第12話 花言葉1「優しさ」



「そんな訳の解らない金持ちの男の家に住んだらおまえ、どんな目に遭うか解らないのか?!」


私の腕を取って兄は鬼気迫る顔で睨んだ。


「会ったばかりの、何も知らない女を家に住まわせるなんて普通じゃない。そんなの下衆な下心があるとしか思えないんだよ」

「……」

「そんな見え透いた状況におまえを──可愛い妹を放り込める訳ないだろうが!」

「!」


(可愛い……『妹』)


兄が私のことを心配してそう言っているということは充分に伝わっている。


怒鳴られるのは怖いけれどそうさせているのは私のことを……妹である私のことを大切にしてくれているからだって解っているはず、なのに──……


(そういうのが……辛い!)


「っ、清子?!」

「~~~っふ」


顏が熱い。眼球の周りが痛いくらいに熱くて堪らない。そうして気が付けばボロボロと止め処なく涙を流していた。


「さ、清子、なんで泣いて」

「も……だ」

「え」

「も……もう……ヤダ」

「清子」

「もう……もうもうもう、限界だよ!」


脳内で我慢の沸点が超えてしまった私はまともな精神状態を保つことが出来なくなってしまった。そしてその不安定さのままに兄をソファの上に押し倒していた。


「…!」

「ずっと……ずっと我慢、して来たのにっ」

「え」

「言っちゃいけないって……悟られちゃいけないって……ずっとずっと我慢して来たのに!」

「……」

「私をこんな風にしたの、お兄ちゃんのせいなんだからね!」


兄を組み敷いたまま口から出る言葉にブレーキを掛けることが出来なかった。


(もう……いい、もういいんだ!)


もういっそのこと本当の気持ちを喚き散らして嫌われてしまえばいいと思った。


──だから私は


「清──」

「好きなの!」

「!」

「ずっと、ずっとずっとずっと前からお兄ちゃんのことが好きで……好きでしょうがないの!」

「……」

「私の好きっていうのは兄として好きじゃない好きだよ! 男として……えっちなことをしたいっていう意味の好きなんだからね!」

「……」


勢いに任せて馬鹿正直に本心を吐露した。


そんな私を下から見つめていた兄の表情からは何を思っているのか到底読み取ることは出来なかった。




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