第11話 強敵との戦闘

 俺の背後からオークジェネラルが迫っていたが、突然腹から槍が生えた、いや刺さったことにより一瞬だが動きを止めた。シズクが投げた槍は、俺が死角になり見えなかった為、気が付いたら槍が刺さっており、混乱したといったところだろう。


 俺は涙を拭きながらシズクが作ってくれたこのチャンスを逃すまいと弓を引くと3本の矢を放った。頭、口、喉目掛けて放った3本の矢は、全て狙い通りに当たった。血を吹き出したオークジェネラルは、信じられないといった表情を浮かべ、喉を押さえながら倒れた。


 やった!やっと倒したぞ!俺は心の中で叫んだ。本来のオークジェネラルならば俺程度の矢の威力程度、簡単に剣で切り払えたと思うが、突如腹に刺さった槍に気を取られ、一瞬足が止まったせいで矢を避けられなかったのだと思う。

 

 オークジェネラルは倒れてから数秒の間、ドピュー、ドピューと血を吹き出していたが、血が出なくなると霧散し、魔石と俺が放った矢をその場に残した。


 シズクのおかげで楽に倒せたぜ!ありがとうなシズク!レベルアップしたし、どうやら刺さった矢も槍も進化したようだ。

 鑑定がないから正解にどうなったのかまでは分からないが、進化したことだけは分かる。


 槍は魔鋼鉄から魔銀に変わり(色から判断)、刃は鋭くなり、柄も長くなった。矢は純粋なカーボン製から魔鉄を含んだ複合素材に変わり、羽は各々紫色、赤、青白に輝き、先端は鋭角になった。どちらも魔力を帯びていて、触るとひんやりとした感触がした。


 すげぇ・・・シズクの槍がこんなに強くなるなんて・・・俺は感嘆の声を漏らした。シズクは本当に凄いやつだ。俺にこんなに素晴らしい武器をくれたんだ。感謝しなきゃならない。シズクに会えたら、必ずお礼を言わなきゃならないな!

 矢は多分何かの効果が付与されたと見た。


 ここからは俺一人で戦わなきゃならない。でも、俺は孤独に負けない。

 やってやろうじゃないか!あのクソビッチを土下座させ、足を舐めさせてやる!


 短い時間だが進化した槍について分かったことがある。それは砕いた魔石を吸収させると、一時的に強度や威力が上がる事だ。


 そこから一晩中戦い続けて俺の鞄は魔石でいっぱいになったが、不思議と邪魔にならない。

 レベルも30くらい上がったと思う。

 ステータスが上がったからなのだろうか?しかし検証する暇はない。


 だが、ふと魔物の気配が途切れたタイミングでちょっとだけ休憩ができた。水筒のお茶を飲み、最後のお菓子を口に放り込んだ。それとスマホを見たら日付が変わっていた。でも、それは日本の時間でのことだけどな。


 しかし休息はそこまでだった。まだ息が整わないうちにミノタウロスのような巨大な影が近づいてきたのが見えたからだ。


「っち!せめて後一分位くれよな。くそったれめ!」


 悪態をつきつつありったけの矢を打ち込んだが、怪物はほとんどダメージを受けなかった。


 手には斬馬刀みたいな大きな剣を持っていて、それを軽々と振り回すその膂力は脅威以外の何物でもない。

 そして俺が逃げられる場所はなかった。何せ一本道で、来た方からも魔物が押し寄せてくるのが分かる。

 得意ではないがもはや近接戦闘しかなかった。


「シズク、リナ、ごめん。だめかもしれない」


 俺は心の中で呟いたが、諦めた訳じゃない。死んだクラスメイトの分まで生きると決め、槍を手に取る。

 よく分らないながらも魔石を槍に吸わせ、強化すると槍は青白く鈍い光を帯び禍々しいオーラを発した。

 偶々槍で魔石を突いたら砕けてしまい、霧散すると槍が吸収したから、魔石を砕けば良いことだけは理解した。


 そうして俺は魔石を吸わせた槍を手元に置き、弓を構えて巨大な魔物目掛けて攻撃を開始した。


 俺の先制攻撃は、オークジェネラルとの戦いで進化した矢を放つことだった。右目を狙い赤い矢を放つと、衝撃と共にミノタウロスの目は吹き飛んだ。続けて左耳に青い矢を放った。矢が刺さった瞬間、耳は凍りつき、耳を押さえたのもありミノタウロスの動きが若干遅くなった。


 そして紫の矢を左胸に撃ち込むと、矢が肉に沈んだその周りがどす黒く変色した。見た感じからすると毒だろう。


 それによって俺とミノタウロスの戦力の差は縮んだが、それでもまだ圧倒的な差があった。

 例えるなら5歳児が15歳を相手にするのが、14歳に変わった程度の差だ。

 しかし、あっという間に距離を詰められ、俺は荷物と矢を脇に放り投げて槍を手に取った。

 接近戦になれば槍が俺の唯一の頼りだ。槍の青白い光が闘志を燃やす俺の心を映し出しているかのようで戦いは熾烈を極めた。


 片目を潰したことにより死角へ、死角へと移動しながら俺の槍はミノタウロスの肉を切り裂き、獣の咆哮が周囲に響き渡る。


 だが、ミノタウロスも容易には倒れず、死角からの攻撃に順応し、俺のいる場所を見えなくとも当たりを付け、その巨剣で俺を追い詰めた。一撃を食らえば確実に致命傷となる膂力だ。

 しかし、俺はすばしっこく避け続け、攻撃の機会を伺った。

 とはいえ完全には避けられず、何箇所も切り傷をもらい、俺の服は血まみれだ。

 ついに、俺の槍がミノタウロスの残った左目を捉えた時、怪物は一瞬の隙を露わにした。目を潰したと喜ぶのもつかの間、その時に振るっていた腕が運悪く俺の目をえぐり取ってしまう。

 この時はまだ、血が目に入ったことにより一時的に見えなくなったとしか思わなかった。


 しかし、俺は視界を失った隙を逃さず、全力で槍を胸に突き立てた。しかし、槍を突き立てた瞬間に振られた剣の一撃が俺の腕を吹き飛ばしたのだ。俺は片目を喪ったが、死角からの一撃に気が付かず、胸を貫くも左腕を喪ったのだ。


 巨体は一瞬ビクンとすると力を失い、その場に崩れ落ち、やがて霧散した。


 しかし、その代償は大きく、俺は片目と片腕を失った。戦闘が終わると息を切らしながら荷物を探り、回復ポーションを見つけた。ビンを握りしめ、その中身を一気に飲み干す。液体が体内に染みわたり、傷ついた肉体が少しずつ回復していくのを感じた。だが、そこにはもう回復ポーションは残っていない。これが最後の一本だったのだ。

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