第43話 生まれ変わったニューエリス

 俺はエリスの傍らに膝をつき、ゆっくりと身をかがめながら自分の顔を彼女のお腹に静かに沈めた。

 そこで感謝と喜びの涙を流していたんだ。

 エリスの腹部は俺の温かい涙でしっとりと濡れていった。でも、俺の感情が強すぎたせいか、少し強く抱きしめていたみたいだ。


「痛い、痛いです!」


 エリスが小さな声で悲鳴を上げた。


「ごめん、エリス。つい・・・」


 俺はすぐに顔を上げ、慌てて彼女のお腹を優しく撫でながら謝ったんだ。

 自分の涙で湿った彼女の服を丁寧に押さえて、少しでも不快感を和らげようとした。


 エリスがまだ自分の姿が変わったことに気づいていないと悟ると、俺は本来の姿を見せることにした。収納からスマートフォンを取り出し、彼女の写真を撮ったんだ。

 画面に映ったエリスの姿はものすごく美しかった。いや、実物も凄いことになっているけど。

 元の世界でもめったに見ない美貌だぞ!


「エリス、これを見て」


 俺はスマートフォンの画面を彼女に向けたんだ。


 エリスはその画面に映った顔をじっと見つめていた。その顔は夢の中のように美しく、彼女自身が羨望の眼差しを向けるほどだった。


「これは・・・誰?・・・こんな綺麗な人が世の中にいるんですね。それに本物にしか見えませんが、高名な画家の作品なのでしょうか?」


 彼女は驚愕と羨望を込めた声を震わせるも、手をぽんと叩いてひらめいたように言った


「これは ひょっとして彼女さんですか?」


 エリスは自分でも理解できない嫉妬の感情を抱きつつ、それでも俺に尋ねたんだ。


 俺は穏やかな笑みを浮かべて答えた。


「その女性は俺がこれからもずっと側にいてほしいと思っているし、彼女になってほしい人だ。断られるかもだけどね」


 エリスの心には嫉妬が曇りとなって現れ、口をとがらせそっぽを向いた。

 俺の想い人の浮世離れした姿に、一筋の涙を流したんだ。俺は彼女が自分の写真ではなく、他の女性だと誤解していることに気づいた。


「勘違いすんなよ。これはお前だぞ」


「分かりました。、これは魔道具ですね。タケル様が私の姿がこうだったなら!と言う願望を絵にする魔道具なのですね。申し訳ありません。エリスはこのような美人ではなく醜女です」


 俺は彼女の頬に優しく手を置いた。


「火傷なんて無いから。ほら、顔を触ってみて!」


 俺の手には温かく心地良いその滑らかな頬の感触賀伝わってくる。


 そしてエリスは少しずつ自分の変化を受け入れ始めた。

 彼女は自分の顔を何度も触り、新しい自分を確かめた。

 そして、その確認の中で段々と感動が溢れ出し、号泣したんだ。


 俺はエリスをそっと抱きしめると、今度は俺の肩が彼女の涙で濡れた。数分後、彼女が落ち着いたのを見計らって、俺たちは盗賊のライブラリーカードを回収した。また、死体や武器を収納にしまうと、エリスの顔から涙が消えたのを確認しダンジョンの外へと歩を進めた。


 ダンジョン入り口にいる警備部隊へ盗賊討伐の報告を終えた後、冒険者ギルドへと向かった。


 ギルドで俺の専属を務めるサキは、俺たちを見て目を丸くし、言葉を失いながらもはっとしてエリスのことを尋ねた。


「タケル様、そちらの方は?・・・それにあの火傷がひどい奴隷はどうしたのですか?まさか売り払ったのですか?」


 俺はエリスと話し合い、死んだことにすると決めた。


「彼女は死んだ。そしてこの子はエリス。盗賊に襲われているところを助けたんだ」


 俺は静かに答えた。


「あの子死んだんだ・・・可哀想に」


「彼女、エリスを冒険者登録して新たなパーティーメンバーとすることになった。登録を頼む」



【サキ視点】


 一瞬、タケル様がこれまで連れていた奴隷とは違う、初めて見る綺麗な女性を見て、自分も容姿には自信があるけど勝てないと思ったわ。

 危機感が芽生えたの。


 でも、すぐにその感情を抑えてこの新たな展開に興味を示したわ。

 けど正直・・・見損なったわ。

 あんなに大切に扱っていた奴隷の子が死んだのに、その日のうちに別の、しかも物凄い美人を連れてきているなんて。

 しかもあの子の態度から、もう心を掴んでいるわよね。

 タケル様は他の人とは違うと思ったのに。

 その辺にいる下衆と同じだったなんて。


 この人になら人生を託しても良いかなって少し想ったのに、私の気持ちを返せ!と言いたい気分。

 今は考えがまとまらないわ。

 専属受付として最低限の仕事はするけど、やっぱり男運がないのね・・・


「そうですか・・・では、登録手続きを始めます」


 それでも私はプロフェッショナルな態度を保ちながら言ったけど、タケル様の新たな仲間への興味と好奇心、そして少しいえ、物凄い嫉妬心に満ちていたわ。

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