第7話 後悔の日、そして歪みの日

幼稚園から共に毎日を過ごしてきた鈴木喜咲と花野恵は当然の如く小学校でも仲が良かった。毎日を彼女たちは過ごし、どこに行くにも2人は一生だった。

親友、そう呼ぶには相応しく、家族とも呼べる存在になっていた。家族同士も仲が良く、困った時には助け合い、支えあってきた。

それは子供あっての関係、それと同時に子供同士歪みがなかったからの関係ともいうことができた。だが、その歪みは子供とはまた違う場所で起きることなどまだ彼女たちは知らなかった。


その日、何か父の様子が変だと当時小学生の鈴木喜咲は感じていた。うっすらと、だがそれは時間を刻むごとに大きくなった。朝起きた彼女の父は朝食を食べてすぐトイレに籠った。それを心配した彼女は父に声をかけた。

「お父さん、大丈夫?お腹痛いの」

「うん、大丈夫だよ喜咲。少し熱があるだけだから、休めば治るよ」

そう言って父は彼女の頭を笑顔で撫でて自室に戻った。

幼い彼女はその日は何かやな予感がした為、家で過ごそうと思っていた。


「喜咲ちゃん!あそぼ!」

そんな思いとは裏腹に花野恵は親友の鈴木喜咲を遊びに誘った。

「え、けど今日は家がいいかな」

「えー、外の方が楽しいよ」

「けど」

「いこ、喜咲ちゃん!」

そう言って、花野恵は手を引き、外に連れ出した。その日のあそび場所は少し離れた公園の中だった。その日は12月でとても寒く、初雪も降った。

遊具で遊び、もうその頃にはすっかり鈴木喜咲は遊びに夢中で父のことも忘れていた。だが、それは彼女にとって最悪の行動だった。


帰りは遅くなった。門限は5時であったが遅くなり、帰宅時間は6時になってしまった。

家に帰ると、あかりがついていなかった。どこにいったのか、普段は夕食の時間であった。だが、幼き鈴木喜咲はそれをあまり深くかんず、父と母の帰りを待っていた。そして母が帰ってきた。黙って夕食を作り始めた。

「お父さんはどこ?」

「お父さんはもう帰らないは」

そう母は返した。

「何で、お父さんは何で帰らないの」

「ずっと遠くに行っちゃったのよ、一人で先に」

そう言って、母は自室に戻り、すぐに消灯した。

鈴木喜咲はそのままご飯を食べ、自室に戻り、寝ようとした。途中、母の部屋を通ると、母の鳴き声が聞こえた。幼くも、察しの良かった彼女はそこで大体のことを察した。


翌日。

「お父さん死んじゃったの?」

そう母に聞いた。

少しの沈黙から、母は答えた。

「うん、そうよ。喜咲、あなたが遊びに行ってから急に容体が悪くなってね。お父さんは」

そう言って母は泣き始めた、食器を洗っている途中だったが泣き始めた。水は流れ続けていた。

察しが現実になると、彼女も悲しかった。ただただ自分は父の容態に気づいていたのに何もせず遊びに行ってしまった、そんな自分が悔しかった。


程なくして、花野恵も親友の父が亡くなったと聞いた。

自分が無理を言って遊びに連れ出した間に。

幼くも彼女は自分をせめた。自分のせいだと。

「ごめんなさい、ごめんなさい」

彼女は自室で自分をせめ、そして親友の鈴木喜咲に謝りに行った。

「本当にごめんなさい。無理に連れ出して、その間に、本当にごめんなさい」

それでも彼女の気持ちは収まらない。それとは逆に鈴木喜咲の心はもう冷めきっていた。花野恵だけに対してというわけではない。この世全てに対してであった。

「大丈夫だよ、貴方のせいじゃない」

そして家のドアを閉めた。

そして鈴木喜咲は父の形見である伊達眼鏡をかけ始めた。別に視力が悪かったわけではない、だがかけた。そして彼女は新しい父親がいない人生を歩き始めた。


花野恵は鈴木喜咲に話しかけにくくなった。鈴木喜咲も同様であった。様々なことがあったと言えど、両者ともに親友のことは忘れられずにいたのだ。

それでも時は流れ続ける。



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