3話 蜂蜜の猪ステーキ 3

 するとサーラは、にんまり口角を緩めて、商品棚に並ぶ食品を一つ一つを目で見て品定めしてから、順番に指で指し示す。

 「野菜は、…これと、あれと。…もう一つ向こうのも。…あと、保存食や調味料も幾つか、あったら頂戴。」

 「たはぁ~!…相変わらず、鮮度の良いやつばかりだな。…もう買い物上手め。…調味料は持ってくるよ。…ついでに、勘定もするから待ってな。」

 若い商人は苦々しげに呟くと、急いで荷馬車の荷台に入っていく。

 少しの間、静かにサーラは佇んでいた。

 だが突然、赤子が泣き出した。

 サーラは気がつくと、自分の身体を上下に揺らしてあやしだす。

 「よし、よし。…どうしたの?…お腹すいたのかしら。」

 それでも赤子は泣き止まず、辺りに鳴き声が響いていく。

 ふと唐突に、彼女達の近くへと人が近づく気配がした。

 それは、先程まで御者台にいた店主である。すぐさまサーラ達の様子を見て、話しかけてきた。

 「おやおや、可愛らしいお客様。…お腹が空いたんだって?…ならば、甘い物はいかがかな?」

 「へ?…甘いのあるの?」

 とサーラは話を聞くと、両目を輝かせた。

 それに周りにいる御婦人方も釣られ、顔を向けながら聞き耳を立てる。

 店主はニヤリと、ほくそ笑みながら、

 「えぇ。…実は本日の目玉商品として、南方の地域から滅多に出回らない品を持ってきたのですよ。…」

 と、後ろ手で隠していた物を、前に出して見せびらかしてきた。

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