第011話 演説


 「ぅわーっ、……なんて綺麗……なんだ」


 ドームにやってきた際の第一声。

 嘘偽りのない感想である。


 今まで見ていた世界とのあまりの違いに、見惚れてしまう。

 目頭が熱くなるほどの衝撃に心が高まる。

 様々な色があり、どれも美しく映り込む。


 魔力に対する感度が良くなっているのだろう。

 其処彼処そこかしこから魔力だろう煌きを感じる。

 凸凹でこぼこの地面や壁、そして遥かに上の天井からも。


 でもちょっと色が、キツイかな。

 視界の邪魔と言うほどではない。

 いやいや、綺麗なんだけどね。


 ただ視界からの情報量が過多。


 もしかしたらその内に慣れるかもだけど。

 出来たら調整したいかも。


 ん!

 お、出来そうだな。


 えーと。

 視認魔力の濃度設定を調整して、少しずつ色を抑える。

 

 んーと。

 これくらいかな。

 イイ感じ。


 ん!

 お、透過度も調整可能っぽいな。

 ならば、こっちもっと。


 少しだけ、よっと。


 あともうちょい、で。


 おお。

 ストレスフリー。

 素晴らしい。


 うんうん。

 視界良好。

 最高。


 準備OK。

 それでは、散歩開始かな。



   *

   *

   *



 「「「ゴブーブ(ちゅーす)」」」


 「お、元気かー」


 元気よく挨拶してくるゴブ達に手を振りながら、応える。


 「「「ゴッブ!!(うっす!!)」」」


 「おう、頑張れよー」


 声援も忘れずに送る。

 ゴブ達のヤル気に火が付くようなので、意外と重要。


 そして何気にゴブ達それぞれから漏れ出てる魔力も見える。

 しかもダダれのヤツも。


 面白いのはそれぞれの色が、違うところだろうか。


 因みに俺自身を確かめてみるが、全く漏れていない。

 ある意味、残念。

 しっかりと魔力制御されていると思うことに。


 両手で交互にグーパーして感触を確かめる。


 ん!


 おお。

 たったそれだけの動作でも体内の魔力がどのように動いたか明確に理解できてしまった。 

 能力の一端しか触れてないが、凄いなこれ。多分だけど。


 世界観が変わってしまうほどの能力を手に入れてしまったかもしれない。

 実際に見える景色こと視界も変わったからね。


 ふー。

 取り敢えず考察は一旦おいておいて、人と言うかあるゴブを捜すことに。

 ここら辺にいるはずなんだけどね。

 んー、どこかなー。


 ここは六角形の石柱が乱立しているエリアで、見通しが悪い。


 因みに高さは、5~15mほど。

 太さも様々だが、直径3~5mほどが多いだろうか。


 そのそれぞれにはトーテムポールの様な凄みのある顔が、彫刻されている。

 中にはテイストが違うおどけた顔や笑ってる顔も。

 そして可愛らしいものも少々。


 どれもゴブ達の力作。

 改めて感心する。


 んで、それはそうと捜し人はどこだろう。

 さっきマップを見たときは、ここら辺にいたはず。

 えーと、反対側かなー。


 お!

 いたいた。


 2m超のガテン系ゴブマッチョも俺に気付いたようで、声を掛けてくる。


 「ゴ、ゴブゴーブ。ゴブブ(あれ、タオ様じゃーないですか。どうしたんで)」


 「班長、実は伝えたいことがあるから、他の班長達を集めてほしい。内容は、皆が集まってから話すよ」


 「ゴ、ブーゴ。ゴブブ(なるほど、何かあるんすねー、わかりやんした。直ぐに集めやす)」


 「おう、頼んだ」


 俺の最後の言葉を聞くや否や、地面を力強く蹴り上げ、ピョンピョンと石柱の上を跳ねながら早々に消えて行った。


 お、凄。

 想像以上の身体能力に驚く。


 正に忍者みたいで羨ましい。

 いいなー。


 俺とは違い、日々侵入者と対峙して生き残ってる訳である。

 予想を超える速さで成長しているのだろう。

 頼もしい。


 でも思うところが有り、諸手を挙げて喜ぶことはできない。

 元から強い魔物が成長して更に強くなったのとゴブを比べてしまうからだ。

 

 『ゴブ=強くない』は俺の勝手な思い込みかもしれないが、当たらずといえども遠からずだと思う。


 強制ゴブ縛り中の俺としては、何とも言い難い。

 そのネックがそのままブーメランで自分に返って来るからだ。


 ん!

 少し開けた場所に班長であるゴブ達が集まりだした。

 でももう少し時間が必要かな。


 掲示板で時間を潰すことに。

 情報収集も兼ねてね。


 当然だた書き込まれるコメントの内容を鵜吞うのみするようなことはしない。

 話を盛ったり虚偽情報を敢えてブっ込んで、揺さぶる輩がいるからだ。


 そこら辺を吟味しつつ、更に独断と偏見で勝手に取捨選択しながら精査している。

 簡単に言えば、話半分ぐらいが丁度良い。


 それにしてもどのスレッドでもダンバトの話題で持ちきり状態である。


 :ドラゴンが当たればなー。

 :因みに俺はワイバーンが当たったよ(キリッ)

 :良いなー

 :マジか

 :神引きじゃん

 :でもー階層拡張、大変じゃない

 :それな

 :数を揃えるのもな

 :DPの消費がヤバイっす

 :だよねw

 :合掌w

 :ねえねえ、質問。ゴーレムで入口塞ぐとかできないかなー

 :お、それ良いな

 :各階層の入口付近には魔物の配置はできないっぽいよ

 :ですです

 :んー、残念

 

 んー、配置できないのかー。

 言われてみればダンジョンの入口を塞ぐようなものだから当然だな。


 その下のスレッド名も気になるから覗いてみようとタップしようとした時――


 「ゴー、ブ、ゴブブ(タオ様ー、全員、揃いやした)」


 お!

 班長達が揃ったようだ。


 「了解っ」


 連れられて、少し離れた場所へ。


 皆の前には誰が用意してくれたのか分からないが、石製の壇上が。

 用意周到である。

 気の利くゴブがいるようだ。


 当然、有り難く使わせてもらう。

 だってみんな俺より背が、高いもん。

 無論、体格も良い。


 3段ほど登り、壇上へ。

 自然と皆の視線が俺に集まる。


 「えー急遽きゅうきょ、集まってくれて、ありがとう」


 1拍ほど置く。

 何も反応がない。

 少し不安になるが、敢えてキリッとした表情でそのまま進める。


 「日々の鍛錬、そしてダンジョン拡張、ご苦労様。そんな献身的な君達へ大切な知らせが2つほど。


 まず1つ目、あと2日と半日後にダンジョン戦ことダンバトが始まる。

 対戦相手は、俺と同期の新人マスター達のダンジョン。


 当然、苦しい戦いが想定されると思う。急でゴメンだけど皆も覚悟だけはしておいてほしい」


 一度、話を区切り、ゴブ達の顔を見渡す。

 ざわめきもなく、真剣に俺の話を聞くゴブ達。


 んー、反応が乏しい。

 意味が伝わってないのかなと思ってしまうが、話を続ける。


 「それでは2つ目、ダンバトに向けて戦力の再編成を行う。


 現在、各体制のトップに班長を置いているが、今回、その上に係長を新設しようかなーと。


 それに伴いその係長を任命するための競技大会を今から準備して、数時間後には開始したいと思う」


 話は終わり、ゴブ達の顔を見渡す。

 先程と傾聴する姿勢は変わらず、そして、反応も変わらずに薄い。


 それに行動に移行する様子のゴブはいない。

 困ったなー。


 あ、そうか。

 景品を忘れてた。


 「えーと、当然ながら、今回も各競技で勝利数を重ねる毎に、お菓子の報酬があります」


 すると、それまでとは一変して――


 「「「ゴッブゴー!(よっしゃー!)」」」


 「「「ゴブッゴッブ!!(やってやるぜ!!)」」」


 会場にいるゴブ達が一気に沸き、ゴブ達のそれぞれの目がカッと開く。

 先程までとは大違い。


 うんうん。

 やっぱースピーチはこうじゃないとね。

 もう少し湧かせるか。


 「更に、各競技の上位者には、ジュースが付きます」


 「「「ゴー、ゴブッ!(えー、マジで!)」」」

 「「「(タオ様、ほんと最高)」」」


 体全体で嬉しさを表現しているゴブ達であふれ、壇上まで熱気が伝わってくる。


 これこれ。

 胸が熱くなるぜ。

 ゴブ達が発狂する中、俺もそれに釣られ満足気に右手の拳を天に向けて突き上げる。


 「「「ゴッ、ゴッ、ゴッ!(お菓子っ、お菓子っ、お菓子っ!)」」」

 「「「ブッ、ブッ、ブッ!(コーラッ、サイダーッ、ラムネッ!)」」」


 演説会場からの歓声に釣られ、周囲で作業をしていたゴブ達も混ざり、終わることのない大合唱に。


 「「「ゴッ、ゴッ、ゴッ!(お菓子っ、お菓子っ、お菓子っ!)」」」

 「「「ブッ、ブッ、ブッ!(コーラッ、サイダーッ、ラムネッ!)」」」


 

 俺のダンジョンにいるゴブ達は、お菓子中毒であった。

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