第7話 武器購入
先を進むにつれ道がどんどん狭くなっているのと、気のせいではなく、間違いなく下り坂になっているのも気になる。
魔物の気配が増え、瘴気というか、圧というのか、表現が難しいが存在感が強くなっているのが分かる。
しかし、静寂に支配されたダンジョンで耳に入るのは自分たちの足音だけだ。重苦しい空気に圧されて俺はため息をついた。
「やっぱり下っているよな・・・」
俺は自分に問いかけるように呟いた。でもさ、まあ答えは分かっているんだよ。今さら引き返すことなんてできないし、この道しかないんだ。
「そうよね。確かにここで引き返しても意味がないと思うし、きっとこの先に未来があると思うわ」
シズクが俺の隣に並んで歩きながらそう言ってくれた。心配させまいとしていたのに、俺のつぶやきはしっかり聞こえており逆にフォローされてしまった・・・シズクは今の俺にとって全てであり生きる希望だ。
もしシズクが死んでしまったら俺は発狂するだろうと思う。
シズクのギフト【ショッピング】が使えるようになって一時的に救われた気がした。回復ポーションがあるだけでも精神的にかなり違う。でもね、戦闘のたびに魔物が強くなっているのは事実なんだ。
現実は厳しい。
シズクも戦ってくれるけど、彼女には無理をさせたくない。俺が守らなきゃいけないんだ。
でも、今はシズクの援護がなければ魔物を倒せなくなってきたのもあり、ちゃんとした武器が必要だと確信した。
魔石は今後のことを考えるとそれなりの数を手元に置きたいが、数が増えると持ち運ぶのも大変だ。
それに俺の弓とブラックジャックを持っただけのシズクだけじゃ戦力が足りない。
今まで避けて来たが、シズクにもガッツリ戦ってもらうしか生き延びられそうにない。
「そうよね。でも、どうやって武器を手に入れるの?この世界の武器屋さんに行ってもお金がないし、言葉も通じない?そもそもこんなところにお店なんて無いわよ?」
シズクが困った顔をしていたが、あれっ?と思う。俺の呟きはしっかり聞こえてしまっていたらしく、シズクの能力は、スマホの画面に表示された商品を魔石により変換されたポイントと交換することで手に入れることができるんだから、そこで買えば良いのにと思ったんだ。
ひょっとしてテンパっていて、正常な判断がしにくいのかな?なら指摘せずにスルーして誘導しようかな。
「そうだな・・・じゃあ、また袋小路を見付けたタイミングでさ、シズクのショッピングで武器をゲットしようか?ブラックジャックやベルトでは牽制程度にしかならないからね」
俺はそう言って自分の持っている武器を見た。それはこの世界に来る前に持っていたアーチェリーだ。
でも、これじゃあ強い魔物には歯が立たない。魔物に刺さって霧散した時に変質した矢でしかダメージを与えられない魔物が現れたんだ。しかも一本じゃあ足りず、二本、三本と刺さらないと死なない個体も出てきている。先に進むに連れ、明らかに魔物が強くなっていた。
貫通力が高いはずだが、点の攻撃では簡単に死なない。
例えば心臓又は心臓に変わる器官が複数あったり、心臓を潰しても数分動くことが可能なのが居てもおかしくない。異世界だしな。
そうと決まれば(何があるか分からないので)最小限の魔石だけを残す形にし、殆どの魔石は【ショッピング】のポイントへと変換した。
「さて、何を買おうかな?」
シズクがスマホを操作して武器のカテゴリーを開いた。地球で遊んだゲームの知識を頼りに兵器を探すが、それほど簡単な話ではなかった。
「これはこの世界に存在している物しか表示されないみたいよ。この世界の弓と矢はあるけれど、日本で売っているアーチェリーの弓と矢はないわね」
シズクは残念そうに言ったが、自身の装備よりも俺の為にアーチェリー用の矢を補充しようと考えてくれたのだ。良い子過ぎる!
「そうか・・・じゃあ、剣とか斧、槍とかそういうのはないの?」
俺は敢えてシズクのとは言わずにそう提案した。
俺は素手の間合いに入られた時用の剣や斧などの近接武器に興味があったけど、訓練をしていないから使えるかどうか分からない。だけど無いよりは生き残る可能性が高くなるだろう。
それでも辛抱強く探し続けた末、シズクの目がとある武器に止まった。
「魔鋼鉄の槍…これ、いい感じじゃない?」
一本の槍がスマホの画面に映し出された。それは頑強そうでありながらある種の優雅さも備えていた。
「おお!それは良さそうだね。長さと重さはどうなっているの?」
俺は興味を持ち、シズクのスマホを覗き込むと槍の詳細が表示されていた。
「長さは二メートル、重さは三キロ。魔石を埋め込むことで魔力を増幅させることができるって」
シズクが商品の詳細を読み上げた。
魔石を消費すると一時的に強度や攻撃力が上がるらしい。
それと今のポイントで買える上限に近い。
彼女はこの槍が自分に合っていると直感が告げていると呟いた。どうやら親戚の家が薙刀の道場を営んでいて、長柄武器の扱いに少しは慣れていた。それに(シズクが使う場合)長柄の武器は俺のアーチェリーと相性がいいと思った。
「じゃあ俺の武器もお願いしようかな」
シズクはショッピングのギフトを使って魔鋼鉄の槍を購入し、引き続き俺がリクエストした大型のナイフを呼び出した。
それはコンバットナイフのような大きさの刃物で、俺はそれを手にしたとき、確かな手応えを感じた。
「やばいな!ますますチートだよな・・・素晴らしい!シズク、ありがとうな」
「気に入ってもらえたなら嬉しいわ」
俺は半ば呆れたようにそのナイフを手にし、シズクも槍を振ったりして感触を確かめていた。
新たな武器を得た俺たちは、二人が力を合わせれば、この先立ちはだかる困難も乗り越えられるのではないか、そんな希望を持てるようになった。
その後、数分の検証で確定したのはこの世界に存在している物しか表示されないという事だ。この世界の弓と矢はあるが、アーチェリーの弓と矢はどう見てもなかった事から確定したのだ。
それと銃の類がないことを考えると、この世界は魔法が使えることから武器に関しては余り発展していないのかな?銃があればシズクがもっと戦えるのにと少し残念に思う。
武装を新たにした俺たちは、再び未知との戦いへと歩を進める。しかし、何よりも例えこの世界のルールが厳しくとも、二人で力を合わせることが生き延びるための最良の策であるという認識を共にした。それはいわば俺たちなりの絆であり、この世界を生き抜くための「光」でもあるのだから。
武器を手にしたシズクの参戦から危なげなく戦えるようになった。
これまでは俺の前に迫った魔物を、シズクがベルトを鞭の代わりに振るって牽制し、スピードが緩んだ隙に俺が二本目か三本目の矢を射て倒していた。
時折攻撃が当たる間合いに入られ、シズクがブラックジャックで転倒させていたりしたが、ギリギリのタイミングで余裕はなかった。
親戚の薙刀の道場で少しかじっただけだったが、それでも初めて握る槍を手に、矢を射る俺の援護を的確にしてくれた。
お陰で狙いを付ける時間がごく僅かながら増え、外すことがほぼなくなった。
一見順調に進んでいたかのように見える俺達だった。しかしその時は唐突的にやってきた。
天井に張り付いている魔物に気が付いただが、ひょろっとしており長細い手足で天井に張り付き、長い舌をチョロチョロとさせていてとてもキモい。
俺は『やばい!』と、直感から迷わずシズクを突き飛ばし、魔物の視界からシズクを遠ざけると、間髪入れず矢を射た。
シズクから短く「キャッ!」と悲鳴が聞こえたが、矢を射たのはシズクが立ち上がる前の事だ。
魔物の額を矢が射抜いたので霧散し始めたが、そいつは矢が刺さる直前に俺に向け長細い何かを放った。
その針状の何かは、矢を射た後の僅かな動きの隙に、俺の方へと向かって来たのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます