第44話 平手打ち
【サキ視点】
私はタケル様が盗賊に襲われたという報告を聞いて、深くため息をついたわ。彼が無事だったのは良かったけど、新しい女性、エリスを連れてきたことに私の胸はざわめいたの。
私はタケルに失望した・・・昨日まで彼は醜女にも関わらず奴隷の子を大切にしていたのに、今日はもう別の女性と一緒なのよ!彼は見た目はよくも悪くもないけど、女性に優しくする好青年だと思っていたのに、実は節操のない薄情者だったなんてショックよ!
私は彼に対して過大評価していたのだろうか?彼は他の冒険者と同じように、女を物や性欲の捌け口としか思っていないのよ!私・・・騙されるところだったのね。この人となら・・・結婚相手の候補にと想ったのに、このような軽薄な男とは結婚できないと思ったわ。
私は重い足取りで2階に上がったわ。人目につかないところに着くと、私は感情を抑えきれなくなったの。
そして振り向き様にタケル様の頬を平手打ちしてやった!パチンという乾いた音がギルドマスターの執務室の前に響く。
「あなたは最低です。奴隷の子を大切にしていたのは嘘だったのですね。死んだその日に別の女を連れてくるなんて、女の敵です!」
タケルは驚いた顔をし、エリスは私の言葉を聞いて誤解だと言った。
「タケル様はそんな人ではありません。あなたは誤解しています」
「何をやってるんだ!用があるなら早く入れ!」
いけない!扉の外でさわいじゃったからギルドマスターの怒鳴り声が聞こえてきたわ・・・
【タケル視点に戻る】
問題を先送りにすることにした。
サキさんには申し訳ないと思ったが、今はギルドマスターと話すのが先決だ。
「サキさん、ごめんなさい。この後ちゃんと話をしますから、今はギルドマスターと話をしましょう」
サキさんはムスッとした顔で俺を見たが、何も言わずについてきた。ギルドマスターの執務室に入ると、俺はエリスをそばに引き連れ、厳かな雰囲気の中で報告を始めた。エリスは俺の奴隷だったが、今は俺の仲間だった。彼女は一度死んだが、俺が持っていたエリクサーで生き返ったのだ。そして、その火傷も死者蘇生のスキルで治したのだ。あれ?逆か?だが、それは誰にも言えない秘密だった。こんな感じに俺はサキに平手打ちをされ、テンパっていた。
ギルドマスターは俺の報告を聞くと同時に、エリスの顔を細かく観察し始めた。その目は鋭く、長い間冒険者たちを見てきた彼の洞察力が、エリスの存在に何か特別な事情があることをすぐに察知した。
「首輪はどうした?」
ギルドマスターの問いに俺はビクンとなった。首輪は奴隷の証だったが、エリスはそれを外した。いや、死んだ時に外れたのだ。
彼女は奴隷から解放され、新たな人生を歩み始めたのだ。だが、それは誰にも言えない秘密だがばれたようだ。
「お前さんの奴隷は死んだと聞いたが本当に死んだのか? それとも、何か特別な手段で生き返らせたのではないか?」
ギルドマスターの質問に俺は一瞬言葉を失った。ギルドマスターの鋭い視線と洞察力には驚かされたが、彼に対し事情をある程度明すしかなかった。だが、それは誰にも言えない秘密だった。
「はい、エリスは一度死んだのですが、私が持っていた恐らくエリクサーだと思うポーションを使い、彼女を蘇生させました。そして、その火傷も…」
「エリクサーで生き返らせただと?ならば火傷はどうやって治した?」
ギルドマスターはさらに詰め寄り、俺をじっと見つめた。その視線は、真実を隠すことを許さないような鋭さだった。
俺は諦めて深呼吸をしてから答えることにした。サキさんは事態を理解するのに時間を要した。俺が本当の事を言っているのが分かるも、先程最低だと罵り、殴った事実が重くのしかかる。
「それは、死者蘇生のスキルとエリクサーの力によるものです。まるで奇跡のように、彼女の傷は癒されました。」
ギルドマスターは一瞬沈黙した後、ゆっくりと頷いた。
「なるほど、それは驚くべき話だ。だが、エリクサーといえどもそう簡単に手に入るものではない。タケル、お前はどこでそのような貴重なものを…」
ギルドマスターの質問は続いたが、俺は笑って誤魔化した。ギルドマスターもまあ秘密だよなと諦め、開放された。だが、それは誰にも言えない秘密だった。
ただ、三人が部屋を後にする際、ギルドマスターは俺とエリスに対して重々しく警告を発した。
「タケルよ、よく考えて動くのだな。このことは他の者に口外しない方がいい。理解したな?」
俺たちは返事をした。ギルドマスターは先日のように手をヒラヒラさせ退出を促した。
そして扉の前でサキさんは俺に詰め寄る。
「なぜ私に真実を話してくれなかったの?知っていたらさっき殴ったりしなかったのに!」
俺は彼女の問いに答えた。
「すまない。エリスは火傷を負った時の醜い姿を知る人をなるべく少なくしたいと願ったんだ。彼女は過去と決別し、新たな人生を送るために!奴隷としての自分は死んだと、周囲にそう思わせたいと頼んできたんだ。だが、それは誰にも言えない秘密だったけど、流石ギルドマスターがの目は誤魔化せなかったな」
サキさんはその言葉を聞いて理解を示しつつも、悔しさから嘘泣きをしてみせた。
「専属としてお仕えしているのに、仲間として信頼してくれていないの?ううう」
俺はサキさんの涙に動揺し、オロオロとした様子で彼女を慰めようとした。
「そんなことはない。話す前にギルドマスターに看破されたんだ。本当は後にサキさんにだけ話すつもりだったんだ」
「そんなの口先だけよ。信頼しているなら証拠を見せてよ」
俺は困った。取り敢えずサキさんの機嫌を取ることにした。
「今晩、三人で新たなスタートを切るために一緒に食事をしないか?もちろんお詫びに奢るよ」
サキさんの顔は急に明るくなった。
「言質を取ったわ。ちゃんとエスコートしてくれるなら許してあげるわ」
そう明るく言った。
俺は女性の涙に物凄く弱かったのだと自覚した。
俺たち三人の新たなスタートは、これからの絆を深めるための食事から始まることになるのだったが、最後はしまらない一言だ。
「あのう・・・サキさん?俺たちはこの町に来たばかりだから店が分からないんだ。だから仕事が終わる頃に迎えに来るから、店選びをお願いしてもいい?」
「あら、私が決めていいんだ?高級店を選ぶかもよ?」
「も、問題ない。まだまだ魔石はあるから!どんと来いだ!」
その後、自重した内容の魔石を売り、当面の資金として金貨12枚を手にする。また、ボスの魔石と今日倒し多分の魔石をエリスと半分こにしたが、1人につき金貨2枚と銀貨3枚だった。
上機嫌なサキさんに見送られながらギルドを後にした。その後はエリスの服などを買ってから宿に向かうことにした。
あれ?そう言えばなんで俺はサキに奢る約束をしたんだっけ?殴られたのは俺だよな?
ああぁ、女子、特に若い女の扱いって難しいぞ!誰かマニュアルをくれ!
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