第42話 エリスの死

 ガキンと刃先が胸当てに当たる音がした。

 背中からの攻撃は防ぐ事が出来ず、エリスは悲鳴を上げて倒れ込んだ。

 俺はエリスが刺されたのを見て怒りに燃え、襲ってきた者に向かって飛びかかった。


 後に分かったことは、襲ってきた三人は盗賊で、先日討伐した商隊を襲った盗賊の仲間だった。

 彼らは俺が仲間を殺したことを知ると、尾行を続けてダンジョンの一階層に入ったことを確認したのだ。

 そして復讐のためにダンジョンの二階層で待ち伏せをしていたのだ。


「よくもエリスを!てめぇら何者だ!」


 俺は槍を振り、一人目の賊の首を切り落とした。エリスの傷を見て激しい憎しみを感じ、エリスを守れなかったことに自責の念を抱いた。


「くそっ、この野郎!お前が仲間を殺したんだろうがぁ!女共々死ねや!」


 二人目の賊は斧を振り上げて俺に向かってきた。


「黙れ、クズども!お前らは商隊を襲って罪のない人々を殺したんだぞ!お前らは死んで詫びろ!」


 俺は斧を躱し、槍で二人目の賊の腹を刺した。仲間を殺したと言った時点で、この前の盗賊と断定した。


「ぐはっ、このやろう・・・」


 三人目の賊は弓を構え、俺に矢を放ったが、矢を避けるとお返しと言わんばかりに俺も矢を射た。

 俺の矢は三人目の賊の胸を貫いたが、野球ボールほどの径の穴が空いた。

 10秒ほどで賊たちを返り討ちにし、腹を刺された奴はのたうち回るも、腸がはみ出しているから間もなくくたばるだろう。

 しかし、俺の顔には喜びの色はない。


「エリス、エリス!大丈夫か!?」


 俺は慌ててエリスに駆け寄り傷口に手を当てたが、どう見ても致命傷だった。エリスは血を流しながら、かすかに俺の名前を呼んだ。


「タケル様・・・ありがとう・・・私は・・・あなたが・・好きでした・・・綺麗な顔で出会いたかっ」


 エリスの力ない言葉は、最後まで続かずに事切れた。


「エリス、エリス!しっかりしろ!死ぬなよ、死ぬなあぁぁ!」


 俺はエリスに必死に呼びかけたが応えなかった。はっとなり死地のダンジョンで得た金色のポーションの事を思い出した。

 あれを飲んだら腕が生えたんだと今頃思い出した。


 俺は急いで金色のポーションをリュックから取り出し、エリスに飲ませようとした。

 だが彼女はもう飲むことができなかった。

 ならばと俺は口移しでポーションを彼女の口に押し込んだが、飲まない。

 必死になり喉に手を突っ込みポーションを無理やり喉に流し込んだが、エリスは既に息をしておらず、カチャリと音がして首輪が外れた。

 それは彼女が死んだということを意味していた。


 俺は絶望の中で声にならぬ叫び声をあげた。


 しかし、俺は虹色のオーブの存在を思い出した。

 任意のユニークスキルを得るオーブで、迷うことなくオーブを割った。


 次の瞬間意識が薄れ、気が付くと真っ白な空間にいた。そして目の前にウィンドウのようなのが顕れた。そこには無数のユニークスキルが表示されていた。


 直接触れられないが、手を伸ばすとその指先の動きに会わせてウィンドウ内の表示は動く。

 直感的に操作が分かり、ユニークスキルの一覧から、目当ての死者蘇生スキルを捜す。

 その中にエターナルアーチャーがあるも、グレーアウトされていたが、何とか目当てのスキルに辿り着く。


 それは、死んだ者を生き返らせることができるという、まさに神の力に匹敵するスキルだった。

 もちろん他に目もくれず即時に取得した。


 次の瞬間、俺はエリスの死体を抱えたまま、ダンジョンの二階層にいる状態で意識が戻った。

 はっとなると迷わず新たに得た死者蘇生のスキルを使用した。俺からエリスの体に向かっておびただしい量の魔力が流れ込む。

 すると彼女の心臓が再び鼓動を始め、俺はその心臓の音に涙を流した。だが、取得後すぐに死者蘇生スキルを使った反動により、急激に視界が暗くなる。そしてほどなくして気絶してしまった。


 どれくらいの時間が経過しただろうか?目が覚めた俺は、見たことのない超絶美少女に膝枕されていた。彼女の胸は赤く血に染まっていたが、優しく俺の頭を撫でていた。俺は混乱しながらも一言呟く。


「君は誰?」


 その美少女は微笑を浮かべながら静かに答えた。


「私はエリスですよ。タケル様。意識が混乱しているのですね。タケル様が私を救ってくれたのですよね?」


 俺はその言葉に心を打たれ、話し方から彼女がエリスであることを理解した。

 俺が使用した死者蘇生のスキルがエリスを生き返らせ、金色のポーション、つまりエリクサーが彼女を以前よりも美しい姿に変えてしまったのだ。

 いや、本来の姿に治療され、火傷が失くなっただけだ。


 俺は起き上がるとエリスが「痛い」と悲鳴を上げるまでそのお腹に顔を埋め、泣きじゃくったのだった。

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