第3話 末野と佐野
「さ〜今年もやって参りました。本校恒例のマラソン大会!今年の注目はやはりサッカー部、ラグビー部、そして陸上部!さあどんなレースになるのでしょうか!」
うちの高校の放送部は全国区の部活だから上手だ。
そして、サッカー部、ラグビー部も千葉県だと強い部類に入るから体力も有って期待されている。
だが陸上部は長距離専門もあるため1番期待されている。
個人的にはいつもランメニューをこなしているサッカー部と陸上部だな。
俺も中学まではクラブでサッカーをしていたから体力はあるが、あんまり目立ちたい訳でもないし高順位を取るのはやめておこう。
佐野はどうやらやる気満々らしい。
おそらく他の部員とでも勝負しているのだろう。
「それでは、女子生徒の皆さんは校庭中央に集合してください」
最初は女子からだ、そして次に男子生徒という感じだ。
「女子生徒全員準備ができたようなので、マラソン大会女子の部、開始します。」
「ピーーーーー」
そうして、高校入学後初のイベントが始まった。
程なくして、女子の部が終わった。
1位はバスケ部部長、2位3位は陸上部だった。
学級委員長の花野さんはまさかの8位、どうやら運動もできるようだ。
鈴木さんは最下位の1歩手前で踏みとどまった。
息も上がっている、あまり体力はないようだ。
「おい、大丈夫かお宅の鈴木さん。フラフラしてるぞ。」
確かにフラフラしている。大丈夫か。
バタン!
「おい!鈴木さん倒れたぞ!」
おそらく女子トイレに行く途中、鈴木さんがばたりと倒れた。
周りには人はいない。
レース前だけどこれは行くしかないな。
「俺が行くよ」
そう言って俺は集合の合図を無視して鈴木さんの所まで走って向かった。
「おい、大丈夫か」
そう言いながら肩を揺さぶるが反応はない。
呼吸はしている、息はあるようだ。
「ちょっと我慢しろよ、すぐ保健室まで連れてってやる」
そう言って、俺は彼女をおんぶして保健室まで連れて行き、保健室でそのまま彼女の様子を見ていた。
「軽い酸欠だったみたいですね。今は眠っているだけだから、起きたら普通に学校生活に戻っていいですよ」
慣れない運動をしたのか。
もっと運動するべきだ。
少ししてから鈴木さんが起きた。
「おはよう。体調は大丈夫か?」
「う、うん。ごめんね迷惑かけちゃって」
それから彼女は保健室の先生からの検査を受けた。
終わった時には下校の時間になっていた。
「じゃあ、帰るか」
「うん」
また鈴木さんと帰ることになった。
「今日は本当にありがとね」
「いいよ全然。もっと日頃から体動かしなよ」
そしてたわいの無い会話をしていた時、彼女が言った。
「あの、今更なんだけど、眼鏡も本当にありがとね」
「てか、髪切ったんだね。似合ってるよ」
「ありがとう、嬉しいよ。眼鏡も戻ってきたくれたから切ったんだ」
「へ〜、その眼鏡を俺が持ってる期間鈴木さん眼鏡かけてなかったけど大丈夫だったか?」
「うん、大丈夫だよ。実は私そんなに目悪く無いから。この眼鏡お父さんのお下がりなの。昔もらってね。色々あって、私のお守りみたいな物なの」
その色々は詮索しないようにしよう。
「そうだったのか」
少し生暖かい風が吹いていて、夏がやってきたのだと感じた。
筋トレするか。
俺は日課として筋トレと散歩とアニメ鑑賞と読書は欠かさない。
溜まっていた新作アニメを消費する。
ふー、終わった。今期も良作多いな。
夏コミが楽しみだ。
そんなことを思いながら普段会話をするわけでもない連絡先一覧を見る。
今日は珍しくメッセージが来ていた。
鈴木さんからだ。実は学校から帰る時連絡先を交換したのだ。
よろしく!!というゴリラのスタンプが送られてきた。
返しとくか。スタンプでいいと思い、宇宙人が右手を挙げているスタンプを送ってその日は寝た。
次の日、学校に来てみると何とも面倒くさいことになっていた。
「お、本人登場だぜ!」
なるほど、大体理解できた。
「よお、末野。調べたら出てきたぜ」
そう言われながら俺がサッカークラブに入っていた中学時代の顔写真を見せられた。
「見つかったか、いずれはそうなるだろうと思ってたんだがな。こんなに早いとは思ってなかったよ」
周りを見渡すと少々話題になっているようだ。
佐野は珍しく自分の席に座ってスマホをいじっていた。
俺は佐野に近づいて話しかけてみた。
「おはよう、佐野。なんか面倒臭いことになったは」
佐野の反応は無い。
「おい、聞いてんのか佐野」
もう一度呼びかける。
「おい、末野。お前があんな強いチームに入っていたとは思わなかったぜ。お前は倒したチームのことを覚えているか?覚えてるわけないよな。俺もそうだ。けど圧倒的に強かった敵のことは覚えてるよな。俺はお前の顔をネットで見た瞬間思い出したよ、あの時の記憶を。髪型が変わっててわからなかったよ。でさあ、俺と放課後一対一してくれよ。もうサッカー辞めてるかもしれないけど相手してもらうぜ。俺があの日からどれだけ強くなったか試してみたいんだ」
なるほど、そういうことか。申し訳ないが俺は佐野のことも佐野のチームのことも覚えていない。おそらくボコボコに負かしたのだろう。
力試しか、佐野も引きそうにないし受けてやるか。
「わかった。放課後校庭でな」
「スパイクは貸してやるよ。予備のスパイクあるから」
それから1日佐野とは一言も会話せず、放課後の時間になった。
放課後掃除があったため少し遅れて校庭に行くことになった俺はふと校庭を窓から見下ろした。
そこには一人でシュート練習をする佐野の姿があった。
窓からでもわかる彼の影はとても大きな物だった。
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