4日目? オムライス


 ──パキ

 フィリア様の夕食を作る為に、ドアノブを開いたとき、またこの音が鳴った。

 はぁ……今日はオムライスでも作ってみようかと思ったのだが、また別の状況に変わるのか。

 流石に何度も受けると慣れてくるが、ここまでの頻度で毎日起こってしまうとこちらの頭も疲れて……

 と思っていたが、特に異常もなく調理室に向かうことが出来た。

 なんだ、こういうパターンもあるのか。

 記憶が飛んだりするのは困るが、フェイントをもらうのはそれはそれとしてなのだが……

 まぁ……いいか。お嬢様の感想を新鮮な気持ちで聞けるのは楽しみだ。


「……?」

 フライパンを加熱している時、ふと右手に視線が移った。

 さっきまでドアノブを握っていた手だ。

 静電気のような痛みが一瞬流れた為に何となく見たが、手のひらに異物がみえたきがしたのだ。

 掌を近づけてみる。

「……なんだ、これ」

 黒い糸のようなものが、まるで手相の一つのように線を描いていた。視線を横に動かしたり、縦に動かしてみるが、線の位置は変わらない。どうやら飛(ひ)蚊症(ぶんしょう)ではなさそうだ。

 ……そもそも、糸なのか?これは。糸にしてはあまりにも鋭角に曲がっている。

 まるで、『割れ目』だ。

 とりあえず、料理に混入させるのはいただけないし、取り除いておこう。

 僕は、左の人差し指と親指で糸くずを……

 ぼと。

 おかしいな。


 ──じゅうううううううう。


 ゆびが……すりぬけた。


 ──じゅうううううううう。

  かたいとげが、にほん、ひっかかった。


「ぁ……は?ははは」


 おかしいな。

 右腕が……こんなに震えているのに……

 

 なんで、僕の、四本の指は、動かないんだ?

 疑問に答えるものはもちろんいない。

 返答は、涙でにじむ視界と、肉の焼ける香ばしい匂いだけで、十分だった。

 

「お待たせしました」

「……オムレツ?」

「いえ、オムライスです」

「……おむらいす」

「はい、チキンライスに、オムレツを乗せた料理です」

「こんなのがあるんだ」

「たしか、東の方で作られたアレンジ料理が元ですからね。足し算が織りなす芸術と言うやつです。一応隣にデミグラスソースも置いてあるので、味に飽きたら使ってみてくださいね」

「……いただきます」


「……ごちそうさま」

「どうでしたか?」

「……悪くなかった」

「でしょう?『僕の』渾身の料理ですからね」

「ただ……」

「ただ?」

 少し不思議そうな顔をしながら、手を後ろに組む僕を、料理を出してから初めて見てこう言った。

「『チキンライス』なのに、鶏肉の味はしなかったし……ひき肉を入れていたけど、どんなお肉を使ったの?『普通』はぶつ切りにしていれるものだけど」

 無垢な少女の目線に、僕は少し意地悪な笑顔を見せながら、『右手の人差し指』を唇に当て、一言で返した。

「秘密の、隠し味です♪」

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