『フィリア・アーウィング』


 僕はそんなことを思いながら、ベッドから抜け出した。

 僕の立つべき場所は、ここではないのだから。


「……出るんだね」

 そう言った彼女は、初めて出会った時のように、ベッドの上で座っていた。

 フィリア様の肌は白く雪の様な、真珠の様な白だ。

 フィリア様の腕は細く儚くも、その身体を支えられる滑らかなものだ。

 フィリア様の青く美しい髪は、内側に包むように肩先に軽くかかる毛先を持つ、信じられないほどに手入れの時間がかかる、はらはらと崩れるのにまとまったものだ。

 それらを繋ぐ少女の眼は……僕を見て、笑っていた。

 その表情に慣れていないのか、少しぎこちなさを感じさせるそれは、僕の心を深く、深く堕としてしまう、深い孔を想起させるものだった。

 だが、その孔に不快感はない。

 まるで、眠りに落ちるかのように緩やかに堕とされるその視線は、僕の痛みを和らげてくれるからだ。

 今なら心の底から思える。

 フィリア様の髪も、手も肌も足も……瞳さえも全てが愛おしく、美しく、可愛らしく愛することができると。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る