第34話 魔石の説明


 ・・・ギルドでは冒険者のみが魔石買取所で魔石を換金

 できます。冒険者でない者が魔石を現金化しようと試みる場合、通常は市場にある中小の商店を通じて行われるのですが、ギルドよりかなり低く買い叩かれたり、粗悪品を高値で売るところが多かったりと色々な方が不利益を被るなどトラブルのもとですので、お勧め出来ません」


 サキの説明を聞きながら、俺は考え込んだ。盗賊から奪った金はあまり使いたくない。じゃあ、これからの生活費はどうするんだ?魔石を換金すればいいのか?でも、魔石ってそんなに高いのか?


 先程やっと冒険者登録を終えた俺は、持っていた魔石を換金しようと思った。サキに案内されギルドの魔石買取所に行きカバンから魔石を出して受付に差し出したら、職員の顔が一変した。


「これは・・・サイクロプスの魔石ですか?」


「え?サイクロプス?」


「はい、Aランクの魔物です。あなたはどうやってこれを手に入れたんですか?」


「えっと・・・」


 俺は慌てた。サイクロプスってそんなにすごいのか?山の中で拾った魔石の中で比較的多かった大きさなんだけどな。俺は魔石の価値なんて知らなかったから、特に大きな2つ以外なら問題ないと思ったんだが、反応からやらかしたっぽい。この大きさの魔石を持ってきたら怪しまれるのか?うそーん!


 サイクロプスを倒せるのは高ランクの冒険者だけだという。俺は新人の冒険者だ。どうやってこれを手に入れたのか、職員に説明できるはずがない。


 そんなとき、サキが助けてくれた。


「マーザイさん、彼は今日登録したばかりですが、例外なんです。ギルドマスターが私を彼の専属にすると決めたほどで、一人でサイクロプスを倒せる位に強いんです。でも、サイクロプスの魔石を持ってきたので、ギルドマスターに報告しないといけません。並行して買い取りの手続きをお願いします。あと、内緒にしてくださいね」


 サキは俺にウインクしながら、嘘をついた。俺はサイクロプスなんて倒せない。でも、サキは俺をかばってくれた。なぜだろう?(実際はそんなことはない。余裕でいけます)


 魔石の出所を明かすのは、ギルドのルールだという。Bランク以上の魔石は、ダンジョンや討伐依頼以外で持ってきたら調査されるという。

 フィールドで発生したら他にいないか調査するためだそうだ。


「タケル様、あなたが持っていたサイクロプスの魔石は、普通の新人冒険者には手に入らないものです。でも、あなたは冒険者になったので、ギルドで買い取ってもらえます。ただ、どうやって手に入れたか、詳しく聞かれるかもしれません。とりあえずギルドマスターに報告して、指示をもらいましょう」


 サキは俺を助けてくれたけど、俺に対する興味は隠さなかった。俺はサキの言葉に安心しつつ、これからどうなるのか考える。俺たちはサキと一緒に、事態を収めるために協力することにした。

 そして、今回のことで、冒険の世界の厳しさを知った。本当の冒険者になるのは簡単じゃない。それを俺は改めて感じた。


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 目の前に鎮座したサイクロプスの魔石に、ギルドマスターはむすっとした顔でため息をついた。


「お前さんが強いのは俺は分かるが、新人がいきなりこれを魔石買い取り場に出したらどうなるか少しは考えてくれ」


「ははは。沢山落ちていたので」と俺は笑って答えた。本当は謎の魔方陣によって死んだサイクロプスの魔石を拾っただけだが、それは言えない。


「あのなぁ、ここにいる者以外に口外しない方が良いぞ。因みにお前さんはどこからどうやってこの町に来たのだ?異世界召喚をやりそうなのはここバリモーンの町とナルクの森越しに国境を接するハナヤタ国だぞ」


 ギルドマスターは俺に詰め寄ってきた。俺は再び面談に呼ばれたときに、来た方向を話したのだ。それで彼は俺が隣国との緩衝地にあるナルクの森から来たと判断したらしい。しかもその最奥から生きて帰ってと。


 ナルクの森はこの国、シュルツハルト国と俺が召喚されたハナヤタ国の間にある危険な森だ。森との境には川があり、橋で繋がっている。森の入り口は薬草の採取ポイントや木材の伐採場になっているが、奥に行けば行くほど魔物が強くなる。それ故、橋には騎士団が常駐し、魔物が街道に来ないようにしている。


 俺はバリケードを越えて街道に出たとき、商隊が襲われている音を聞いた。そこで俺は助けに入ったのだ。ギルドマスターはその話を聞いて、俺の伝えたバリケードの特徴が一致したので嘘をついているとは思わなかったようだが、本当のことは言えなかった。

 話しても信じないだろうから・・・

 死地のダンジョンから涌き出た魔物で町は壊滅しかけたが、謎の魔方陣からの攻撃でスタンピードの魔物は死に絶えた。サイクロプス等の巨躯が数体いたが、大抵はオークやゴブリン、ファングウルフ等の弱~中程度の強さが中心だった。そのドロップは回収しつくされたはずだが、俺はサイクロプスの魔石を複数持っていた。それは偶々道すがら拾ったということにした。


 確かにそうやって棚ぼたで持ち込まれる魔石はゼロではないが、買い取りの人にその旨を話したら、ラッキーだったなと言われ、俺は苦笑いしながら頷いた。


 また、高ランクの魔物が地上にいた場合、周辺の調査が必要だが、ナルクの森で拾ったのは問題なかった。本来サイクロプスがいるのはダンジョンの最奥付近と、ナルクの森の中心部なので近付く者はまずいない。隣国へはナルクの森を大きく迂回するのが当たり前なのだ。俺はそんな森を突っ切ってきたのだが、表立って言えないことだった。


「ふむ、なるほど。お前さんはなかなかの冒険家だな。異世界から来たというのは本来称号を見なければ信じがたいが、カマをかけたら異世界人と認め持っている魔石や装備からもお前さんの力は本物だと分かるぞ。だが、これからは気を付けるようにな。お前さんのような者は珍しいから目を付けられる可能性が高いぞ。特にハナヤタ国はお前さんを探しているかもしれない。お前さんはこの町にしばらく滞在するつもりか?」


「そうだな。俺はこの世界についてもっと知りたいし、冒険もしたい。この町は俺にとって最初の友好的な場所だから、ここを拠点にしてみたいと思う。まあ、旅に出たりもするが、帰る先にしてみようかな」


「ならば、この町のダンジョンを制覇してみたらどうだ?お前さんならやれるかもな。それにお前さんのような者はギルドにとっても貴重だ。ギルドには様々な依頼があるし、仲間もできるだろう。この町はお前さんのような者が力を活かせる良い場所だぞ」


 ギルドマスターは俺にダンジョン攻略を勧めたが、少し考えた後、笑って言った。


「いいね。それならやってみるよ。ダンジョンか。あのダンジョンのこともあるから、興味はあるんだよ」


 そうして面談は終わり、この後はサキから色々説明を受け、その後商隊の遺品を届けに、商会に行くことにしたのだった。




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