第38話 いざダンジョンへ
その日の午後、ギルドの訓練場は熱気に包まれていた。俺はエリスと一緒に盾の使い方を練習していた。エリスはこの世界に来てから出会った少女で、奴隷だった彼女を自由にするためにダンジョン探索を始めた仲間だ。彼女は盾を持っているのに、守り方が全く分からないと言っていたから、俺は棒切れを使って教えてやっている。
なぜ棒切れかというと、先日エリスのステータスを見たら、俺とは比べ物にならないほど低かったからだ。俺はこの世界に来たときから、なぜか異常に高い数値を持っていた。それを知らずに盗賊と戦ったら、一撃で頭を吹き飛ばしてしまった。
俺の力加減が分からないから、木剣では危ないと思って、折れやすい棒切れを使っているのだ。それでも最初の一撃でエリスの盾を叩いた棒が砕けてしまった。
エリスは驚いて尻餅をついたが、幸い怪我はなかったようだ。それからは盾を叩いても棒切れが折れないよう、気を付けている。
エリスは奴隷だが、俺は彼女を自由にすると約束した。だが、それには彼女自身の稼ぎから買い戻し金を捻出する必要がある。だから彼女は俺のパートナーとしてダンジョンに挑むことになったのだ。
エリスは盾を手にし、不慣れながらも一生懸命に俺の攻撃を防いでいた。彼女は新しい装備に慣れようと努力していた。彼女は俺に感謝していたが、同時に俺に迷惑をかけたくなかった。俺に守られるだけではなく、俺の力になり必要とされたかったのだ。
そして一時間ほど経過した。
「はぁ、はぁ、はぁ……タケル様、ありがとうございます。私、少しは上達したのでしょうか?」
エリスは息を切らせ、汗を拭きながら俺に尋ねた。
「うん、だいぶ上達したと思うよ。俺自身弓使いで盾については見様見真似だから気を抜かないでね」
「はい、タケル様。私もがんばります」
「よし、今日の練習はここまでにしよう。明日はいよいよダンジョンに行くから早く休んだ方がいいな」
翌朝、俺たち二人は町を背にし、町から僅か10分ほどのところにあるダンジョンの入り口へと足を進めた
町自体はダンジョンを元に発展したが、魔物が外に涌き出ることが定期的にあるため、気持ちばかり離れたところに町ができた。ダンジョン入り口付近は冒険者たちの熱気で溢れていた。そこには露店を中心とし、小さいながらもちょっとした市場が広がっていた。
商人たちはダンジョンに挑む者たちへの食料や装備品を売りさばいており、串焼きなど、ある意味ファーストフードが軒を並べている。正確にはリヤカーなどの荷車のようにした移動店舗で、夜になると町に戻るのだ。
騎士団が主にダンジョンから魔物が出た時の対処と、入り口付近の冒険者通しのトラブルを諫める役を引き受けているが、露店は夕方になると撤収してしまう。
俺とエリスも必要なものを買い揃えた。回復ポーションと解毒ポーションだ。サキにダンジョンに入ると話したときにどこでポーションが買えるか聞いたら、町の中の店かダンジョン出張所のどちらでも買えると言われた。ならばと分かりやすいところにあるのもあり、ダンジョンに入る前に買うことにした。
ダンジョンの入り口は、荘厳なパルテノン神殿を彷彿させる建築で、その壮大さに俺は子どものように興奮を隠せなかった。俺はこの世界の建造物をまともに見ていなかった。町の様子は壁に囲まれた限られた空間を利用するため、三階建て、四階建てが通りに広がっていた。メインの通りはそうでもないが、一歩入ると迷宮のように入り込んでおり、目当ての店を探すのも地理不案内だと大変なのだ。
「パルテノン神殿かよ!って違うな。なんとか言う様式だったよな?」
エリスは俺のその様子を見て、ほっこりと微笑んだ。
「ふふふ。タケル様って子供みたいでかわいい」
「なんか言ったか?」
「いえ、活気溢れているなって見ていただけですよ」
「うん。さあ、そろそろ行こうか。エリス、準備はいいか?」
俺は心の準備ができたかな!?とエリスに声をかけた。
「はい、タケル様。私はいつでも行けます」
ダンジョンは入り口の周りの建物とは打って変わり、岩がごつごつした洞窟のような感じだった。不思議なことに、中はほんのり明るく、松明などは不要だった。仕組みは分からないが、ダンジョンはそういうところだと言われた。ただ、フィールドタイプの階層とかでは夜の階層や昼の階層、昼夜がある階層など様々で、初心者御用達の浅い階層は洞窟タイプだ。
ダンジョンに足を踏み入れると一分も経たないうちに俺たちの前にゴブリンが姿を現した。
だが、俺たちが気が付いたのとほぼ同時にこちらに気が付き、棍棒を構えながら走ってくるのが見えた。
ゴブリンは緑色をし痩せ細った見にくい小人だ。
精々10歳児位の身長だが、戦闘スキルを持たない一般人より強いから決して油断してはならない。
成りたてのルーキーだと二人一組でなんとか勝てる相手で、安定して一人で倒すことが出来ればルーキー卒業と言われているそうだ。
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