第48話 スキルの配分
【サキ視点】
昨夜のことがフラッシュバックする。酔った勢いでタケルを誘惑しようとした自分。そうそう、呼び名は昨夜タケル、サキとお互い呼び捨てにすることにしたの。エリスは私をサキさんとしか呼ばず、タケル様と呼ぶのが精一杯だったわ。
私はギルドマスターの期待に応えるため、そして、彼に恩返しをするための計画を実行したわ。
ギルドマスターの話から、人外の強さを持つタケル。彼との子ならきっとギルドにも恩返しができる。そう信じて、あの手この手でタケルを籠絡しようとしたの。ギルドマスターからタケルを籠絡し、その子を産めと言われたのよ。
タケルは目が覚めた時に下着のみになった私の胸を抱きながら寝ていたはずなのに、なんと私に服を着せてくれていた。
そして、タケルはソファーで寝ている。女としてのプライドは傷つくけれど、タケルの紳士的な対応に、不覚にも私の心はキュンとしてしまう。
ベッドを見つめながら自分の計画がどれほど愚かだったか反省する。
彼が手を出さなかったのはただの不運か、もしくは彼の優しさ?そんな彼に、本気で心を奪われてしまった自分がいる。
エリスもまた私が下着姿にし、タケルの手を胸に置いて、その状態で眠っていたはず。これも全部、私の計画の一環だった。だけど、タケルは彼女にも同じように紳士的に対応していたの。
エリスがゆっくりと目を覚ますと、私は彼女に向かって小さく笑いながら、「おバカさん」と二人してタケルの頭を撫でたわ。
「タケル様って私たちに手を出さなかったですね。折角サキさんが手を出しやすいようにしたのに」
私たちは静かにタケルが目覚めるのを待ったにも関わらず、エリスは私がしたことを覚えていたが、責めなかった。彼女は身も心も捧げていると言っていたけど、どうも本当にそう想っているようね。確かに生き返らせてもらった上に、どうやらタケルは国宝級と言われる、あのエリクサーを使ったようですもの。
私も同じことをされたらエリスと同じ行動を取るかな。
今日の話し合いで彼がどんな選択をするのか、それが私たちの未来にどう影響するのか、それを知りたかった。
ギルドマスターの言葉を胸に抱えつつ、私はタケルの決断を待ち望む。女は強い男の妻になり、子を産めば幸せになる!というギルドマスターの信念。でも今はそんな古い価値観よりも、タケルへのこの新しい感情が私を動かしている。
ギルドマスターにはある意味感謝を。彼はギルドマスターとして私を使い、タケルをギルド側に引き込もうとしているけど、そんなの関係ない。
私が好きになったの。でもね、私にもプライドがあるの。
タケルから好きだと、妻になってくれと言わせてやる!
タケルが目覚めたとき、私たちは昨日の鑑定結果を基に、今後のスキルや魔法の取得について話し合う予定だったわ。食事の時相談したいと言っていたけど、かなり価値のあるものを複数持っているようね。
もう何を聞いても驚かないわ。だってタケルだもん。
でもその前に、私は彼に向かって真摯に話さなければならない。昨夜のこと、そして私の本当の気持ちについて。
ダメダメ。昨日のことはなかったことにしなきゃ。私の黒歴史・・・
【タケル視点に戻る】
朝の光が宿の窓から差し込む中、俺はソファーの端に腰掛け、サキとエリスを前にして昨日の鑑定結果を振り返っていた。
サキのジト目。価値が・・・とつぶやいてはいたが、俺が記憶にある最初のイベントして得たアイテムの鑑定結果を伝えたところだ。
「おはよう、サキ、エリス。昨日は色々と分かったよ。まずはきのうダンジョンで得た【火炎強化】。これは火属性の攻撃力を上げる魔法で、武器や防具にも使えるってわけだ。俺の場合、自らの矢に施すことができるから相性は良いと思うんだよな」
サキがジト目で俺を見つめながら、質問を投げてくる。
「ふーん、それで? タケルはどれを使うの?」
と尋ねてきた。
「俺は・・・」
俺は言葉を切り、手元にある金のスキルオーブを指差した。
「この【魔法創造】を使うことにするよ。膨大な魔力を要するけど、新しい魔法を創り出せるなんて、まさに俺のためにあるスキルだろ?それと今言った火炎強化な」
エリスがにっこり微笑んだ。
「それじゃあ、私はきのうタケル様がおっしゃったように、これらの水魔法関連の魔導書を使わせてもらいますね。初級から特級まで揃っているなんて素晴らしいです。水属性で色々試してみたいわ」
俺には読めないし、折角エリスの得意属性である水一式があるんだから、エリスが覚えない手はないと、火炎強化を俺が使う代わりにエリスに使ってもらうことにしたんだ。
サキが価値が釣り合わないと言っていたが、金に変えるつもりはないし、読めない俺が死蔵しても価値がないからと、エリスに使ってもらうと改めて言った。
「いいね、エリス。魔法は攻撃以外にも色々と使い道があるからな」
サキがふん、と鼻を鳴らす。
「じゃあ、残ったスキルオーブはどうするの?」
俺は考え込むふりをして、鑑定士が言っていたスキルを思い出した。
「白のオーブからは【剣術】、【盾術】、【回避】、【魔力感知】だな。青のオーブからは【魔法陣展開】、【魔法連】、【魔法増幅】が出た。どれも魔法使向けのスキルだけどね」
サキが「うん」と唸る。
「【剣術】と【盾術】は戦闘で直接役に立つけど、【魔力感知】は索敵に有効ね。難しい選択だわ。」
「そうだな。でも、各々が自分に合ったスキルを選ぶのが一番だろう。サキはどれがいい?」
サキは小く笑った。
「【回避】かしら。私は素早さ自信があるものって私ももらってよいのかしら?タケルはこれらの価値を分かっていないでしょ?」
「売ればかなりの価値になるし、どれも数年遊んで暮らせる額だろ。鑑定士から聞いたよ。それじゃあ意味がないんだよな。ギルド職員がダンジョンに入るのはありなんだろ?」
「ええ。これでも私は最初冒険者をしていたのよ。ギルドマスターが、ダンジョンに入ったことがない者が冒険者の気持ちなんか分かるもんかと、同期の子達と半年ほど入っていたのよ」
「それじゃあ、決まりだな。」
俺は言い、三人で朝の作戦会議を締めくくった。
「今日はこれらのスキルを使って、もっと強くなるぞ。魔力感知は俺が使い、魔法系はエリス、近接系はサキでどうだ?それと魔法創造は寝る前に使ってみるか!」
俺は力強く宣言した。
エリスもサキも、その言葉に心を躍らせていた。
それとなし崩し的にサキもダンジョンに入ることになったが、良いんだよな?
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