第11話 花言葉1「優しさ」
話を訊き終えた兄の顔は明らかに不信感溢れる表情になっていた。
「なんだ、それは」
(まぁそうだよね、そんな顔になっちゃうよね)
「断れ」
「え」
「そんな得体のしれない金持ちの家でお手伝いなんて……しかも住み込み? あり得ない!」
「……」
「考えるまでもなく断る案件だ」
「……」
兄が憤るのはよく分かる。誰が訊いてもこんな話、怪し気なものとしか聞こえない。──だけど
「もっといい就職先が見つかる。それまではのんびりと──」
「私……決めたよ」
「え」
「私、蓮条院家で住み込みで働く」
「!」
そう、私は既に決めていた。例えこの話が胡散臭いものだったとしてもとりあえずこの家から……兄の元から離れることが出来るのならそれに乗ろうと。
「清子、おまえ何を言っているのか分かっているのか」
「分かっているよ。この家を出て住み込みで働くって言っているの」
「だからそれがどういうことか解っているのかって訊いているんだ!」
「っ!」
今まで聞いたことのない、声を張った兄の強い口調にビクッと体が撓った。
(なんで……なんでそこまで反対するの?!)
以前、就職する際に『ひとり暮らしをしたい』と言った時も反対されたけれどここまで声を荒げられたことはなかった。
『清子にひとり暮らしはまだ早いよ』
『おまえ、ちゃんと家事出来るのか? 出来ないだろう。俺が教えてやるから出来るようになってから考えるんだな』
『清子は世の中の怖さを解っていない。女の子のひとり暮らしなんて怖いことしか起こらないぞ』
なんて脅し半分、且つやんわりと反対された。
なのに今回は──
「俺は反対だからな」
「なんでよ! ひとり暮らしじゃないんだよ、住み込みだよ? 私の他にも一緒に住んでいる人がいるんだよ。ひとり暮らしするよりもよっぽど安心──」
「だから余計に
「!」
兄のその表情は初めて見たものだった。ちょっとした喧嘩をして怒らせた時の顔でも私が悪さして叱る時の顔でもない表情。
なんといって形容すればいいのか分からない怖い顔をして続けた。
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