第14話 花言葉1「優しさ」
部屋に戻った私は泣きながら手早く鞄に必要なものを詰め込んでいた。
「ふ……うっ……」
(なんでこんな……こんな風になってしまったの)
いずれこの家を出て行くつもりだった。兄への気持ちが暴走する前に兄から離れるために順を追って家を出て行くことを兄に認めてもらうつもりだった。──それなのに……
(一番最悪な形で出て行くことになるとは……)
兄に気持ちを伝えるつもりなんてなかった。だけどそんな決意は脆くも崩れてしまった。兄の妹扱い発言でいとも簡単に崩れてしまったのだ。
(あぁ、やっぱりあの時……何が何でもひとり暮らしするべきだった)
今更しても遅い後悔を何度もして、最悪な気持ちのまま荷造りしているといきなりバン! と乱暴な音が耳に届いた。
「?!」
驚きながら開かれた部屋のドアを見ると其処には兄が立っていた。
「──何をしている」
なんの感情も読み取れない声音に訳の分からない畏怖を感じた。
「清子、何をしている」
「な、何って……家を出て行く準備を──」
「誰がこの家から出て行くことを許した」
「!」
いきなり大股で部屋に入って来た兄は私の腕を取りそのまま傍にあったベッドに放り投げた。そして間髪入れず私の上に跨った。それはまるで先ほど私が兄に対してとった行動の再現だった。
今度は私が兄に組み敷かれているのだ。
「お、お兄ちゃん?!」
「いいたいことだけ言って勝手にいなくなろうとするな」
「……え」
「ちゃんと俺の気持ちも訊け」
「……ど、ういう……意味」
突然の展開に頭の中が真っ白になった。兄の言葉にまともな思考が出来ないでいる。 だけどそんな私に構わずに兄は言葉を続けた。
「清子は俺を兄として見ていなかったのか?」
「っ、そんなの……そんなの見ていたに決まっている」
「でも普通兄に対して好きという気持ちは抱かないだろう」
「そう……かも、知れないけど……でも……」
「……」
「でも気が付いたら好き、に……なっていた」
「……」
「お兄ちゃんとして好きだったけど……だけど段々お兄ちゃんというだけの好きじゃなくて、ひとりの男の人として恋人同士がすることが出来る関係になりたいって……思うようになっちゃったんだよ」
「……」
「でもその原因はお兄ちゃんにあるんだよ?! お兄ちゃんが私に甘過ぎるから」
「……」
「自分のこと、犠牲にして私のために色んなことを諦めて我慢して……働いたり家事したり……彼女だって作っていなかったみたいだし」
「……」
「そんなお兄ちゃんがずっと傍にいたら……いたから私っ」
「──そうか……俺のせい、か」
「……え」
兄の発した言葉の意味を考えている間に目の前に兄の顔が間近に迫っていた。
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