贖罪を」

「だからこそ、ごめんなさい」


 彼女は手を止めた。

「……どういうことですか?」

 僕が聞くとセッカさんは言った。

「ツクヨムを……苦しませたから」

 見上げた視線の先には、一滴だけ、朝露のような液体がまつ毛の先から頬を伝う光景が映っていた。


「私は、ルッカ様のように、あなたが『死にたい』理由に興味はない。空のように、『からっぽ』のツクヨムに関心もない」


 一つの呼吸の後。彼女はゆっくりと、いつものような淡い声へと変わっていた。

 メイド長の痕跡は、右頬に映る照明の反射だけだ。


 ふっ。

 閉め切った部屋に、暖かい春風が舞い、照明の光の一部を消す。

 眼の前の灰色の猫人に影が降り、姿が半分消えた。


「ただ、私は一人の『猫人』として、あなたに触れ、『殺されたくなった』」


 風は、彼女の背後にある火だけを残して消え去った。


 蒼い月を光らせて、黒猫は、聞いた。


「あなたは……どんな『過去』を見たの?」

 ──バキ

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