4日目昼? 『能力』と心
「……『意思』を失った時、魔術は空想となる。この言葉の通り、魔術において必要なエネルギーは、『精神』の力と言っても過言ではないわけですよ」
「……そのまま続けるんだ」
死語は厳禁ですよ。
「上司が生徒なんだね」
「説明しろと言ったのはそっちですよ」
「なら、寄り道は長くしないで」
「はぁ……かしこまりました。とりあえず、魔術はだいたいそんなところですが、『能力』は魔術とは決定的に違う部分があります」
「……どんな?」
彼女は疑問を口にする。
それに対して、僕は
「……」
「……?何してるの?」
目を閉じ、耳をそばだてた。
「……」
視覚を遮断し、周りに聞こえる風、虫、果てにはセッカが無意識的に行う呼吸すらも聞こえてきた。
だが、まだ聞こえない。
「……無理だよ」
更に集中する。
呼吸だけでない。彼女の心拍、風に揺れる毛髪が擦れる音すらも聞こえ、普段意識しない音の合唱が一斉に流れ出した。
だが、聞こえなかった。
「やめて」
「っ!」
刹那、強烈な爆音が暴風と共に流れ、僕の集中は解けてしまった。
同時に、反動が一気に返ってきた。
肌が裏返るような感覚と、体温が魂と共に吸い取られる感触に僕は倒れこみかけるが……
「……実演に命を懸けないで」
少女にしては引く落ち着いた彼女の声が、心を包むように支えてくれた。
「それにしても、良く分かったね。心の声を聴覚でそのまま聞いてるって」
僕の肩を軽く支えている彼女は、感心したように僕に話しかけた……気がする。
「合ってるよ」
感心していたようだ。相変わらず声の抑揚が少ないので分かりにくい。
……聴覚を敏感にした副作用で耳鳴りが酷い状態であることもあるが。
「それで、どうやって気が付いたの?」
「……『
「考え事……長いからね、君」
そんなことを言われても、色々と考え事をするのが癖になっているのだから仕方ない。
「……そういうとこは、そっくりだね」
「誰とですか?」
「お嬢様方と」
もう歩けるでしょ。彼女は言うと、そのまま支えを取り外した。
何故かはよく分からなかったが、お嬢様方といった時に、納得したような、そんな柔らかな
表情を見せていた。
「とりあえず、『能力』ついては理解できましたか?」
こくりと彼女は頷く。
説明できているか不安だったが、雰囲気は理解できているようだ。
まぁ……本人が日常生活で使うものなんて原理的に考えることないからな……
「端的に……言うなら、『普通できないこと』ができることって感じだよね」
「だいたいそんな感じです。『能力』は、魔力だけでなくその人が持っている特有の『技術』に近いものなんです。たしかに心拍の乱れや視線の動き、分かりやすいので言うなら声のトーンでも感情は理解できますが、それらはあくまで表面的な感情ですからね。『思考内容を翻訳して聞き取り、その重要性や感情を声の大きさとして聞き取る』なんて芸当、とてもじゃないけどできませんよ」
「出来たら……よしよし、してあげる」
「なるほど、それは頑張らないといけませんね」
「ただ、こう聞くと『魔術』みたいに魔力を使ってるようには……聞こえないね」
「呼吸をする時、『酸素を吸収する』なんて考えますか?」
「……分かりやすいね」
「それで、さっき僕が読んだ論文なわけですよ」
「能力と……精神の何とかだっけ」
『能力』と精神の相互関係の知見です。
「そう、難しい言葉は覚えるのが大変だね」
「中身が綺麗なら文句は無いですよ」
「そ……氷雨様の書いたものなら、私が理解できなかったイコール説明下手だからね」
「それはそうですね」
まぁ、内容自体は一言で説明できるものですから。
「どんなの?」
彼女の質問に対して、僕は言葉を一つ引用した。
「『能力の発現条件に、先天的、後天的な精神的ショックを受けるというものが考えられる』」
この言葉は、僕が読んだ書類の結びに書かれていたものだ。
「……それがどうして気になったの?」
「僕が気になったのはその後ですから」
「後?」
「そこには──
──パリン
突然、聞き覚えのある音が聞こえた。
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