G列伝01話 洗礼の授与


 散歩こと拡張工事視察中。


 ゴブ達の手際が良い掘削は見ていても飽きないため、足を止め眺めること屡々しばしば


 そして本日も邪魔にならないよう少し離れたところから見学。

 そんな中、背後に気配を感じ振り向くと――


 片膝をつき、水をすくうように左右の手の平を合わせてお辞儀の姿勢をしたゴブが目の前に。


 突然のことで少し驚いてしまったが、表情にも態度にも出すことなく鷹揚自若おうよう じじゃくを貫くことに成功。


 それにしてもこのゴブに『何をしているだ』と突っ込みたいところだが、予想外の奇天烈な行動はいつものこと。

 なので気にせずスルーをしようと思ったが、ちょっとしたサプライズを思い付いてしまった。


 想像して笑みが零れる。


 『アイテムボックス』には、先日買った10円玉ほどの丸い飴玉の袋詰めが。


 既に封が切れているので右手の中にそのまま飴玉1個を取り出す。

 そしてポトッと優しくゴブの掌に置いてあげる。


 掌に予想外の重さが加わり、目を開き確認するゴブ。

 そこには宝石のような色鮮やかな飴玉が。


 クンクンと匂いを嗅いでは、幸せそうな顔をするゴブ。

 豊潤な香りと鼻腔をくすぐるような甘さが漂っているのだろう。


 それから、『ゴブゴブ?』とキョロキョロしながら俺を見るゴブへ食べるように促す。


 嬉しそうに一口で頬張り、体中を巡る衝撃的な美味さに『ゴブブッブ!』と盛大にジャンプしながら小躍りするゴブ。


 それを見て、作戦成功と満足して立ち去ろうと思ったが、既に遅かったようで周囲のゴブ達が集まり、俺も私もと催促し始めた。


 それに対して、お前達はダメだと言えない俺は、順番に並ぶようにと促し、『ショップ』で同じ飴玉を追加購入するのであった。




     ◆

     ◆

     ◆




 < side 名無しの某ゴブ >


 なんだろう。

 目の前には長蛇の列が。


 俺はミーハーではないが、吸い寄せられるようにその列へ。


 取り敢えず、並んでみる。


 ――ゴツンッ


 「こらっ、割り込み禁止ゴブッ!」


 「ご、ごめんゴブ」


 痛さより相手の凄い剣幕に気後れしてすぐさま謝ってしまった。


 それにしても手を上げるなんて、野蛮なヤツだ。


 俺はミーハーでも野蛮なヤツでもないが、やっぱり気になるので並んでみる。


 ――ゴツンッ、ゴツンッ


 「うらーっ、割り込みはダメじゃろがーっ!」


 「う、ご、ごめんゴブ」


 痛さに涙目になりながらも相手の剣幕に臆して謝ってしまった。


 暴力はダメだと思う。

 それも目に留まらぬ速さの2連撃。


 出来てしまったを手で擦りながら、列の後方へトボトボと歩く。


 そして、流石にここまで来れば良いかと列に並び直す。


 ――カンッ、カンッ

 ――ガンッ、ガンッ

 ――パンッ


 「割り込みは如何な。小僧、割り込みは如何ぞ」


 「ごめんゴブ、ごめんゴブ、ごめっうブーッ」


 ナベの底で叩かれ、角でどつかれ、最後には頬をフタではたかれて漸く相手が満足したようだ。


 まだ目がチカチカする。

 秘技『ごめんゴブ』がなかなか効かず、とんでもない被害に遭った。


 淡々と物を使って人を殴り続けるなんて、何て恐ろしいヤツなんだろう。


 満身創痍になりつつあるが、やはり列が気になるので更に後方へヨタヨタと歩く。


 それにしてもヤバイかもしれない。

 このままでは、間違いなく身が持たないとミーハーでない俺でも感じる。


 帰り道で命を掛けることになるとは、多分これは偉そうなゴブが言っていた『常在戦場』ではないだろうか。


 聞いたときは、『それじゃ、休めないじゃん』と思ったが、苦境に立たされた今だからこそ分かる。


 そして更に、列の後方へトボトボと歩くことに。



   *

   *

   *



 ここまで来ればそろそろ良いかと列に並ぶ。


 ――ドスドスドスドスドスッ


 「ーうっ、ーうっ、ーうっ、ーうっ、ーうはっ」


 「こーら、ダメよ」


 「……」


 体が浮き上がるほどの高速腹パン5連。

 あまりの衝撃に魂からの嗚咽5連が。


 そのまま地面へ仰向けに倒れ込む。

 かすかに見える天井。


 『並ぶって難易度高過ぎだろう』と思いながら途切れていく意識に抗うことが出来ず、ブラックアウト。



   *

   *

   *




   *

   *

   *




   *

   *

   *




 パチッと目を覚ます。


 あ、あれ。

 どうやら、生きてるようだ。


 体を起こし周囲を見渡すと列の最後尾が目の前に。


 立ち上がりフラフラしながら危険と分かりつつも誘蛾灯に吸い寄せられるように列へ。


 そして、咄嗟に防御態勢に。

 

 怖いから更に力を入れ防御を固める。


 ん!

 あれ、れ。


 来るだろうと思った衝撃が来ない。

 

 可笑しいと思うが、フェイントかもしれないので、暫くそのままで。


 ――トントンッ


 来たっ。

 やっぱり思った通りだ。


 ――トントンッ

 

 なんとも軽い衝撃インパクト

 指で突っ突いているような。


 「並んでるなら、前へ行くゴブよ」


 ん!

 並んで?

 そーっと目を開くと、目の前に不思議そうに俺を見つめるゴブと目が合う。


 前を指さしながら、 


 「並んでないの?」


 「……並んでるゴブ」


  言葉に詰まりながらも必死に返答する。


 「なら、前へ行くゴブ」


 「……わかったゴブ」


 10mほど前に進んだ最後尾を指し示され、促されるまま警戒しながらもトボトボと歩く。


 改めて周囲をキョロキョロするが、攻撃を加えようとしている者がいないことにやっと安堵する。


 それによく分からないが、列に並ぶこともできた。


 うーん。

 もしかして、うんうん。

 何となくだがの意味が理解できたかもしれない。

 ただ確かめるには勇気と体力が必要なので、今はお預け。


 勘違いかもしれないが叩かれてまた少し賢くなったようで、あれやこれやと面白いように思考が捗る。


 今日の晩ご飯、明日の朝ご飯・昼ご飯・晩ご飯、そして更に次の日のご飯へと次々と想像が膨らむ。


 好きなおかずを思い浮かべニヤニヤしながら歩いていると知らず知らずの内に前の方へ。


 そして気付けば、次の次が俺の番のようだ。

 でも目の前のゴブが大きいため、実際に行われている内容が見えない。

 横から覗いてみたいが、なぜか体から拒否反応が。


 まあ、あと少しなので大人しく待つことに。


 そして漸く前のゴブが退き、開かれた視界の先には、人の形をした尊い何かが。

 有り難味を感じる。


 そんな存在は主しかいないので、訝しむことなく一歩前へ。

 

 遠目から何となく皆がしていた動作を思い出し真似る。

 両膝を地面につけ、こうべを垂れる。


 ワクワク。

 ドキドキ。


 すると目の前に何かを握られた主の手が。


 自然と両手の平で受け止めれる様に器を作る。


 咄嗟の判断が功を奏したようで、その上にポトッと置かれた宝玉。


 ん!

 おお、キレイ。


 あまりの美しさに瞠目して固まっていると、後のゴブから肩をトントンされてその場を譲ることに。


 初めての宝玉。

 大事に大事にしたいが、旨そうな匂いが。

 減る訳ではないので少しだけ舐めてみることに。


 「うぅーーーうめーめめっ、ゴブッ」


 びっくり仰天とは正にこの宝玉であると確信。


 そんな宝玉を手の中から生み出してしまう主。

 なんて素晴らしい方なのだと感激してしまう。


 思えば思うほど、ここへ辿る道は、至難であった。

 だからかもしれないが、宝玉が重く重く感じ、涙がにじんでしまう。


 生きてて良かったと宝玉に感謝をして、一気に口へ放り込む。


 「しっしーっ、あわせでーゴブッ!」


 幸福が口いっぱいに広がり、体の彼方此方あちこちが痛いままだが、体中からエネルギーがみなぎってくるような気が。


 ヤバい。

 また強くなってしまった。


 勘違いしたまま意気揚々いき ようようと晩ご飯を食べに帰るのであった。

















 そして、新たな称号がタオのステータスに刻まれることに。


   称号  ゴブリンの導き手(New‼)

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