3話 蜂蜜の猪ステーキ 4
それは瓶に入った蜂蜜である。とろりとした粘度のある液体は、日光に照らされて黄金色に輝いている。
辺りに御婦人方が感極まり、どよめく声がしていた。
すかさず店主は瓶の中の蜂蜜を、取り出した匙で掬うと、赤子の口元へと差し出す。
「特別に、試食させてあげますよ。…さぁ、口をあーんして、…」
「わあぁぁぁー!?!…だめダメ駄目じゃ!…絶対に駄目じゃぁぁ!!」
するとサーラは、全力で腕を振り回して拒否し、慌てて後退しながら距離を取った。
周囲の人々は、状況が呑み込めずに狼狽えてしまう。御婦人達は互いに顔を見合せている。
「な、なんだよ。…これは変な物なんかじゃないぞ!…このガキ、うちの商品にケチつけんじゃねぇぞ!!」
と店主も、大きな声で怒鳴りつけてきた。
「待たんかい!」
だが背後から、誰かが大声で静止する声が聞こえてきた。
同時にサーラと店主が振り返る。
その先では、人だかりの中から村長が姿を現した。
彼は鋭い目付きをしながら、商人の方を力強く指差して指摘する。
「その娘の言う通りだわい。…蜂蜜には、一歳未満の赤ん坊には与えてしまうと、病気になってしまうんだよ。」
「な、なんですって?!…それは事実ですか?!」
「事実だ。…蜂蜜は大人が食べても何ともない。…しかし、その子はまだ生後半年辺りだから、病気にならないための免疫がない。…それに例え蜂蜜に火を通したとしても病気の原因は取り除かれないから、口にしてはいかんのだ。」
「そ、そうだったのか。」
「…知らずとも仕方ない。…ワシの若い頃は常識じゃった。…しかし、もう蜂蜜なんて戦後の時代から、この辺りじゃなかなか手に入らんしな。…それでも商品の知識は商人ならば、知らないとまずいぞ。…」
やがて店主は話を聞くと力なく項垂れながら、再びサーラの方へと振り向き謝罪してきた。
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