第005話 準備期間の終了


 あと2時間ほどで、ダンジョンの準備期間が終了とされている2カ月目となる。


 俺は、とうの昔こと召喚初日に入口を開放しているので慌てる必要もなく、いつも通りのドーム拡張工事の視察と言う名の散歩中。


 そしてゴブ達に声を掛けながらも掲示板の流し読みをし、同期であるダンマス達の動向を注視している。


 凄い勢いで流れていくコメント欄。

 そして未開放の人達の慌てぶりが、凄い。

 

 開放することで地上に自ダンジョンへの入口が作られることへの恐怖と差し迫ったタイムリミットで、恐慌状態に陥っている人もいるようだ。


 開放時に汚点を作ってしまった俺としては、何とも言い難い表情を浮かべながら見守ることくらいしかできないが。


 当然、無事開放した者の安堵した内容の書き込みも一定間隔で流れている。


 それとは別に、残り時間をカウントダウンしながら、はやし立てて楽しんでいるやからも。


 『俺は、〇〇階層まで作ったぞ』、

 『余裕で〇〇が何体もいるんですけどー』などのマウント合戦も活発に。

 

 実際に本当かどうかは分からないがコメント欄の内容からマウント負けして意気消沈している人もポツポツと。


 悲しむ必要はないと言いたい。

 だってここにゴブしかゲットできなかった最底辺がいるからね。


   ・階層:1階層のみ

   ・魔物:ゴブリンいっぱい


 俺からしたら、喉から手が出るほど欲する魔物達が次々とコメント欄へ登場しては流れていく。


 裏山うらやま


 只々ただただ、羨ましい。



   *

   *

   *



 そして更に1時間経過。


 掲示板の賑わいにハッスル組も加わり、お祭り騒ぎの様相ようそうていし始めてきた。


 楽しそうで何よりだが、同期達のダンジョン作成状況が眩し過ぎる。

 と言うが、茂りまくってボウボウだ。


 ゴブリンのみのうちのダンジョンとの戦力差が著しく、心が苦しい。

 掲示板を見続けるのは精神衛生上、良くないな。

 厳しく切な過ぎる現実に納得できなくても飲み込むしかない現状が、五臓六腑ごぞう ろっぷに染み渡る。

 

 取り敢えず散歩も終わったので、コアルームへ戻ろう。

 落ち込む姿がゴブ達に見られる前に、颯爽さっそうと転移。



   *

   *

   *



 自室ことコアルームへ戻り、いつもの定位置のソファーで頭の下へクッションを置いて横になる。

 頭をゴリゴリと動かしてフィット感をアップ。


 そしてダンジョン・メニューの『ショップ』をタップ。


 透けたディスプレイが、目の前に展開される。

 見た目は、大手ショッピングサイトさながらのレイアウトなので、見やすさ並びに操作性も抜群。


 テンションだだ下がり中の時は、ショッピングが一番。


 何を買おうかなー。


 左右上下とスワイプしながら見ていく。


 昨日は、健康グッズのトゲトゲのボールを買ったんだよね。

 足の裏や脹脛ふくらはぎの下に置いてコロコロすると気持ちが良い。


 えっとー。

 うーん。

 美顔ローラは、流石にないか。


 でもその前に小腹が減ったしなー。

 『アイテムボックス』の一覧には在庫のポテチはあるが、今はそんな気分ではない。


 のラジオボタンにタップして、条件を絞り直す。

 リズム良くスワイプしていき、タコスチップスが目にまる。


 透かさず、ポイっとカートへ。

 そして、購入。


 因みにゲットしたものは、ダンジョン・メニューの『倉庫』へ送られる。


 そこから取り出し早速、封を開ける。

 割り箸を使って一口。


 ――パリ、パリッ


 子気味良い音。

 たまらん。


 そして、もぐもぐ。


 うまー。


 チリトマト風味にして正解だったな。


 俺が同期のダンマス達に対して優越感に浸れる束の間の幸せ。

 逆に言えば、それ以外では敗北を喫しているのかもしれない。


 スキルガチャで引き当てた『ショップ改』により、地球産のものも購入できるようになった。

 100均限定だが、有り難い。


 掲示板で誰かが『コーラ飲みたい』とか言い出すと、それに釣られてラーメンやすしまたはハンバーガーなどの地球産の食べ物の名称が飛び交うが、現在進行形で『俺(私)、食べてます』的なマウントを取る人は誰もいない。


 もしかすると俺同様にガチャでゲットしているが、公表せず隠しているだけかもしれないが。


 そう言うことで地球産のものを最低限ではあるが手に入れることが出来ているので、食生活においては概ね問題ない。

 それによって生じるダンジョンポイントの消費は必要経費と言うことにしている。

 食は大事だからね。


 付け加えダンジョンの階層増築を行っていない現状、同期達と違い懐事情はカツカツではなく比較的に余裕がある。

 理由としては手持ちの魔物がゴブリンしかいないため、早々に階層は意味を成さないと都合良く判断しただけどね。


 例えば、

   ・Aダンジョン 1階層のみ  ゴブリンのみ

   ・Bダンジョン 1~20階層 全階層ゴブリンのみ


 AもBダンジョンも難易度は一緒。多分だけどね。

 違いがあるとすれば、踏破時間に差異が生じる程度だと思う。


 因みに現時点において魔物のゲット方法は、5種類ある。


   ①魔物ガチャ

   ②スポナーからの誕生

   ③手に入れた魔物達による自前での繁殖

   ④野良の魔物の卵

   ⑤ショップでの購入


 ①は、ゴブリンしかゲットできず。

 ②は、ゴブリン専用のスポナーなので、同上。

 ③は、ゴブリンからはゴブリンしか生まれてこないため、①同様にゴブリンしかゲットできず。

 ④は、卵保管室にある卵で、孵化待ち。


 そして⑤の購入は可能ではあるのだが――


 左側にあるのラジオボタンを選択して、購入可能な魔物一覧を表示させる。


 ゴブリンしか表示されず。


 ガーンである。


 バグかと思い『ヘルプ』で調べたところ、魔物ガチャで引き当てた魔物しか購入できないため対象外の魔物は表示しない仕様だった。


 なので、正面の一番目立つ場所のラインナップには、ゴブリンが永久ループで登場し続けている。


 喜ばしくないことだが俺のダンジョン生活は、ゴブリン無双状態が絶賛継続中だ。


 せめてゴブリンの進化先のゴブリン・キングなどが購入できれば違ったのかもしれないが、魔物ガチャは進化元の魔物しか排出しないようなので、自動的にショップも進化元となる。


 自分に南無。


 取り敢えずコーラを『アイテムボックス』から取り出し、溢れ出す炭酸と共に沸々と湧き上がる負の感情を流し込む。


 うっまー。


 喉ごし最高ー。

 心も少々回復。


 気分転換が少しできたところで――


 ――ピン~ポン~パン~ポン~♪


 ん!

 唐突の聴き馴染のある呼び出し音が、コアルームに響き渡る。


 なんだー、なんだーと思い。

 顔上げ、キョロキョロと周りを見渡す。


 眼前の全モニターの映像が一斉に切り替わり――


 そしてそこには、見知らぬ女神が。


 見た目は、お淑やかなお姉さん系。

 髪は、キラキラした明るめのサファイアブルーのロング。

 綺麗過ぎるが故、笑みの無さが冷たさを漂わせる。


 『只今を持ちまして、ダンジョン準備期間の終了となります。悪しからず』


 おっと、もうそんな時間に。


 知らぬ間にジャックされたモニターが気になる。

 ザ・ファンタジー・テクもしくは便利魔道具、または映し出されている女神自身の能力か。


 と言っても考えても答えなんて分からないだろうから、素直に諦めモゾモゾと起き上がり座り直す。


 『3名ほど強制開放となりましたが、今期異世界召喚され、ダンジョンマスターになられた300名の皆さま、改めて、お疲れ様です。


 そして、終了に伴い皆さまの活動成果に報いるため、ささやかではありますが褒賞を差し上げたいと思います。


 あと4分ほどで精査が終わりますので、このままお待ちください。


 尚、褒賞内容の発表は、引き続きダンマス・チャンネル担当女神オリティアがお送りします』


 女神オリティアが映し出されているモニター上には、コメントが次から次へと左右へ流れて行く。


 :おーマジかーっ!

 :やったー

 :えっ、本当に!うれしいかもー

 :ドキドキ

 :ガチャチケットくれーっ


 もしかしてと思い、拍手してみる。


 ――パチッパチッパチッパチッ


 するとモニタ―上に――


 :パチパチパチパチ


 お!

 なるほどー。

 俺を含めた300名のダンジョンマスターの音を拾ってるっぽいな。

 流石に魔法がある世界、地球よりハイテクかもしれない。


 それにても、褒賞かー。

 ゲームで言うとミッションクリア報酬みたいなもんだろうな。


 どんなもんが貰えるかは分からないが、ダンジョン運営に役立つものであることは確実だと思われる。


 これで、おれの現状を救う何かだったら、最高。


 最低ラインにいる訳だから、これ以上は下がりようがない。


 ここはドーンと構えて、有り難く貰おう。

 ドキドキ、ワクワクである。


 予想外の褒賞に、高まる気持ちを抑えることが出来ず、期待するのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る