第13話 花言葉1「優しさ」



きっかけは些細なことだった。普通の家庭にありがちな、双方の意見の違いから言い合いになった口喧嘩だった──はずなのに……



『ずっと、ずっとずっとずっと前からお兄ちゃんのことが好きで……好きでしょうがないの!』


『私の好きっていうのは兄として好きじゃない好きだよ! 男として……えっちなことをしたいっていう意味の好きなんだからね!』



それはずっと隠して来た、言ってはいけない私だけの秘密だった。


実の兄に恋するなんて普通の人がすることじゃないと解っているからこそ、その現状を何とかしたくてずっともがいて来たのだ。


兄じゃない人と恋をして、結婚しようと──そう思って頑張って来たのに……


(今までの苦労が一瞬にして台無しになった!)


長年の秘めた恋心がとうとう爆発してしてしまった私は兄の上に跨ってどうすることも出来なかった。


妹である私からそんな気持ちの悪い告白を受けた兄は一体何を思っているのか。何ともいえない表情でただ私をジッと見つめているそこから兄の心情は窺い知れない。


「……清」

「っ!」


しばしの沈黙の後、ようやく兄が口を開き何かを言おうとした瞬間、兄からの言葉を訊きたくなくて素早く兄から退いた。そして捲し立てるように弁解する。


「き、気持ち悪いことを言ってごめん! だけど……そういう訳だから私はお兄ちゃんの傍にはいられない! だから私はお兄ちゃんとは離れて暮らす」

「……」

「こんなの……もう一緒になんて暮らせない。私が……私が辛過ぎて……いられない」

「……」


押し倒されていた体を起こしソファで私の言葉を訊いているだろう兄の顔が見られない。視線を兄から外したまま吐露し続ける。


「だからこの家を出て行く。お兄ちゃんと離れる。そしてちゃんとお兄ちゃん以外の人と恋して……結婚するから」


それは私にとって身が引き裂かれるような辛い宣言だ。


今はまだそんな気持ちには全然なっていないけれど、兄と離れて暮らせばきっとそういう気持ちになるだろうという期待や希望を込めた言葉だった。


「……じゃあね。私、支度があるから」


一刻も早くこの家から出て行くための準備をするためにリビングを出て自分の部屋へと向かった。


その間兄の顔は全く見られなかった。だってどんな顔をしているのか怖くて見られなかった。




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