第9話 決断

【シズク視点】

 立ち眩みがした?と思った次の瞬間、ふと気が付くとなんだか頭がふわふわしていて、ダンジョンの入り口が見えるわ。でもそれはおかしい。タケル君と私はもっと奥にいたはず。だって下っていたから入り口じゃなく奥に向かっていたわ。


 彼はどこに行っちゃったのだろう?無事かな?心配で心がざわざわして、胸が痛くなる。タケル君のことを好きになっちゃってたんだもん。彼と添い遂げたいなんて、一体どれだけ夢見てたんだろう。


 はっとして、自分が立っている場所を見渡すと、あれ?ここは入り口じゃなくダンジョンの奥よね。それにタケル君もまだ私の彼氏じゃない。うん。まだ・・・疲れて頭がぼーっとしてたみたい。召喚されたときの影響かな?ちょっと幻覚を見ちゃったのかも。


 首を振って頬をパチンと叩く。はっきりしろ私。そうしたら、タケル君がちゃんと隣にいてくれた。彼がなんだか心配そうに私を見ている。ああ、恥ずかしい!でも、なんとかごまかさなきゃ。


「ちょっと気が緩んだから気合いを入れたの」


 私は顔を真っ赤にしながらなんとか気合を入れ直したと誤魔化したわ。

 誤魔化せたわよね?


 ダンジョンは、またしても私たちに試練を提示している。岩がごつごつとした洞窟を進む中で、私はタケル君に縋るように手を握ったけど、彼はその手を優しく握り返してくれて、私たちは笑顔を交わす。タケル君はいつも私を励まして守ってくれる、最高のパートナーだもの。


 タケル君は体力回復ポーションを飲んで10分ほどで何とか動けるようになったみたい。少し前に私を庇って大怪我をしたのだけど、治療用のポーションで傷は癒えたけど、体力までは完全に戻らないようなの。そこでショッピングで探した結果、ようやく体力回復ポーションを見付けたの。

 ただね、どこにあったのかはタケル君には知られたくないの。

 だって精力剤なんですもん。キャッ!少なくともこれを買う時は、絶対にスマホを他の人に見られないようにしなきゃ!


 私を突き飛ばさなかったら、タケル君はあの攻撃を避けられたかもしれない。でも、タケル君には謝れないわ。彼はいつも私を最優先に考えてくれるから、私が謝ってもはぐらかされるの。私のことをどれだけ好きでいるのかは分からないけど、彼は謝罪ではなく感謝の言葉を好むはず。


 そうね、ここを出たらタケル君にちゃんとお礼を言わなきゃ。彼とこれからもずっと一緒にいたいの。

 気が付いたら私って彼のことばかり考えていて、いつの間にか私の頭の中はタケル君のことでいっぱいになっちゃった。

 私ってこんなに惚れっぽかったかしら?


 袋小路でちょっと休み集中力を取り戻せたのもあり、私はギフトショッピングを発動させたわ。目的は回復ポーションと解毒薬を手に入れて、タケル君を助けること。


 ふと周りを警戒してくれているタケル君の顔を見て私は微笑んだ。彼は私の味方。二人で信頼し合って支え合ってきた。

 そして彼の手を握ったの。


「大丈夫、生きて帰るわ。タケルとならなら頑張れるもの。」


 そう言うとタケル君は頷いて強く手を握り返してくれた。

 彼の手は大きく力強い。アーチェリーをしているからか指の感じが他の人と違うけど、がっしりとして男の子なんだなって、胸がキュンとなったの。

 他の人と言っても、男の人の手を触ったのはお父さんと兄貴のしかないけど明らかに違うわ。


「ありがとうシズク。君がいるから怖くないし、俺は強くなれるんだ」


 彼のまっすぐな目が私に勇気をくれる。限界が近づいているけど、他に選択肢があるわけもなく小休止を挟んだ後、私たちは再び進み出し何とか魔物を倒しながらダンジョンの奥へ奥へと進んでいったわ。


 疲れから?集中力が落ちたのか、私の背後に魔物が忍び寄っていることに気が付くのが遅すぎた・・・


【タケル視点に戻る】


 俺はしまったと焦りつつシズクを押しのけ、ギリギリのところで魔物が繰り出した槍をナイフで受けたが、直撃こそしないまでも俺は吹き飛びシズクの悲鳴と俺のうめき声が洞窟に響く。


 俺はお返しといわんばかりにその魔物、オークの上位種にナイフを投げ付けると、怯んだ隙にブラックジャックで吹っ飛ばした。

 さらに矢を出す暇ができたので、眉間を射抜いて仕留めてやった。


 その時、オークの親分であるオークジェネラルが現れた。上級冒険者でもパーティー戦でなんとかなるかどうかの相手だと知るのは後のことだ。


 だが、俺は一目でヤバイと思い、背筋がぞくっとした。流石にこれまでかと、死の予感が頭を過る。


 今の状態からもう最後かもしれないとシズクを見たが、彼女は驚きと恐怖で顔を歪めており、俺は苦笑いをすると覚悟を決め、最後の願をウィッシュに託すことにした。

 もちろん最後にしたくはないが。


 その瞬間、俺の意識は高度なシステムとの対話に切り替わった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る