第35話 ノビリス商会その1

 俺は壊滅した商隊から回収した物品を渡すため、サキに教えられたノビリス商会へと向かっていた。

 エリスの手を引いて町の中を進んでいたが、幸いな事に絡まれたり迷うこともなくすんなり商会に辿り着くことが出来た。


「じゃあ中に入ろうか。いいね?」


 俺はエリスに聞いたが、彼女の心の準備も整ったようで頷いたので扉を開けて中に入った。

 商隊の物はエリスが着ている服以外の全てを渡すつもりで、荷物が入った背嚢を二つ持ってきたが、これが限界だった。

 馬車も馬もなくなってしまったからな。見過ごした荷物の中に高価な物が混ざっていたらすまないと思った。


 エリスは商隊の奴隷だったが、俺が盗賊を討伐する際に助け出した。彼女の所有権を持った盗賊団の首領を殺したことにより、俺に所有権が移ったんだ。

 この世界の奴隷は主人が死んだ後最初に触れた者に所有権が移るシステムだ。

 商隊や商会と面識はないが、商隊の荷物を届けることにしたのは対価は求めず荷物を遺族に渡すのが正しいと思ったからだ。

 また、エリスの所有権で揉めたくないので説明をする為でもある。


 入り口の近くにカウンターがあり、そこにいた受付の女性に声をかけた。


「こんにちわ。先日商会の荷物を運んでいた商隊が盗賊に襲撃された。その盗賊を討伐した者だが、回収した荷物を届けに来た。俺はFランクの冒険者だ」




 女性は俺の顔を見て驚いていた。俺は典型的な日本人だが、この世界では珍しい黒目黒髪と言われており、やはりこの町で黒髪黒目を見なかったから目立つはずだ。

 背中には弓と槍を背負っているが、この槍は魔石を吸わせると強度と威力が上がる魔法の武器で、光っているのが分かるだろう。


 俺の隣にはエリスがいた。

 彼女は金色の髪と青色の瞳を持つ美少女のはずだが、火傷でひどく傷ついていた。白いワンピースにローブを羽織っていて顔はフードで隠している。そして首には奴隷の証である銀色の首輪が装着されている。


「あ、あの、本当ですか?あなたが盗賊を討伐したのですか?」


 女性は疑わしげに尋ねた。


「ああ本当だ。これを見てくれ」


 俺はそう言ってサキから渡された盗賊の討伐証明を見せた。これと引き換えにお金を貰うが、盗賊団の首領を含む20人以上の盗賊を倒したことが記録されている。


 女性は証明書を受け取って目を見張った。討伐者として俺の名前が記録されているからかな?


「す、すごいですね。荷物はどこにあるのですか?」


「徒歩なのでそこに置いた二つの背嚢に入っている分しかない」


 俺は指を指して答えた。


 女性は背嚢の中を覗き込んだ。商隊の馬車にあった荷物は王都からこの町に輸送していた物で、中には高価な魔道具もあったから、商会主はこれらを見たら驚くだろう。


「あ、ありがとうございます。すぐに商会主に知らせて参りますので、少々お待ちください」


 女性は俺に頭を下げて奥に走っていったが、その様子を見ながらエリスに微笑み、そっと頭を撫でた。


「大丈夫、すぐに終わるよ」


「ありがとうございます。タケル様はお優しいのですね」


 エリスは俺の言葉に安心したようで、小さな声で感謝の気持ちを伝えてきた。


「いいや。俺はただ正しいことをしただけだ」


 俺はつい本心を言ってしまった。


「タケル様、私もタケル様と一緒にいたいです。『私はタケル様のものです』」


 エリスは最後は俺に聞こえないように小さな声で恥ずかしそうに言った。


 俺はエリスの言葉に嬉しくなり彼女を抱きしめたかったが、ここが商会の中だと思い出し、肩を掴んでエリスに囁いた。


「ありがとう、エリス。俺はエリスのことを大切にするよ。これからもずっと一緒にいよう」


 エリスは俺の腕にしがみついたが、受付の女性が戻ってきた。


「すみません、お待たせしました。宜しければ商会主が今すぐお会いになりたいとおっしゃっています。どうぞ、こちらへおいでください」


 女性は丁寧に言い、俺とエリスは受付の女性に案内され応接室へと向かった。俺たちはまだ知らなかったが、これから運命というか、今後何かと関わる出会いがあるとは。


 俺とエリスは女性に案内されて商談用の応接室へと入った。そこには豪華ではないが、職人が立派な仕事をした家具や絵画が飾られており、商会の富と権力を感じた。だが、成金趣味でゴテゴテではなく、上品にまとめられていた。


 部屋の奥には大きな机があり、そこには俺の親と言っても良いような年齢の男性が座っていた。

 彼は金髪と青い瞳を持つ。白いシャツと黒いベストを着ていた。彼の顔は穏やかで威厳があった。彼が商会主であることは一目で分わかった。

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