第52話 忠誠
俺はギルドマスターの執務室で、生き返らせた僧侶と女騎士から話を聞いていた。
壁に掛けられた武器や地図が、ここが冒険者たちの拠点であることを物語っている。
僧侶のサンリツは男爵であるデリー家の5男。
女騎士はサンリツの従兄妹で、男爵家の4女。
顛末はこうだ。
本家である子爵家の方に、急遽縁談話が入る。
それはこの町の領主たる侯爵の五女を、子爵家の嫡男である先に押し付けを働いた、あのクズ野郎が娶る話だ。
その縁談に巻き込まれたという。
彼の話によれば、パーティーの副長はかつて子爵家お抱え冒険者として活躍後、今は剣術の指南をしていた。
老骨に鞭打ち、この縁談を成功させるために再び戦いの場に立たされたとのことだった。
サンリツ自身は、本来は領地内の小さな町の神殿で司祭を務めていたが、回復役が不在という理由で男爵家から選ばれ、反対することができず、ダンジョンで力尽き、今ここにいると語った。
顛末を聞いていると、サキとエリスの支えを受けながら、傷は癒えたものの右足と左腕、右目を失った女騎士が現れた。
女騎士は自己紹介をし、命を救ってくれたことに深く感謝の意を表した。しかし彼女の名は、既にギルドのライブラリーカードに登録され、死亡したと記録されていた。ギルドマスターがその事実を困った様子で告げると、女騎士は悲観した。
「こんな体では生きられない」
そのように懇願し、自身を殺してほしいと頼んできた。
ギルドの規約では、魔物を他者に押し付けることは重大な違反であるが、証拠がないために手が出せない状況だった。
子爵家の子息に関するクレームは山のように存在するが、明確な不正や犯罪の証拠がない。また、中級貴族に対しては、ギルドも慎重な対応を求められる立場にあった。
それと奴を連れて立ち去った二人の女性は、幼馴染みであり妾と、メイドだという。彼女たちもまたこの一連の出来事に巻き込まれ、様々な思いを抱えていることだろう。
ギルドマスターは深く息を吐き、重たい沈黙を破った。
「君の命は、君自身が最も大切にすべきものだ。ギルドとしては、登録上の死を生きるための新しい道を模索することを支援する。しかし、それを望まず終わりを選ぶのもまた君の自由だ。ただし、我々はその手を汚すことはできない」
女騎士はその言葉を聞き、複雑な表情を浮かべた。サキとエリスは彼女の肩を優しく抱き、何も言わずにその場に留まった。ギルドの中には、悲しみを共有し、支え合う仲間の絆がある。そして、このギルドが彼女に新たな希望を見出す場所となることを、俺は信じている。
ギルドマスターの執務室には緊張が流れていた。だが、それも束の間、サンリツと女騎士ラナは、ギルドマスターから渡されたライブラリーカードを手に取り、自らの運命を静かに受け入れた。
ギルドマスターは過去の例を引き合いに出し、死者蘇生が行われた場合—世界樹の葉のような稀有な手段を用いた際には、—一度死んだ者のライブラリーカードは体に戻るまで時間がかかり、その後名前を新たに刻むことができるのだと説明した。
俺が二人を生き返らせた手段も、この稀例に当たるものだった。
ギルドマスターはラナにもしエリクサーを与えられたらどうするか!?も尋ねた。
ラナは重い言葉を口にした。
「一生お仕えします」
サンリツもまた、タケルが持つエリクサーの存在に気が付き、死んだ身である今、ラナを治してくれるなら名前を変えてタケルに仕えることを申し出た。
ギルドマスターは二人の決意を受け止め、これからの出来事について秘密を守る契約を、魔道具を使って行わせた。
ギルドには規約があるが、彼らの状況は特殊であり、規約を曲げるに足る十分な理由があった。そして、俺はラナの欠損を治すためにエリクサーを取り出し、彼女に飲ませることにした。
エリクサーの液体がラナの体内に流れ込むと、その効果は即座に現れ始めた。
失われた右足と左腕、そして右目がまるで時間を巻き戻すかのように、再び彼女の体に現れた。
肌は生命力に満ち、失われていた部分は完璧に再生されていく。
むしり取られた金髪も再生される。
それは魔法のような光景であり、執務室にいた者たちはその奇跡に言葉を失った。
ラナは新たな体を得て、立ち上がると深く一礼をし宣言を始めた。
「新たな名を頂戴しました。この命はタケル様に捧げるでござる」
剣があれば捧げてきただろう。
サンリツも同じく立ち上がり、彼女に続いた。
「私もまた、新たな名でタケル様に仕えさせていただきます」
ギルドマスターは微笑み、二人の前で頷いた。
「では、二人とも、新たな名でギルドに再登録することにしよう。これからはタケルの元で、新しい人生を歩み始めるのだからな」
そうして、二人は俺の元で新たな冒険への一歩を踏み出すこととなった。ギルドの執務室で交わされた契約は、新しい希望の始まりを告げるものであり、彼らの未来には無限の可能性が広がっていた。
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