第002話 回想 腹パン女神


 ふー。


 強いヤツらじゃ、なくて良かった。

 魔物が落ちてくる時は正体が分かるまで、なんだかんだドキドキしてしまう。


 取り敢えずコーナがカウチになっているソファーに脚を伸ばして座り、一息つくことに。


 うんうん。


 お尻が沈み過ぎないこの塩梅あんばい

 くつろぐのに最適だね。


 良いわー、これ。


 目の前には、高さを合わせたシックなソファーテーブル。

 その上にはゴールドの合金製浅型のフルーツバスケットがあり、中には透明なフィルムに包まれた色とりどりの飴玉が。


 ここは居住空間兼、コアルーム。

 人の出入りは多いけれど、一応俺の部屋である。


 正面であるテーブル奥の壁には大型モニターが所狭しと並べられ、ほとんどのモニターに拡張工事中のゴブ達の姿がリアルタイムで映し出されている。


 忌憚きたんなく言うとこれがあるので、態々わざわざドームに足を運ぶ必要はない。

 しかし俺の姿を見せた方がゴブ達のモチベーションが上がるようなのでやむを得ず、見回りと言う名の散歩をを繰り返すことに。


 それが今や、習慣化。

 結果的には……、良かったのかなと。


 因みに右側には、寝室・キッチン・浴室。

 普通に生活する分には、困ることはない。


 そしてソファーの真後ろの神棚に鎮座しているのが、俺の相棒ことダンジョン・コアである。

 

 大きさは野球ボールほどで、円球。

 色はダークイエロー。


 不気味さや威厳はないけれど、底光りしているのでインテリアとして悪くない。


 それに最初はもう少し小さな黒球だったはず。

 多分だけどね。


 取り敢えずポテチを取り出して、指が汚れないないように割り箸で摘まむ。

 ついでにコーラも。


 ──パリパリッ


 うまっ。


 ──ゴクゴクッ


 シュワシュワとする喉ごしも、最高。


 意識をするだけで取り出せる『アイテムボックス』は便利過ぎだろと思いながら、気付けばここへ飛ばされてからもう少しで2カ月ほどになる。


 高校の体育館で行われていた入学式中に起きた突然の異世界転移。

 他学年の生徒や教職員、そして親御さんは対象外。


 対象は俺を含め新入生、11クラス330名。

 内訳として1クラス30名が勇者で、残りの10クラス300名がダンジョンマスターことダンマスとして召喚された。


 勇者とダンマス側は別々の神域で別々の女神によって説明がなされたので、勇者組がどのような内容であったかは分からないけれど、ダンマス側では勇者に成りたかった者達の猛烈な抗議から始まったのを覚えている。


 俺的には『地球に返してじゃ、ないのかよっ!』と、すぐさま心の中でツッコんでしまったが……。


 そしてその後も説明担当の女神ティナカレが端折はしょることなくを受け身の姿勢で真摯に聞くものだから、調子に乗ったヤツらの抗議内容がドンドンとエスカレートしていき、収拾がつかない状態に陥る。


 そんな罵詈雑言ばり ぞうごんの中で、『みなさん、落ち着いてくださーいっ』とアタフタしながら揺れるスカートのすそを抑え、必死に訴え掛ける女神ティナカレ。


 俺としては取り敢えず先へ話を進めて欲しかったけれども、収束する様子は見られず。


 まさに『あーあ』である。


 どうしたものかと考えあぐねていたところで、突然事態が急変。

 誰が言ったか分からない『チビ』と言う悪口で、刹那30人ほどが──


 腹パンを喰らい吹っ飛び──


 視界から消えた。


 途中から女神と言う生きものには『怒り』が存在しないのではと思い始めていたけれど、ただ単に我慢していただけだったようだ。


 悪口認定したヤツをしっかりと男女平等にロックオンしていたようで、俺の真横を女の子が見せてはいけない形相で後方に消えて行ったのを、今でも鮮明に思い出せる。


 因みに女神の見た目は、幼女体型。

 髪はキラキラしたプラチナのロング。


 そして負傷した男女はに戻った女神によって、の状態に。


 意識を取り戻した直後、女神を見て何人かが『ヒィッ!』と引きった声を漏らしていた。

 おそらく心にトラウマが芽生えてしまったのだろう。


 南無。


 静けさを取り戻した後にされた説明で、漸く召喚された経緯について語られた。


 まずここは世界トーレア。

 勇者組同様にここにいる俺達全員は数ある大陸の中の一つ、勇者召喚を頻繁に行う大陸パイタリアンへ、決定事項として転移されるとのこと。


 それにそもそもの事の始まりが、その大陸での勇者達によるダンジョン荒らしが起因のようだ。


 次世代を担う初級・中級ダンジョンが特に狙われているようで、それによりダンジョン運営に弊害が。

 更に近い将来、悪循環して深刻化するだろうとのこと。


 そしてこのままでは良くないと事態を改善するために、ダンジョン業務に従事している女神達による会合が執り行なわれ、ダンジョン側も異世界召喚をして対抗しようではないかと言う事になったようだ。


 その後はとんとん拍子でことが運んだとのこと。


 まず勇者召喚に携わっている女神達からの協力の了承。

 即OK。


 次に地球の神々への事情説明と許可。

 快く承諾。


 それらを経てついに数多くの神々が見守る中で、初の勇者・ダンマス合同大召喚が執行。


 因みに地球の神々がNOノーと言えば、そもそも召喚できなかったらしい。


 なぜ地球側がOKをするかというと、事は単純で彼らにも旨味があるようだ。

 それを聞いた周囲の何人かが『俺達を売り飛ばしやがってっ!』と、苦虫を噛み潰したような顔で吐露っていたのを、冷めた気持ちで聞き流したのを覚えている。


 その後は、貰えるスキルについて簡単な説明があり、再びガヤガヤした瞬間が何度かはあったけれど、それを除けば全体として淡々たんたんと進んだ。


 そして最後は転移場所の選定。

 所謂、どこでダンジョンを作るかと言うことである。


 半透明な大陸パイタリアンのミニマップがそれぞれの目の前に展開され、転移したい場所を選ぶように促され、決まった者から順次転移していく運びに。


 しかしながらどこでも選べる訳ではなく、大陸周辺の諸島や海および湖や河川は背景がグレーとなっており、タップ不可。

 当然文明圏こと街やその周辺も、NG。


 タップ可能エリアは青色で、押すと『ここにしますか?[Yes]/[No]』とポップが表示。


 それと女神ティナカレからの追加情報で、マップ上に点在する数え切れないほどの黒点は全てダンジョンであることも。

 素人目からしても多いように思うけれど、女神曰く他の大陸と比べ半分ほどに減ってるとのこと。


 因みに橙色の星マークは、ダンジョンマスターがいるダンジョンでその付近こと半径200kmも、選択不可。


 それにより早い者順だということが露になり、内容を理解した者から選定を急ぎ始め、場が一気に慌ただしくなる。


 普通に考えれば当然の仕組みなのだけれど、意識が及んでいなかったので俺も焦ることに。


 モタモタしているつもりはなかったけれど何度も先を越され、最終的に第5候補こと国同士の境界のきわでもあり人里から十分に離れている大森林の浅瀬を選定。


 そして、転移。


 光に包まれたと思ったら、5x5mの何もない部屋の中央へ。

 そして俺の足元にはコアが転がっていたのを思い出す。


 懐かしいなあと思い、改め後ろに鎮座しているコアを見る。


 気持ち偉そうに見えるけれど……、俺の気の所為かな。


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