5日目夜 空っぽのカップ 2
……眼の前にまで近づくと、本当に似ている。
髪の色や瞳の色はともかく強気というか……大人びた雰囲気さえ除けば、この姉妹はそっくりだ。
「本当に変わらないわね」
「何がですか?」
「心拍。あの子には勝てないけれど、私も容姿は悪い方ではないと自認しているのよ?」
「はい、凄く美人だと思いますよ」
「……もしかして、あなた『かわいい』派?」
「さぁ」
「……どっちでもいいわ。まあ私が言いたいことは分かったでしょう?」
「朴念仁ということですか?」
「違う。いや、あながち間違ってはいないわね。全く……せっかく茶化しているのに、あなたは変なところが真面目すぎるのよ」
ため息と共に、二杯目の紅茶を彼女は飲み干した。こっちも少しからかいすぎてしまったかもしれない。
「それで、どうして『ここ』が壊れていると思ったんですか?」
「それも……『最初から』よ」
「どの、『最初』ですか?」
「この村に入った時から」
「入るなと言われた森に入ったことですか」
「いいえ、それは『旅人』の心理的に当然の行動よ。探求心、興味、そして、規範から外れようとする反抗心。このどれかが欠片でもあれば、外の人間は、ルールを破っても許されるだろう。という緩みができるものだから」
「なら……」
どこで、と質問する前に、彼女が先を越した。
「ねぇ……あなた、最初に挨拶をした時『平穏な生活』を望んでいると言っているけど……」
一息の後、彼女は告げた。
「どうしてあなたは、この森に入ったの?」
聞かれることのなかった、最も素朴で単純な質問を。
「特別な紙を作ること以外、何の変哲もない村で。そこに留まりさえすれば、『平穏な生活』を送れる村に。何故かある、行方不明者が出る森の中に」
「……」
「『村の中だけ』でしか言われなかった噂に、あなたはどうして躊躇いもなく潜り込んだの?」
「それは──」
「『殺されたかった』から。でしょう?」
つまらなかった。そんな言い訳など、唱える暇も無い。直球が飛んできた。
視線を合わせ続ける彼女に、僕は何も返せない。
時間を与えられても、言葉が粘り気を持って喉で引っかかるからだ。
何故か?
それは……
「あなたは、否定できないから、でしょう?」
「……」
否定したい。認めたくない。
だが、僕の首は視線を彼女に合わせたまま、軽く上下してしまった。
「正直ね。あの子みたいに聞くことは出来ないけれど……見ればわかるあなたは、私にとっても会話がしやすいわ」
「……」
「そんなにイヤそうに目を逸らさないで。……苛めたくなってしまうから」
なんとなく、僕がルッカ様に苦手意識を持っている理由の本質が分かった。
「ルッカ様は、本当に主の鑑ですね」
「……へぇ。よく理解しているじゃない。勤勉ね」
「えぇ。今冷静なのも、あなたのおかげですよ」
「ふふ、それは元からでしょう?」
「……」
「あなたは、とっても純粋な『いい子』なのだから」
「どうしたの?そんなに怖い顔をして。可愛い顔が台無しよ」
「……怒りますよ」
僕は、座っている椅子の背もたれを手で掴んだ。
「それは本気で?それとも『普通』の反応だと、判断したから?」
「どちらでも、結果は変わりませんよね?」
「えぇ、その通りね。あなたの行動は、変わらないわ」
「……なら、我慢します」
不快だ。
「へぇ……ここに来て、成長できたのね」
だが、彼女が見せる緩んだ表情は、不服だが心を落ち着かせる。
……今なら『黙らせる』行為はしなさそうだ。
「この屋敷に来た時の僕は、どう見えたんですか?」
くすり、彼女は笑いながら僕の質問に答えた。
「あら、それは一昨日聞かせたじゃない。『にんぎょう』さん?」
「……ほんと。いい性格だと思いますよ、ルッカ様」
「どういたしまして。それが、『成長』よ、月詠夢」
「……んぅ」
彼女は、頭をなでることが趣味なのだろうかと思い始めてきた。
「ごめんなさいね」
彼女は僕を撫でながら、突然謝った。
「……?どうしてですか」
「死にたがっていたあなたに、生きる理由を与えてしまったのだから」
……客観的に、大衆的に考えるなら正しいことだろう。善い行いと言えるだろう。
「そうですね。有難迷惑です」
「そうでしょうね。私は、そんなあなたに『夢』を見せてしまったのだもの」
「え……それは
──バキ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます