第45話 鑑定しに行こう!

 買い物袋を手に、新たな服を身にまとったエリスを横目に見ながら、俺たちは白銀の月宮という高級宿への道を歩いていた。彼女は、これまでの自分と決別するかのように、新しい服を選んだ。それは彼女の変わりたいという願いの表れだったんだろう。


 昨夜、宿での威圧的な態度が原因で、受付の女性に失禁させてしまったことが頭をよぎる。あれから一夜明け、俺はエリスのことを考え、彼女の過去を知らない新しい宿に移るべきだと決意した。


【白銀の月宮】に着くと、受付は別世界のようだった。所作一つ一つに優雅さが漂い、スタッフたちはメイド服や執事服を身に纏っている。それぞれが役割を果たす姿は、まるで舞台の上のようだった。


「二部屋お願いします」


 俺がカウンターで言ったが、エリスが急に「いいえ、一部屋で」と言い放った。


「えっ、でも一部屋だと…俺、襲っちゃうかもしれないぞ?」俺はおちゃらけてみせたが、エリスは真剣な面持ちで、「身も心もタケル様に捧げていますから」


 エリスのその決意は揺るぎないものだった。


「そ、そういう問題じゃ…」俺は言葉を濁した。受付のスタッフは、ジト目で俺たちを見ている。その視線がチクチクと肌に刺さる。だが、エリスの決意には勝てなかった。そうして、俺たちは一部屋を取ることになったんだ。


 部屋に入ると、エリスは新しい服を脱いで、ベッドに腰掛けた。

 もちろん服を脱ぎ出した途端に背中を向け、着替えているところを見なかったよ!俺って偉いよね?


「えっと、エリス。本当に大丈夫なんだよね?」


 俺は気になって再度確認した。


 エリスはニッコリと微笑んだ。


「大丈夫です。タケル様が私を守ってくれるって信じていますから。それにタケル様にこの身を委ねるのは、寧ろ御褒美なのです。私は妾でも良いですから」


 その言葉に、俺は何だか妙に心が温かくなった。自分が守るべきだと改めて感じたんだ。でも最後の言葉は重かった。

 だが、性的なウエルカムは今の俺に敷居が高く、スルーするしかない。

 あれだ、今は火傷が治ったことより、おかしなことを言っているんだ。明日になった昨日のことは忘れてくださいって言うんだ!そうだ!きっとそうだ。今胸を揉んだりしたら絶対嫌われる。こんな精神状態に付け入ったらアウトだ!


「ありがとう、俺もエリスの信頼を裏切るようなことはしないからな」


 俺は彼女に約束すると彼女の笑顔を見て、俺はこの宿選びもきっと間違ってはいないと確信した。白銀の月宮での一晩は、俺たちにとって新たなスタートの象徴になることだろう。


 それはともかく、まだサキの仕事が終わるまで時間があるので、アイテムの鑑定をしに行く。

 先に教えられた魔道具を扱っている店だ。

 その店内は、古びた本棚が並び、静かな呟きのような魔法の囁きが店の隅々に満ちている。その空気感は、魔法の力が息づいていることを感じさせ、その雰囲気が更にこの街の神秘性を増していた。


 店主である中年の鑑定士に鑑定を依頼した。雑談を交えながらエリクサーと思われるポーションもあると話すと、興奮した様子で俺が持ってきたアイテムを一つずつ目を細めて見ていくのだった。



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