第36話 ノビリス商会その2

 その人、多分商会主は俺達の顔を見て立ち上がると挨拶を始めた。


「ようこそ、ノビリス商会へ。私はこの商会の主、ノビリスと申します。あなたが盗賊を討伐した冒険者、タケル様ですね」


 商会主は笑顔で言った。


「こちらは私のパートナーのエリスです。彼女は商隊の奴隷だったんだが、俺が助け出したんだ。彼女は記憶をなくした俺を支えてくれる大事な女性だ」


 俺はエリスを紹介した。彼女は火傷で顔を隠していたが、俺は彼女の美しさを知っていた。彼女は金色の髪と青色の瞳を持つ。白いワンピースにローブを羽織っている。首には銀色の首輪がある。奴隷の証だが、俺は彼女を解放したいと思っている。


「エリスさん、こんにちは。あなたには見覚えがあります。弟のサポートをしていた奴隷と聞いております」


 ノビリスはエリスに親切に言うと着座を促してきたので俺たちはソファーに腰掛けた。

 もちろんエリスは俺のサポート名目で隣に座らせる。


 エリスはノビリスさんが自分の事を覚えていたことに驚いていた。

 エリスも王都支部に商会主が来た時に見たことがある程度だようだ。

 しかし火傷で傷ついた顔を隠そうとしたが、俺は手を握って止めた。


「エリスは記憶をなくした俺を支えてくれる大事な女性だ。なるべく早く奴隷から解放したい」 


 エリスはタケルの言葉に感動して、感謝の目を送った。


「タケルさん、あなたは本当に素晴らしい人ですね。エリスさんは幸せですね」


 ノビリスさんは感心した感じだ。


「ありがとうございます」


「いえいえ、こちらこそ感謝しなければなりません。あなた方が商隊の荷物を届けてくれたことは私にとって大きな事なのです。その中には王都からの重要な品物がありました。それらは私の商売の命運を左右するものでした。それに弟の遺品もあるでしょう」


 ノビリスさんは真剣に言った。


「そうですか。それは良かったですね」


「ええ。本当に助かります。あなたがそれらを届けてくれなければ、私は大きな損失を被っていたでしょう。それに、あなたが盗賊を討伐したことも、私にとっては大きな意味があります。あの盗賊団はこの町の近くで暗躍していて、多くの商人や旅人を襲っていました。私の弟もあの盗賊団に襲われて命を落としたのですね」


 ノビリスさんは悲しげに言った。


「えっ!?ノビリスさんの弟さんがあの商隊を率いていたのですか?」


「はい、そうです。彼は私の一番下の弟でした。王都で仕入れた品物を運んできてくれるはずでしたが、残念ながら途中で盗賊に襲われてしまったようですね。弟の遺体はどうなりましたか?」


 ノビリスさんは涙をこらえていたので、大切な家族だったのだと理解した。


「ノビリスさん、本当に申し訳ありません。あの時もっと早く駆け付けられたら、彼らを助けられたかもしれません。私が駆け付けた時にはエリスしか生き残っていませんでした。その、盗賊を除く死体は1ヶ所に集めて埋葬しました」


「いいえ、タケルさん。あなたは何も悪くありません。むしろあなたは私の弟の仇を討ってくれたのです。それに、遺体を埋葬し、更に荷物を届けてくれたのですから、あなたは私にとって救世主とまでは言いませんが、恩人です。本当に荷物を頂いても宜しいのですか?」


 ノビリスは俺に向かい深々と頭を下げ、感謝の言葉を述べた。


「ノビリスさん、そんなことはありません。俺はただ正しいことをしただけです。それにあの荷物は俺の物ではありません。俺はただそれをあるべきところに届けただけです。少なくとも回収できた物は差し上げます。しかし、馬車が壊され、馬も逃げ去っており徒歩ではこれが限界でした」


 俺は背嚢の方を見ながら言うと、襲われた商隊の荷物の中から回収できた物をノビリスさんに渡した。ノビリスさんはそれを受け取り、感謝の言葉を繰り返した。


「タケルさん、それはどういう意味ですか?あなたはあの荷物を届けてくれたと言いますが、それは盗賊を討伐したあなたのものです。あなたはそれを自由に売ったり使ったりできます。私が優先して買い戻しをさせていただければ幸いだと思い、これから金額の交渉をしようと思っていたのです」


 ノビリスさんは不思議そうに言ったが、俺は驚いた。あの荷物は彼のものだと思っていたのに、なぜ俺にくれるのだろうか?俺は彼に感謝するべきなのか、それとも疑うべきなのか・・・分からなかった。

 精々気持ばかりの謝礼を受け取り、エリスを大手を振って俺のモノと認めさせ、早々に奴隷から開放するようにするのが目的だったが、話が良い意味で噛み合わない。


「いえ、それは違います。あの荷物は本来はノビリスさんのものです。俺はそれを盗んだわけではありません。盗賊が盗んだものを僕は取り戻しただけです。ですからそれを俺が持っているのはおかしいです。それに俺自身、お金に困っていません。盗賊討伐から得る賞金により、十分に暮らせます。それに、殺された方々から回収した物を使ったり、それを売ったお金で良い暮らしをする気にはなれません」


 俺は本心を言ったが、正直なところあの荷物に興味がなかった。俺が欲しかったのは、エリスの笑顔だった。彼女は俺が救った奴隷だが、俺は彼女を奴隷として俺のモノにしたくなかった。彼女を自由にしたいが、すぐには叶わないのが悩みだった。


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