第8話 マウス・トゥ・マウス
【シズク視点】
このダンジョンはまるで私たちを殺しにかかっているみたい。
召喚されたばかりなのに、こんなところに連れてこられたなんてひどすぎるよね。
私たちは何も知らないままこの世界に来て、更にこんな危険なところに放り出されちゃったんだから。
私たちが何をしたって言うのよ!
と言っても何も解決しないのだけれどもね。
段々と下に向かって道が進み、私は槍を手にタケル君の隣にいたけど、突然彼に押しのけられたの。つい「きゃっ!」って悲鳴を上げて尻餅をついた。はっとなり上を見たら、ぞっとするような魔物が天井いっぱいに手足を広げてくっついていたの。気持ち悪いわ。
タケル君がすぐに矢を放つと魔物の額に当てたわ。流石インターハイ2連覇の実力。それとすごい矢だったわ。魔物の頭がバキバキと音を立てながら破裂し、血とか脳みそとか飛び散ったの。この矢はこのダンジョンで魔物に刺さって進化したもので、強烈な衝撃波を発生させる力があるの。
でも、魔物が死んだと思った瞬間、魔物が最後の力を振り絞ってタケル君に向かって長細い何かを射出し、それが腕に直撃したの。タケル君は矢を放った後の隙でまともに動けなくて、辛うじて頭をガードしたわ。そしてタケル君の腕に刺さった物を見たら、細い針みたいなのが刺さっていて、そこから黒い液体が垂れている。
間違いなく毒を帯びている魔物が、尾を針状にして放った毒矢のようなものね。このダンジョンの魔物の中には毒を持っているのがいて、刺されたらすぐに死んじゃうの。井口君と和田君も毒で死んだのよ。あの女、必ず殺してやる!
「タケル!」
私は悲鳴をあげてタケル君のところに走ったの。といっても数歩の距離。タケル君は苦しそうにしていたけど、まだ目は開いてたわ。私は生きていることに安心するも、これ不味いわねと焦ったの。毒が回っちゃう前になんとかしなきゃ。
「大丈夫、大丈夫。すぐに治してあげるからね」
私はタケル君にそう言って安心させようとしたわ。いえ、これは多分自己暗示よ。パニックになりそうになったら、とにかく【大丈夫】と口に出しなさいと親戚がやっている薙刀教室で教えてくれたの。不思議なことにタケル君が死にかけているのに冷静になり、やらなければならないことを粛々と行えたわ。
ポケットから魔石を出して、私の【ショッピング】スキルを使うためにポイントに替える。
槍に着けると攻撃力が上がるから全ては使わなかったけど、今はポイントにして解毒薬を買わなきゃなの。私は必死になって解毒薬と回復ポーションを探したわ。時間がない!タケル君の毒が全身に回って命に関わる前に解毒薬を見つけなきゃ。私の【ショッピング】スキルは、魔石を消費することで、必要なものを購入できるけど、このダンジョンでは魔石がとても貴重で、中々手に入らないの。だから万が一のためにポイントに変換せずに魔石を持っていたの。これまでのポイントは武器の購入で消えたわ。
タケル君は私のやっていることを見ていたわ。彼は腕に刺さった毒針を見て、それを抜かなきゃって思ったようね。私には無理だけど、痛そうにしながら彼は自分の腕に刺さった針を引き抜いて、毒を絞り出そうとしたの。彼は私に迷惑をかけないように自分でできることをしようとしたの。しかも呻き声すら上げずに。彼のその姿に私はキュンとなり、もっと好きになったわ。私はタケル君に恋をしてるの。タケル君に言いたいことがいっぱいあるのよ。彼は確かに見た目はパッとしないけど、実は練習をしているのを見たことがあるけど、野性味を帯びたその鋭い眼光に私のハートは射ぬかれていたわ。
時折教室でタケル君からの視線を感じるわ。私に気があるのかしら?告白してきたらお試しでお付き合いしても良いかなって思っていたけど、私の思い違いだったのかな?そう思っていたけど、小休止の時の話だとどうも私が兄貴と買い物をしていたのを見て、彼氏と勘違いしていたことが判明。だから告白して来なかったのかな?確かに見た目だけなら兄貴の方がイケメンね。
いや、そんなことはどうでも良い!今は生き残ることが先なのだから。
「これよ!」
私はやっと解毒薬を見つけたのでつい叫んだわ!。もちろん即時にポチってタケル君に飲ませようとしたけど、意識を失ってたの。
私はパニックになりそうになり、涙を流しながら解毒薬の瓶をタケル君の口に当てて飲ませようとしたけど飲まない。こうなったら口移ししかないと思うも、キスなんてしたことない私は恥ずかしさから真っ赤になったけど、これは人工呼吸みたいなものだからノーカウントだって思うことにしたわ。
それにタケル君がファーストキスの相手なら良いかなって思うのもあり、決断したわ。
だから解毒薬とお茶を口に含んで、タケル君の口にそれを流し込んだの。
でも口の中にあるだけで飲み込まない。
汚い手でごめんなさい!と思いつつ口に手を突っ込み、喉を押し開けて無理矢理飲み込ませたの。
半分くらい口からこぼれたけど、ある程度飲んだかしら?
様子を見守っていたけど、タケル君は段々と苦しまなくなって呼吸が落ち着いてきたわ。
どうやら彼は助かったわ!
「ありがとう」
そして彼が言った弱々しいその言葉に、私は嬉しくて泣いちゃったわ。
「心配したわよ!」
って私もそう言ってついタケル君をぎゅっとしたの。
ちょっと恥ずかしかったけど、はっとなり最初に買った回復ポーションをタケル君に渡すと直ぐに飲んだけど、ふらついていたわ。
タケル君が戦えなくなったことは私たちにとってすごく辛かったけど、私がもっと強くならなきゃって思う機会にもなったの。
タケル君の怪我は私たちの仲をもっと深くしたの。このダンジョンで私たちはお互いのことをもっと大切に思うようになったし、この試練を乗り越えたら私からタケル君に彼女にしてと告白するわ!
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