゴゴゴッブー!(なんてことだ!逆転の逆転の逆転だーっ!)」


 ロンに成功して逆転勝利をしたゴブは、立ち上がりガッツポーズ。

 負けたゴブ達は、肩を落とし悔しさをにじませる。

 周囲のギャラリー達の歓声も盛大に。


 「ゴブブ。ゴブ。ゴタオブ、ゴゴブ?(点数が相当動く荒れた試合。見応えがありました。特別ゲストのタオ様、如何でしょうか?)」


 解説席に座って試合を見守っていたが、話を振られたのでマイクを持ち応えることに。


 「えー、素晴らしいですね。それも最後は、計算されたダマ。間違いなく1枚溢れることを読み切ってましたね」


 「ブブー。ゴブ、ゴ、ゴゴブ(おお、なるほど。えー、素晴らしい試合を見せてくれた4人に、皆さま、盛大な拍手を)」


 ――パチパチパチパチパチパチパチパチ


 画面越しではあるが、俺も一緒に拍手をして健闘をたたえる。


 「ゴブ、ゴブブ、ゴーブ(それでは、10分後に、決勝トーナメントを開始します)」


 隣の解説ゴブに実況をしばらく休む旨を伝える。


 しゃべり続けてはいないが、普段しないことをすると体力消費が激しい。

 精神的にもね。

 正直、めっちゃ疲れました。


 因みにここは、散歩のスタート兼ゴールで使用している丘の上である。

 そこに競技大会の解説・実況を兼ねたパブリックビューイングの特設会場を設置して、その手伝いをしながらゴブ達の試合を見守っている最中。


 皆が見易いように超大型モニターをいくつも用意して、直接それぞれの競技場に行かなくてもここで応援できるようにしてある。

 勿論、目の前で白熱した試合を見たい場合は、出向いて応援するのも有りだ。


 丘下おかした手前が、頭脳競技場。

 さらにその奥が、脳筋競技場。


 頭脳競技は、麻雀四麻・半荘・将棋・リバーシ10x10の3種。


 脳筋競技は、総合・無手・武器・魔法の4種。

 当然だが、仲間同士で殺し合っても無意味なので、殺し禁止。


 もう何度も開催している大会。

 初回の脳筋競技は、うっかりミスで対戦相手を殺す地獄絵図が至る所で起きてしまった。


 その反省も兼ね是正するために2つの対策を講じることに。


 1つ目が、ペナルティーの追加。

 対戦相手を殺めてしまった場合、景品であるお菓子とジュースの没収と1カ月間の摂取禁止である。


 2つ目は、白旗君と言う魔道具の投入。

 装着者の体力が半減した時点で頭上に可愛らしい動物キャラが必死に白旗を振ってくれる。

 設定で残り体力の割合も変更可能。


 それにより2回目以降の大会では、うっかりミスがピタリと無くなったのである。


 ゴブ達にとってお菓子とジュースは、俺が思っていた以上に大切だったようだ。

 コーラとポテチが好きな俺としては、分からなくはないが。

 

 因みに脳筋競技では、木製武器のみ使用可能で、防具の装着はなし。

 スキルにおいては相手を即死させるような可能性があるものは禁止であるが、自己判断としている。


 そして目の前には見易い角度で固定された俺専用タブレットがあり、そこにも各競技のライブ映像が流れており、スワイプしながら見ていく。


 ん!

 気になったので、タップして映像を拡大。


 正方形の石畳を詰め合わせて作ったリング中央で武器を持たずに2体のゴブが戦っている。

 映像上部の右テロップには脳筋競技『無手』・決勝トーナメント2回戦とある。


 気になった通り、2mほどの細身ゴブが倍以上はありそうなデカゴブを圧倒している。


 取り敢えず2体のステータスが知りたくて『簡易鑑定』するが直視している訳でないので、鑑定失敗。

 鑑定持ちならではの


 種族しか分からないが、ダンジョン・メニューの『ダンマップ』を表示させて、そっちから確認する。


 細身ゴブの方は、


   ■イエロー亜種ハイ高位体・ゴブリン・ソルジャー等級


 デカゴブの方は、


   ■ビッグ高位体・ゴブリン・ソルジャー等級


 まず2体ともに通常のゴブリンからソルジャーへ1次進化済みであることが分かる。

 因みにハイとビッグは、を示す表徴ひょうちょう

 細身ゴブの頭に付いているイエローは、を示す表徴。

 『ヘルプ』で勉強した成果で、何となく分かる。


 魔物の種族名は、本当に難しい。

 進化の際に数多の要因によって、様々に変化するからだ。


 付け加え、俺の勝手なイメージとしての表徴の強さは、


 (強い)              (弱い)

  希少種 >>> 亜種 >> 高位体 > 環境種 >> 通常種


 実際はなどの他の要素が複雑に絡み込んでくるので、もしかしたら通常種が希少種を圧倒することもあるかもしれない。

 当然レベル差や相性もあると思うが。


 本当に色々な可能性があるのだ。


 なのでどのような要因で細身ゴブが圧倒しているかは、正直なところ種族名だけで断定することは難しい。

 特に戦闘素人である俺ではね。


 ん!

 おお。

 デカゴブの頭の上に白旗君が。

 そしてリング上で審判が細身ゴブの片腕を上げ、勝利宣言をする。


 悔しがる負けたデカゴブ。

 大事になっていないところを見る限り、観客をもキュンとさせる白旗君が正常に動作している証左とも言える。


 因みに脳筋競技の勝敗は、


   ・白旗君が昇った方が負け

   ・相手をリング外に落としても勝ち

   ・審判の10テンカウント以内に立ち上がれない又は動けない場合も負け


 引き続きスワイプしながら、激しい戦いを繰り広げている脳筋競技を見ていく。

 バトルはどの試合も見応えある。


 でもゴブリンなんだよなー。

 本音が心からポロっと転がる。


 同期のダンマス達は、ゴブリンより圧倒的に強い魔物を揃えている。

 無論、ゴブリンは所持しているが戦力としてカウントしていない。


 主戦力として用いてるのは俺だけ。


 「……ふっ!」


 圧倒的な戦力差を想像してしまい失笑してしまった。

 卑下ひげしても仕方がないので、タブレットから顔を上げて巨大モニターで戦うゴブ達を眺める。


 映像上部の右テロップには脳筋競技『魔法』・決勝トーナメント3回戦と。

 魔法を自在に操り、ぶつけ合っている。


 ゴブAは、土魔法。

 ゴブBは、火魔法。

 

 憧れの魔法、純粋に羨ましい。

 ついつい飛び交う魔法に心が躍ってしまう。


 それにこの水準へゴブ達を押し上げるのに苦労したこともあり、一入ひとしおでもある。

 本当に大変だった。


 ゴブ達の価値観には『殴り合う力こそ最強』が根強い。

 そのため当初、魔法持ちのゴブ達の全てが魔法を使わずに戦っていた。


 その事実に『え、マジで!』と愕然がくぜんしたことを思い出す。


 長めの棒ことこんをもって、侵入者に特攻していく魔法持ち。

 当然、呆気なく何かを成すことも適わず、次々とむくろへ。 


 更なる現実に『何してんのコイツ等』と唖然あぜんした。


 取り敢えず改善するためにも実力が知りたくて、魔法を実演させることに。

 すると鍛錬などしてこなかったゴブ達の魔法は、到底、実戦で使えるレベルではなかった。


   ・威力がない

   ・飛距離がない

   ・真っ直ぐ飛ばない


 何となく想像していた状態よりも酷過ぎて、呆然ぼうぜん


 それ以降、積極的に魔法の鍛錬を勧めるが成功せず。

 練習はするが、俺から言われたから致し方なくする的な感じ。

 そのためか成長は一向にかんばしくなく、思い描くような成果を得ることが適わなかった。


 ゴブ以外の魔物が居れば違ったのであろうが、うちにはゴブしかいないからこちらも譲ることも出来ず、苦慮することに。


 そんなある日、摘まんだポテチを見て閃く。

 物で釣ろうと。


 ターゲットは、言わずもがな魔法持ちのゴブ。

 釣り餌は、当然お菓子。


 そして釣り方は、『ここからあの大岩に当てる』などの目標を決め、その成功報酬とした。


 これを機にその日からゴブ達の目の色が変わり、予想を遥かに超える成長ぶりを見せてくれることに。


 これは使えると、対象を拡大する。

 魔法以外の目標も沢山作り、他のゴブ達にも更なる成長を促すことに成功。


 そして更なる飛躍を求めて開催したのが、この競技大会である。

 勿論、ゴブ達の日々の努力を見るためでもあるが。


 試合を見てると色々なことを思い出す。

 感慨にふけっていると――


 「「「ゴゴブーッ!!(うおーっ!!)」」」


 観客の歓声でドッと沸き上がる特設会場。


 ゴブAの土球が火球を貫き、ゴブBの土手っ腹にクリーンヒット。

 そして、そのまま吹っ飛んでいくゴブB。

 石畳を3バウンドして仰向けで止まる。


 ゴブBのお腹の上には、白旗君が。

 今度は可愛らしいペンギンさんが一生懸命に白旗を振る。 


 勝負が決したようだ。


 そして俺もみんなと同様に健闘した2体のゴブへ、拍手を送る。


 ――パチパチパチパチパチパチ


 目の前の光景も含めこれら全てが水泡と帰すかは、まだ分からない。

 只、このまま終わらせてはならないことは分かる。


 それに終わらせる気もない。

 諦めが悪いからね。


 これから佳境へと進む競技大会。

 どのライブ映像でもしのぎを削り合うゴブ達の雄姿が目に飛び込んでくる。


 俺も頑張らないとな。


 そのためにも限られた細い勝ち筋を見つけるために思慮しりょし続けるのであった。

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