第3章「猿飛 鞠」ー1

 ―― 好意を抱いている殿方の“ぬくもり”を頂戴すること


 こう言うと、お色気ムンムンのくノ一が入浴したり、あんなことやこんなことをしている光景をご想像される方も少なくないだろう。

 残念ながら……未成年のくノ一が、好意を抱いている殿方と“まぐわい”をすると、刺激が強すぎて“チャクラ”が暴走し大変なことになってしまうので禁忌とされている。

 では、どのように“ぬくもり”を得るのかと言うと、一つは、お互い着衣の状態のままでハグをする。ふたりが恋人同士であれば容易いことかもしれないが、そうでない場合、この方法は使えない。となると、残された方法は、意中の殿方の脱ぎたての衣服の“ぬくもり”を吸収するしかないのだ。美影は密かに、男子バスケットボール部のエースで部長、切れ長の目がクールでセクシーなイケメンで女子生徒の間でファンクラブもあるほど人気の徳川とくがわくんに想いを寄せている。つまり、男子バスケットボール部に侵入し、徳川くんの脱ぎたての衣服を着用しヨダレを垂れ流しながらフンガフンガと彼の匂いを嗅がなけれならないのだ。


 この方法は、非常に危険だ。このことが誰かにバレSNSで晒され拡散されれば、美影は “変態”として、社会的な“死”を受け入れなければならない。


(慎重に且つ迅速に。徳川くんのぬくもりを頂戴せねば!)


 男子バスケットボール部員と徳川くんのファンの女子生徒たちが体育館へ向かって移動したことを確認すると、美影は、父が発明した“忍び七つ道具”のひとつ“ワンタッチ☆くノ一さん”のボタンを押し、紫色のミニスカート丈の着物に網タイツ、黒の額当てというくノ一スタイルに変身した。



「徳川くんのロッカーは……ここね……」


美影は、徳川くんのグレーのニットをロッカーから素早く取り出し、少しでも彼のぬくもりが残っているうちに着用しようとした、と、その時、人の気配を感じ取った。


(この気配……只者ではない……同業者の匂いがする……)


「何奴? 乱っ波か?」

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