第37話 ノビリス商会その3
「タケルさん、あなたは信じられないほどのお人好しな方なのですね。あなたはあの荷物を届けてくれただけでなく、それを返してくれると言うのですか?弟がどうなったかを教えて頂いただけではなく、埋葬までしていただなんて僥倖という他ないのですよ。あなたは本当に正義感が強くて思慮深い方なのですね。私はその率直さと優しさに感銘を受けました」
ノビリスさんは感動しているのか?目には涙が浮かんでいる。
俺に感謝しているのだろうか?それとも俺を利用しようとして演技をしているのだろうか?俺には彼の本心が読めなかった。だが直感は善良な人だと告げている。
「ノビリスさん、ありがとうございます。でも本当に大丈夫です。俺はそれを必要としていません。流石に食糧や彼女が着る服は失敬しましたが。もし今着ている服が思い入れのある品とかでしたら別の服を着せますが、それよりも僕は彼女を自由にしたいのです。もしそれらを俺が売ったとしても彼女の奴隷解放には何ら寄与しないですから」
俺はエリスの手を握って言ったが、彼女は驚いたように目を見開いたが、すぐに嬉しそうに微笑んだ。
エリスは俺の気持ちを理解してくれたのだろうか?俺は彼女の笑顔に心が温まった。まあ火傷で表情が乏しいが、それでも微妙に変化は感じられるんだよね。
「彼女を自由にしたいというのはどういうことですか?」
ノビリスさんは興味深く尋ねたが、俺の話に驚いているのだろうか?それとも、俺の考えが理解できないのだろうか?そんなことが頭を過るが取り敢えず説明を始めた。
「エリスは弟さんの奴隷でしたが、弟さんの商隊を襲った盗賊に奴隷の所有権が移り、そいつを殺したおれに所有権が移りました。彼女は俺にとって奴隷ではありません。彼女は赤い血が流れる心ある人間で自由に生きる権利があります。だから彼女の首輪を外し、解放したいのです」
俺はエリスの手を握りながら言った。俺はノビリスさんに自分の気持ちを伝えたかっただけだが、彼女の目に涙が浮かんでいるのを見た。
「そうですか。それは素晴らしいことですね。エリスさんは幸せですね」
ノビリスさんは微笑んで言った。
「ありがとうございます。でも、それが中々できなくて困っています。ギルドで聞いたエリスの解放条件は、エリスが自力で稼いだ金貨2000枚で所有権を買い戻すか、彼女が50歳になるまで待つしかないと言われました。首輪を無理に外そうとすれば激痛が走って死ぬかもしれないと知らされました。その危険性を理解した俺たちは一度は断念せざるを得ませでした。俺が彼女にお金を与えてもダメだそうですね」
俺は困った様子で言った。俺は彼女を自由にする方法がないのかと絶望し、ずっと首輪を外すことができないのかと悔やんだが、ダンジョンに連れていき、その稼ぎを人数割りする約束にすれば解決するかもだ。しかし、今のままだとすぐに死ぬだろう。もちろん守るつもりだが、サキの話しだとそれだけだとお金を与えたのと同じだ。冒険者パーティーの一員として戦闘に参加しないと、魂が施しを受けたと感じてしまう。それにより女性に戦闘を強要することになるのだが、俺は葛藤した。
「なるほど。それはそうですね。奴隷商は法律に基づいて奴隷を扱っているので、彼らには逆らえません。あなたが彼女の所有権を持っていても彼女の首輪は奴隷商の管理下にあります。彼らは首輪を外すことができる唯一の人たちですから」
ノビリスさんは俺たちの状況を理解してくれたようで説明してくれた。
「そうですか。じゃあ、どうすればいいんですか?」
俺は落胆した。
「あなたには三つの選択肢があります。一つはエリスさんが自力で2000枚の金貨2を稼ぐことです。もう一つは、エリスさんが50歳になるのを待つことです。それと死ぬと首輪が外れますが、それでは意味がないですから、実際は2つですね」
「でもそれは無理です。エリスはまだ15歳です。もうすぐ16歳ですが、彼女が50歳になるまで、あと34年もかかります。それまでに僕たちは老いてしまいます。それにエリスが自力で金貨を2000枚稼ぐのも難しいです。彼女は冒険者として登録できず、俺と同行しての探索だけです。基本的に彼女は一人でダンジョンに入ることができません。それに彼女は戦闘訓練をしていないのです」
「タケルさん、あなたは彼女をとても大切に思っているのですね。私はあなたの気持ちを尊敬します。しかし、残念ながら私にはあなたの問題を解決する力はありません。私はただの商人ですし、奴隷商とは関係がありません。それに彼らに口を出すことができません」
ノビリスは申し訳なさそうに言った。
「そうですか。それは残念ですがそうですよね」
「でも、私にはあなたにできることがあります。私はあなたに感謝の気持ちを表したいのです。あなたは私の弟の仇を討ってくれたのもあり、恩を返したいのです。最も返しきれない恩ですが、せめて我が商会で販売している品物の中から好きな物を選んでください。私はそれをあなたにプレゼントします」
「ノビリスさん、俺は別に見返りを求めてやったことではないんです。困っているだろうと俺が自己満足のためにやったことです」
「いいえ、タケルさん。あなたは私にとって大切な人です。そんな方に何もしないのは恥知らずなのです。どうか気持ちを受け取ってください。私はあなたに何かをしたいのです。どうか、私の気持ちを受け取ってください」
ノビリスさんはこれまでにないほど強く言い、その言葉に迷った。
確かに俺はノビリスさんの気持ちを無下にするのは悪いと思ったが、謝礼が欲しかった訳ではない。それは俺の矜持に反するからだ。
「タケル様、どうぞノビリス様のお言葉を受けてください。ノビリス様は感謝しているのです。ですから遠慮なさらずノビリス様からの贈り物を受け取ってください。そうしないと商会主として恥をかいてしまいます」
エリスが助け船を出してくれた。
「エリス、でも、俺はそれを必要としていないんだ。困ったな・・・」
俺はエリスに言った。
「タケル様、どうでしょう。これから彼女は奴隷解放の為にダンジョンでお金を稼ぐのでしょう?でしたら最初の装備品を、彼女の旅達に贈らせてください」
結局俺はエリスとノビリスさんの言葉に押されて、申し出を受けることにし、エリスの装備を見繕ってもらうことにした。
「分かりました。お気持ちありがたく受け取らせて頂きます。俺で良かったらこの先困ったことがあったら駆けつけますので言って下さい」
「こちらこそ今後我が商会で買い物をされる場合、便宜を図らせて頂ければと思います。宜しくお願いします」
握手を交わしてから商会のスタッとともに直ぐ近くの武器屋に赴いた。そしてエリスに胸当てと丈夫なローブ、冒険者向けの革服など動きやすい物を選んでもらった。
また、装備は盾とコンバットナイフのような大きさのナイフを選ぶ。エリスは魔力はあるが、今は魔法を使えない。それはあくまで習っていないからだ。
魔法の素質はあるようだと感じたので、まず防御力を固め、武器でとどめをさす方針にした。
メイスを考えたが、彼女の膂力では振り回すのが厳しそうだから、小振りな刃物にした。
また、ダンジョンで得た物は相当の額を人数割にするとした。もちろんエリスの反対があったが、俺は頑として譲らなかった。俺はエリスを自分と同じ一人の冒険者としてカウントする。ギルドでは基本的に冒険者パーティーはトラブルを避けるのに、得た物は人数割りを基して推奨していると言われたからだ。
商会に戻るとエリスの装備を見てノビリスさんは満足そうに笑い、俺たちはノビリスに感謝の言葉を述べた。
「タケルさん、これからもよろしくお願いします。私はあなたのことを友人だと思っています。それに良いお得意様になっていただけるとも思っております」
「ノビリスさん、こちらこそよろしくお願いします。私もあなたのことを友人だと思っています」
俺たちは笑顔で別れを告げ、ノビリス商会を後にした。
俺たちは明日からダンジョンに入ることに決め、エリスを自由にするために、彼女の稼ぎとして金貨2000枚を手に入れることを目指す!
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