第5話 いい奴

「悪いな、掃除当番で少し遅れた」

「問題ねえ、早く準備しろよ」

サッカーをやるのは久しぶりだ。

体も硬くなったな俺。

 

よし、ストレッチこんくらいでいいか。

「準備できたぜ」

「守備と攻撃に分かれてゴールに決めたら勝ち、逆に守り側は取ったほうが勝ちの1対1攻守交互にしてする。5本して先に3本取った方の勝ちだ。攻め側が守り側にボールをパスしてそれをまた攻め側に返して攻め側がボールを受け取ったらスタートだ。先にそっちから攻めていいぜ」

そう言って俺にボールを渡してきた。

俺に先に攻めさせるのか。5本中3本先取した方の勝のこの勝負で主導権を握ることができる有利な攻め側を先に渡して来るとは。

随分と余裕だな。

だけどこいつの顔には少しの隙もない。

はー、きついな。

「じゃあ、始めるぞ」

ボン、ボン。

久しぶりだなこの音。そんな事を考える隙も与えない様にして佐野はボールを奪いにくる。

サッカーから少し距離を置いていたからかもしれないがなるほど。

こいつやるな。この実力なら最低でも市選抜には余裕で入るぞ。

漲るような覇気、強い奴らが出すやつだ。

「佐野、お前今まで何してたんだよ」

そう言いながら一定の距離を保ちながら佐野に問う。

「そんな喋ってる暇あんのかよ」

スピードを上げた。取りに来る。

アウトサイドでずらして俺もギアを上げて一気に佐野を置き去った。

そして少しの余裕を持ちながらゴールにボール流して1本選手するはずだった。

俺の右足から放たれたボールはゴールに入る寸前で佐野のスライディングにブロックされた。

「危ないな、もう少しで1本取られるとこたったぜ」

こいつ。

「じゃあ、次はこっちから行くぜ」

ボールを返した瞬間佐野のスピードは一気に上がり一瞬で俺は置いて行かれた。


俺は3本連続で先取されて俺は無様にもストレート負けをした。

「思い出したよ、その目。ハア、ハア。中学の部活にこんなやつがいたのかってっ。チームはボロボロなのにお前だけは目が死んでなかった」

「まさか一応認知はされていたとはな。悪いな、俺のわがままに付き合わせちまって」

「ほんとだよ。少しはこっちの身にもなれってんだ」

「わりい、わりい」

「お前、ほんと上手くなったな。前の時もチームで一人だけ別格だったけど」

「サンキュ、けどお前が続けてたらきっと俺よりうまっかたぜ。何があったかは知らねえけど勿体ねえ」

「はは、そんな大したことは無いよ。ただ、皆んなの気持ちに応えられなっかただけなんだ」


中学時代・・・

俺は千葉県でも強いサッカーのクラブチームに入団した。

そこはやっぱりみんな上手くて強くて速かった。そして俺はBチーム。三年間だ。

中学時代Aチームだったのはほんの一瞬だけ。

それでも俺は頑張った、毎日朝練して練習にも一生懸命に励んだ。

そして中学最後の大会、0−0の接戦で迎えた後半の途中の大事な時間に俺は呼ばれた。交代で出場したのだ。


およそ10分後、俺は交代させられた。

何もできなかったんだ。緊張もあったかもしれない、けど結果が全てなんだ。

後半で途中交代で出場してまた途中交代。笑い話もいいところだ。

俺はコートを出た後ずっと下を向いていた。

皆んなに合わす顔が無かった。Bチームの皆んなに、コーチ達に、保護者達にその中にいた親に。そして最後の最後で点を取られて試合終了。

1−0、負けだ。泣く皆んな、彼らは俺に対して何を考えているのだろう。

不思議と涙は出なかった。

解散前のコーチ達からの話、キャプテンの話、皆んな涙を流していた。

不思議と俺の瞳からは涙が出なかった。

チームの荷物をチームのバンに詰めて解散した。

俺は無心で歩く。親が送ってくれたため駐車場まで向かう。

向かう。

向かう。

合わせる顔が無い。全てマイナスに考えてしまう。

出れてないやつもいたんだぞ。

くそ、くそ。何してんだよ俺は。この中学校三年間何してきたんだよ。

くそ。クラブチームに入って結果がこれかよ。

くそ、くそ、涙が溢れた。止まらない。溢れ出てしまった。

上を向いても涙が頬を伝って垂れてくる。

ああ、だせえな俺。



佐野と対決してから今までより一層佐野と学校生活を共にするようになった。

「おい、ところで末野。最近どうなんだよ〜」

「何が?」

仲良くはなった。でもこいつは一層面倒くさくなったのだ。

「決まってんだろ〜、鈴木さんとだよ〜」

やっぱりそうか。

「何もねえよ」

あった、本当は。

あれから毎日登下校を共にすることになった。そして、俺の妹のことはと鈴木さんの弟君が同じクラスで仲良くなった。

そんなこんなで授業参観の時親同士が仲良くなり、家族ぐるみの付き合いになってしまったのだ。

「いーやあるな。俺とお前の付き合いだぜ」

まだそんなにたってねえだろ。

「ところで佐野、今度公式戦あるんだってな」

「おう、かつぜ!!俺わかったんだ、全部の試合勝てば最強の選手になれるってな!!」

「そ、そうか。それは良かったな」

こいつ、バカすぎる。

まあ、それがこいつのいいとこなんだがな。

はあー、次は体育か。

「そういえば末野、バスケやったことあんのか?」

「ねえよ、わかってんだろ」

「はは、お前がは目立ちたく無いから本気でやんねえだけだろ」

「そんなことねえよ」

うん、間違ってはない。だが決してそのスポーツができる訳でもない。

あんまり期待してもらうと困るなあ。


そして体育の時間がやってきた。

この学校は9個の選択から3個人気が高い順に選ばれる選択制だ。3クラス合同で男女は分けず1度選択した科目は選べないようになっている。

今回俺と佐野が選んだのはバスケットボール、男女比は1:1で同じくらいだ。

チーム分けはバスケケオ経験者6人と余りの24人をランダムに振り分けるって感じだ。俺は佐野とたまたま同じチームになり、花野さんも同じチームになった。

後は他のクラスの2人、内1人はバスケ部1年期待の新人らしい。まあそんなことは関係なくなるほどに手加減してくれると思うが。

そして準備運動をしてから早速試合が始まった。まあそっちの方が楽しいし異論は無かった。


「へい、末野!!」

ほい。

「シュッパッ」

「はは、絶好調!!」

うん、バスケ部期待の1年生よりサッカー部屈指のバカ猿の方が活躍している。

まさかこういう構造になるとはな。こいつまさかなんでもスポーツできる口じゃないだろうな。


「ふー、やっと休めるぜ。疲れた」

「運動もっとした方がいいんじゃないか、末野」

「筋トレはしてるんだがな、スポーツやってないとなかなか体力つかねえんだよな」

そうは言っても何か新しく始めようなどとは思わないが。

そういや花野さんだいぶ動けてたけどどっか部活入ってんのか。成績優秀、容姿端麗、性格も良くて終いには運動もできるときたか。アニメでしか見たことないぞそんな奴。神様はなんでそんなに配分をミスってしまったんだ。

そんなことを心ひそかに嘆いていると、

「末野君、喋るのは自己紹介の時以来だね。ところで末野君ってよく喜咲ちゃんと一緒に登下校してるけど仲良いの?」

「ん?」

「どうしたんですか末野君?で、どうなんですか?」

そう、横にはそのアニメでしか見たことのない様なキャラをした花野さんが座って話しかけてきたのだ。

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