冷徹のロゼ ~勇者召喚に応じ蘇ったのはかつての魔王でした~

烏の人

蘇りし青薔薇

第1話 青薔薇

「な………なんだと………勇者召喚は成功のはずだ………こんなことが………。」


 ケアルの街の大聖堂。神との決戦の日は3年後と差し迫ったその日。最後、4人目の勇者を召喚する儀式が執り行われた。召喚は見事に成功したはずだった。だが、召喚された勇者のその姿を見て狼狽える初老の神父がそこに居た。


 礼拝堂の聖母像の下、人間の少女は産まれたままの姿で横たわっている。少し人間と違うことがあるとすれば、目元に青く光る結晶が生成されていることくらい。

 まだ意識はないようだが呼吸はしている。


「紛れもない人間………いいや、そんなはずはない………。」


 その姿は、伝承に刻まれる存在。1800年前に存在していた魔王、ロゼ·グラォザームヴルムと酷似していた。


「こんな………。」


 狼狽え、後ずさりする神父。当たり前だ。人の身でありながら、500年もの間地上を恐怖で支配し続けた史上最悪の魔王。それが目の前にいるのである。おおよそ、同族とは思えない威圧感。眠っているはずなのに殺気が漂う。


「くっ………。」


 あまりの空気に耐えかね、神父は礼拝堂の外へと駆け出そうとした。


「待て。」


 凍りついた声が神父を突き刺す。途端に足が動かなくなる。蔦にでも絡み付かれたみたいに体の自由が利かなくなる。


「今は………あれから何年経った?」


 魔王の目覚めであった。振り返ることなど出来ない。あまりにも緊張した空気。


「妾をこのような姿で放置しよって………まさか辱しめるつもりではなかっただろうな?」


「………私とて聖職者たる身。そのようなことは………。」


「ほう………さてと。こちらを向けそこの若造。」


「………。」


 黙ったまま、神父は振り返る。いつから纏っていたのか、彼女は紫を基調としたドレス姿へと変わっていた。


「用件を言え。若造。妾を蘇らせたのであれば相応の事なのであろう?」


「………3年後の大厄災に向け勇者を呼んでいた………その最後の1人が貴方だったのだ………。」


「ぎこちない返事だな………なに、取って食ったりはせぬよ。しかしそうか、第厄災………もうその周期に入ったか。」


 青薔薇の魔王、彼女はそう呼ばれていた。対面すれば希望は途絶える。長きにわたる恐怖支配により地上の主となった存在。

 それが何よりの謎であった。


「なぜ………貴方が勇者なのだ………。」


「さあな。妾に聞かれても知らん。史実とは気紛れなものらしいな。」


「そんなことが………。」


「現にそうなのだ。受け入れよ。妾は再び目覚めた。尤も、貴様らに肩入れするかどうかは妾が決めることだがな。」


 異端。その言葉につきる。勇者とは思えない、対極の存在。それが勇者を名乗って立っている。

 静寂を打ち破るようにして、礼拝堂の扉は開け放たれる。


「ゴーセさん!!」


 10代後半程の少年が神父の名を叫びながら携えていた勇者の証である聖剣を構え臨戦態勢に移行する。


「ダイト殿、なりません!!」


 ゴーセが言い聞かせる。


「判断は早いようだが………如何せん場馴れしておらぬな。」


「ダイト殿………お逃げください。」


「どう言うことですか!ゴーセさん!」


「貴方では………敵いません。」


「でも!!」


 しびれを切らし、ロゼが割って入る。


「はあ………妾を敵にするのは止めんか。それは妾が決めることだ。無駄な争いなどしとうない。」


「そんな言葉………信じられるか!」


 ゴーセはダイトにこう言っていた。『召喚と言うのは希に良くないものを引き寄せることがある。10分以内に召喚成功を伝えなかったらそういうことだと思ってくれ。』と。

 故に、ダイトの目には確実な敵としてロゼが映って見えたのだ。


 駆け出すダイト。ここで自分がどうにかしなくては、ここで斬らなくては勇者とは名乗れない。責任感、そして自信を糧にロゼに斬りかかった。


 首もとに一太刀。横一線。


 ロゼの首が跳ねることはなかった。


「不変の聖剣か。また懐かしいものを。それにしても、太刀筋に迷いがないな、貴様。」


「な………。」


「だから、取って食ったりなどせんよ。だが、少し話が拗れる。大人しくしておけ。」


青薔薇の鎖カッテロゼ


 詠唱の後、ダイトは己の体の自由がないことに気がついた。四方八方から、蔦によって拘束されている。全く動くことができない。そのとき理解するのだった。確かな格上の存在を。

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