第1章「服部 美影」


(クッ……朝から少々飛ばし過ぎたか……今日一日“チャクラ”が保つかどうか……)


 ぱっつん前髪に黒髪のストレートのロングヘアーの美少女は、女子高生が身につけるにしては少々ゴツい腕時計のボタンを押して蓋のようなものを開き、レーダーのようなものを確認しながら、


「すでに、30%をきっているか……」

 と独りごちた。


 これは、発明家である彼女の父が、彼女の体内のチャクラ残量を測定し数値化してひと目で解るように創ってくれた“忍七つ道具”の一つだ。


“チャクラ”とは、忍が術を発動する時に必要なエネルギー、と、ここでは定義しておこうと思う。


 そして“チャクラ”の残量を気にしている彼女こそが、今朝のスクランブル交差点の大惨事を未然に防いだ救世主……


 伊賀の“抜け忍”の末裔のくノ一。服部美影はっとり みかげだ。


 彼女の高祖である、服部飛丸はっとり とびまるは伊賀の里の上忍の中でも飛び抜けて腕の立つ忍であったが、元来、温厚で平和主義な性格であったため、暗殺や謀略など、血で血を洗うような毎日に嫌気が差し“抜け忍”になったという。勿論、裏切り者として追っ手に追われたが、のらりくらりと躱しながら、人里離れた土地で天寿を全うしたとされている。


 その血は密かに途切れることなく引き継がれ、現代に至る。時代の変遷に伴って、忍の置かれる立場も役割も変わってくるのは至極当然のこと。高祖の服部 飛丸の末裔である彼女の使命は“人助け”。高祖の温厚で平和主義な性格が末裔にまで受け継がれているということだ。因みに、美影の母、千影ちかげもくノ一である。


 そして、美影の表の顔は「都立御忍高校とりつおしのびこうこう」の生徒会長だ。


 くノ一である彼女が、その身を隠しながら“生徒会長”として女子高生生活をやり過ごすには、それ相応のリスクを伴う。


 そして、この日、御忍高校入学以来最大の危機が彼女に襲いかかろうとしていた。

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